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少し前の日本に、
森下圭子さんというひとりの学生がいました。
その子はムーミンが大好きで、
「本場で研究するのだ!」
と、単身フィンランドに渡ります。
性に合わなかったら
すぐに帰ってくればいいや。
それから10年。
今ではヒルトゥネンという新しい姓になって、
しっかりとフィンランドに
根を下ろしています。
ムーミンから始まって、
その作者のトーベ・ヤンソン、
そしてヤンソン的スピリットを持った
フィンランドのアーティストたちへと、
彼女の興味は尽きるところを知りません。
そんな圭子さんが綴るフィンランドな日々。
クリスマスにかこつけてスタートします。 |
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【第1回 サンタだらけの国から】
北極圏のラップランド。冬は陽がのぼりませんが、
こうして陽が近づいてくると
わずかに一帯が明るくなります。
青のグラデーションが一日の景色を覆う。
サンタの国からはじめまして。
サンタの国は地球の北のほうにいくつかありますが、
私が住んでいるのはフィンランド。
普通に「サンタです。また後で電話します」
なんていうメッセージが入っていたりします。
サンタさんの口ききで
アパートを見つけたりもしちゃいました。いいでしょ。
真夏、郵便局でふと横をみると
サンタが突っ立っていたりします。緑のポロシャツで。
ご近所さんなので
四季折々のサンタを目撃してしまうのですが、
サンタっぷりがすばらしい。
スペインのビーチで海パン一丁のところでも、
「サンタだー」
と地元の子供たちに追いかけられるそうです。
というわけで、私はこのサンタさんといい、
やっぱりサンタはフィンランドに限る! と思ってます。
サンタの故郷ラップランドから、メリー・クリスマス!
フィンランドで過ごしてきたクリスマス、
いろんなことを思い出します。
この日は特別な一日。
市内の交通網は途中から完全に止まってしまいます。
初めての本場のクリスマスに高熱。
一人で寝ていようと思っていたのですが、
25歳の私に向かって
「クリスマスイブに一人でいるなんて絶対だめです。」
と言いながら、この年上の女友達は
お父さんと一緒に車で迎えに来てくれたのでした。
「サンタさんがプレゼントを置いていってくれたよ」
なんていってプレゼントをくれたりね。
評判が悪かったのかワンシーズンで姿を消した
「赤鼻のトナカイトラム」。
日照時間が短く、人々がぐったりしている冬の中、
すっごく浮いています。
大人だってこんな調子。
子供はどうなるのでしょ?
小さな子供が二人いる家族、
そんな知人の家で迎えたクリスマスイブの朝。
玄関の前には小さなぬいぐるみが置いてありました。
「小人、小人だよ、こびと、コビト、
コビトが来てくれたんだあ!」
と家の中をギャーギャーいいながら走る子供。
「あ、小人の合図ね。ほら、ちゃんと見てるのよ。
いい子にしていないとサンタさんに言われちゃうからね。
いい子にするのよ。」
とお母さんは必死でなだめています。
赤いトンガリ帽をかぶった小人は
サンタのお手伝いをしています。
サンタに知らせるために、こっそりどこからか
子供たちがいい子にしているか見てるのですよ。
朝からサンタの前触れがくれば
いい子にしていられるはずがありません。
とりあえず、ふと思い出しては
お母さんやお父さんのお手伝いをしていたりしますが、
もう頭はサンタさんに会うことでいっぱい。
一日中が夜ってくらいに日照時間が極端に短い日。
窓から外を眺めていると
何かがキラリと光ったように見えたりします。
頭も心もただならぬ状態なので
「いま目が合った!
小人が外から眺めてる! 僕見ちゃったよ!」
なんてことにもなります。
クリスマスイブの夜はサンタさんが家にやってきます。
プレゼントはサンタの袋にどっさり。
さて、サンタさんが袋を開けてくれるには
お約束があるんです。
サンタのために歌って踊るの。余興ね。
余興とはいえ、べつに鳩を出したりして
びっくりさせる必要はないです。
伝統あるクリスマスらしく、
昔から歌われているサンタの歌や踊りで大丈夫。
ふと思った。
フィンランドの人って
恥ずかしがりのもじもじさんが多いから、
これはよく考えられた、人前で何かを発表する練習?
