おさるアイコン ほぼ日の怪談

「重み」

中学生のときのことです。
部活の合宿で東北のある旅館に泊まりました。
元気よくあちこちを観光してまわり、
疲れて寝入った夜のことです。

突然、胸のあたりがずしりと重くなり、
私は目が覚めました。
手も足も動かせません。
声も出せません。
「ああ、今日は疲れたから金縛りになったんだな。
 そういうことってたまにあるよな」
と自分に言い聞かせてまた眠ろうとしたのですが‥‥
胸の上の「重み」が、ゆっくりと首の方へと
移動してくるではありませんか。

そのうち、その「重み」は私の喉元へと到達し、
次第に私は息苦しくなってしまいました。
怖くてなかなか目を開けられませんでしたが、
あまりの息苦しさに
ついに瞼に力をこめてそれをこじ開けました。

しかし、そこには誰もいません。
何も見えません。
隣の布団では友達が、静かな寝息をたてています。
「ああ、やっぱりただの疲れからきた金縛りか。
 単にちょっと息苦しいだけなんだ、
 気のせいなんだ」
と安堵した、その瞬間。
耳元でしわがれた囁き声が‥‥

「もうすぐ息が止まるよ」

人生30数年。
恐怖のあまり気絶したのはあの時だけです。

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