「痕」
小学3年生の頃のことです。
某遊園地の幽霊屋敷へ友達三人で入りました。
室内はかすかに明かりがついているだけで、
薄暗くてじめじめしていました。
仕掛け自体はいきなり大きな音が出たり、
壁から人形が出てきたりするだけで
怖くは無いのですが、
部屋‥‥いや、建物全体の雰囲気が気味悪くて
一刻も早くここを出たい、という気分に
掻き立てられました。
だんだん気分が悪くなってきて、
歩くスピードが速くなりました。
一方、友人は全く怖くないらしく、
口笛まで吹いてぼくの後をゆっくり追って来ます。
そろそろ終わりかな‥‥と思った頃、
案の定「もうすぐ出口です」という
看板が見えました。
僕はほっと一息して
さらに足のスピードを速めました。
すると、いきなり左肩を誰かに、
ぎゅっと捕まれたのです。
一瞬かなり驚きましたが、
友達のいたずらだと思い、無視して歩き続けました。
しかし、例の手は
いっこうに力を緩めてくれるどころか、
もの凄い力で肩を締め付けてきます。
僕はついに癇癪を起こして
友達に「悪ふざけはよせよ!!」と怒鳴りました。
‥‥しかし何の反応もありません。
様子がおかしいと思い、振り返ろうとしました。
が、体に力が入りません。
その間にも肩を掴む手の力はどんどん強くなり、
肩に感覚が無くなっている事が分かりました。
このままではマズイと思い、力の限り走りました。
それでも肩は掴まれたままです。
無我夢中で走っていると前方に光が見えました。
必死にその光に向かって走り、
転がるように出口から出てきました。
その時の僕は全身汗だくで、
顔は真っ青だったそうです。
友達は、かなり後から出てきました。
ぼくが余りにも速く歩いていってしまったので
マイペースに歩いてきたそうです。
僕は帰りの電車の中で気持ち悪くなり、
家に電話して親に車で迎えに来てもらいました。
あのとき掴まれた肩の感触は一生忘れられません。
その事件以来、二度とおばけ屋敷には
入らないようになりました。
僕の肩にはまだその時掴まれた痕が残っています。 |