怪・その37

「『開けてちょうだい』」


今から50年近く前、
私が幼稚園に通っていた頃のことです。

当時、わが家は1階に母方の祖父母、
2階に両親と私、弟が住む
二世帯家族でした。

ある晩、2階の居間で絵本を読んでいると、
階段に続く廊下と居間を仕切る
ドアの向こうから

「開けてちょうだい」

と声がしました。

祖母が両手に何かを持って
上がって来たのだと思った私は、
急いでドアを開けました。

しかしそこには誰もおらず、

明かりもついていない

真っ暗な状態でした。

聞き間違いかと席に戻ると母が、
「あら、おばあちゃんは?」。

声は、母にも聴こえていたのです。

それから数日後、祖母が私に尋ねました。

「昨日の夜中に、
おばあちゃんのところに来た?」

祖母が寝ていると、

「おばあちゃん、カギちょうだい」

と私の声がしたそうです。

こんな夜中に子どもを待たせては、
と寝ぼけまなこで
「はいはい、どこのカギ?」
と飛び起きたけど、

誰もいなかった。

もちろん、私ではありません。

あれはいったい、誰が、

どこへ行こうとしていたのでしょうか?

数年後、外階段溶接工事の失火で家は全焼。
人的被害はありませんでした。

しかし現場写真の1枚に、
見知らぬ女性の顔が写ったので
地鎮祭は念入りにやった‥‥、

という事実は、もっと大きくなってから
母が話してくれました。

よくよく聞くと、顔が写ったのは
元の家の2階の玄関で、
建て直し後の私の部屋でした。

その事実を知る前から、
私はラップ音と金縛に悩まされ、
自分の部屋が好きではありませんでした。

(S)

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