文化の知恵? でしょうかね。
サンタ登場。子供えらく緊張中。
考えていた質問もすべて忘れて、
あとはサンタに聞かれるがままに。
サンタっぷりの素晴らしいサンタさんもいますが、
多くの家庭では近所のおじさん、
お友達、家族の誰かがサンタに扮します。
当然ながら「え、お兄ちゃん?」ってことがあったり、
「今日は隣りのおじさんがサンタさんだったね」
なんていう痛い指摘があったりも。
が、どうも子供たちの多くは
「今回は○○さんだったけれど、
5歳の時に来てくれたサンタさんは本物だったよね。」
なんて感じで、どんな偽者が登場しても
自分の心の中にゆるぎない
「あの時のサンタ」っていう本物がいるようですよ。
あとは素朴な国民性らしく、
お父さんがサンタになっているのに
全く気付かない子供っていうのもいます。
毎年お父さんは
「ちょっと出かけてくる」と言っていなくなり、
間もなくサンタがやってくる。
サンタが帰ると
「お父さんまた今年もサンタさんに会えなかったね。
お父さんかわいそうだねえ。」
なんて話し合ったりするんだとか。
小さな村の近所のおじさん。
誰も気付かないくらいのサンタっぷりを発揮。
子供のいる家庭ではサンタと小人に振り回されっぱなしで
めまぐるしい一日になります。
夜遅くまで、もらったプレゼントで遊んだり
イタズラや喧嘩
(貰うもんもらったら、いい子の掟は忘れるでしょう)
もあり、周りの大人はぐったり。
クリスマスは大切なもの。
だから家それぞれで自分達のこだわりや
やりかたの伝統があります。
墓地にロウソクを灯しにいく人、
森小屋でゆっくりと静かなクリスマスを迎える人。
まあ、こだわりがありすぎて
クリスマスに離婚の危機を迎えるくらいに
大騒ぎになる場合もあり。
クリスマスツリーの枝のバランスが悪いということで
どん底の気分でクリスマスを泣いて過ごす人まで。
そうそう、フィンランドでは
クリスマスツリーはプラスチックじゃないですよ。
そんなの考えられない! っていう感じ。
当然ですが、綿を雪にみたてることもなし。
森小屋の自分のとこの森から
美しいのを一本伐採してくる人、
ツリー市があるのでそこで買う人。
買うとえらい高いので、
そこらへんから見つからないようにそっと伐採してくる人。
クリスマス前は警察も大忙しです。
セントラルパークと呼ばれる森では
夜通し警官がパトロールしなくてはなりません。
ヘルシンキの街中たって、こんな感じ。
このあたり、こっそり伐採派に狙われそうです。
ツリーの緑の匂い、
フィンランド語ではピパルカックという
ジンジャークッキーのスパイスの香り‥‥
大人だってクールに
「サンタなんてね」なんてことを言っていたって、
この匂いにはぐっとくるものがあるかな。
ヘルシンキの街中を抜ければ、すぐにこんな静かな風景。
フィンランドの北極圏ラップランドには
サンタ村というのがあります。
そこには一年中サンタさんがいて、
世界中から子供も大人もサンタに会いにやってきます。
でもね、サンタさんが住んでいる本当の場所は
コルバトゥントゥリというところだって言われてます。
ロシアとの堺にある483メートルの山。
コルバトゥントゥリ、直訳すると「耳山」。
世界中の子供たちの声を聞いてくれそう。
テレビがなかった時代に子供たちに大人気だった
ラジオのおじさんが言ったのがきっかけでした。
クリスマスに向けて
フィンランドからサンタさんが世界中を駆け巡ります。
当然、日本にも。
フィンランドのサンタさんは
日本でもとても忙しくしていらっしゃいます。
ところで日本ではまだルーズソックスありですか?
もしサンタさんに会うことがあれば
ひと言つっこんでおいてください。
「あの、これはルーズソックスといって、
毛糸の靴下ではありませんよ」って。
日本ではチビッコだけでなく大人も
サンタに会いに来てくれるので
幸せそうなサンタさんですが、
中学生の女の子達のソックスを
「毛糸の靴下」と間違って認識していたのが
いまだにひっかかっています。
どうぞよろしく。
雪玉でつくるキャンドルシェード。
ムーミンにも登場する
フィンランドでお馴染みのキャンドルの楽しみかた。
圭子 森下・ヒルトゥネン
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