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♪にっびいろのそらのしたぁ〜
(マスタリングが終了したサンプルCDを聴きながら)
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── |
うふふふふふ、いいなぁ〜。
なんですかね、これは(笑)。 |
糸井 |
楽しそうだよな(笑)。
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── |
笑っちゃうんですよね、聴いてる最中に。
にやにやにやにやしちゃうんですよね。 |
糸井 |
楽しそうだろう〜。 |
── |
帯には、
「ビートルズ+XTC+ELO=ムーンライダーズ」
って、書いてあるそうですよ。 |
糸井 |
それはちょっとよすぎないか?
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── |
(笑) |
糸井 |
おさまりがよすぎだよね。
ムーンライダーズがどうということではなくて、
こういうことをやっていいんだっていうことだよね、
『ゆうがたフレンド』のよさは。
だって、これさ、三田明さんとか舟木一夫さんに
歌ってもらっても成り立つでしょう? |
── |
ああ〜、ハマりそう、ハマりそう(笑)。 |
糸井 |
つまり、ムーンライダーズの
さまざまな音楽的教養というのが
いまのメンバーの歳になると
まる裸の状態で作品の中に溶けているわけで、
そこには歌謡曲だって余裕で入ってると思うんだよね。
あ、ほら、エンディングのところだって、
こんなことをして(笑)。
これ、パロディーのふりをしているけれど
本当はいいと思ってるんだよ。 |
── |
「パロディーのふりしているけれども
本当はいいと思っている」(笑)。 |
糸井 |
もう、パロディーのふりをする歳でもないしね。
(試聴終了) |
── |
はい、と、いうわけで。
これから、「この曲はいいぞぉ!」という
非常にむつかしい企画をはじめるわけですが。 |
糸井 |
むつかしいねえ、それは。
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── |
そもそもがですね、この時代に「いい曲」を
「いいぞ!」とおすすめすることのむつかしさよ、
みたいなところがあるんですね。 |
糸井 |
うん。無理ですよね。
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── |
ええと、『ゆうがたフレンド(公園にて)』は
ムーンライダーズの新曲です。
聴いてるだけでにやにやしちゃう、いい曲です。
ところが、これを、たとえば「ほぼ日」で
ドーンとおすすめすれば、それでOKかというと、
どうもそうじゃないような気がする。
もちろん、「この曲だから」ということじゃなく、
「いい曲だよー」っていうこと自体の‥‥。 |
糸井 |
むつかしさよ。 |
── |
むつかしさよ!
なんでむつかしいんですかね? |
糸井 |
まず、音楽っていうのが、流通する商品として、
いったんは完成したと思うんです。
で、いままた、商品じゃなくなってしまってる。
そういう大きな流れがあるんだと思う。 |
── |
はい、はい。 |
糸井 |
いったん完成された商品としての音楽があって、
そこから外れるように
道で演奏しているような人がいるというのは
わかりやすい構図だと思うんだけど、
いまは、でどころや立ち位置がどうあれ、
「商品にできる人が商品にします」
という時代になっていると思うんですよ。 |
── |
そうですね。
そういうものが、ざーっと横並びになってる。 |
糸井 |
そういう時代になったわけです。
で、川に、川エビがいるじゃないですか。
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── |
か、川に川エビが?
また唐突なことを言い出しますね。 |
糸井 |
川には川エビがいるし、
沢には沢ガニがいるだろう。
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── |
川には川エビがいるし、
沢には沢ガニがいますよ。
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糸井 |
うん。
で、「沢ガニが食べたい」っていう人がいたら、
沢ガニは急に商品になりますよね。
ところが、沢にいる沢ガニが、
「沢ガニとしてオレは売れてやる!」
っていうわけにはいかないじゃないですか。 |
── |
ええと、「沢ガニとしてオレは売れてやる!」と思っても
沢ガニを食べたい人がいない場合は商品にならない。
で、商品にできる人が、
「沢ガニ味のピザはいかがですか?」
ということはあるかもしれない。 |
糸井 |
そう。 |
── |
じゃあぼくらはいま、
「沢ガニがいるぞぉ!」ってことを
やろうとしているわけですね。
そりゃ、むつかしいわ。 |
糸井 |
そういう時代なんじゃないですかね。
でね、また、これが非常にややこしいんだけど、
「沢で沢ガニとして生きていること自体は、
沢ガニからしてみると、なかなか悪い気はしない」 |
── |
! |
糸井 |
こうさ、とかさ。 |
── |
(笑) |
糸井 |
そういうたのしさがあるから。
だから、沢ガニにとっては
沢ガニどうしでたのしくやってるっていうのが理想で。
「今日は水がキレイだね〜」なんつってさ。
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── |
ってことは、根本的にこの企画がまちがってる?
ぼくらは、もう、いい沢ガニがいたら、
「いい沢ガニがいますよ!」と言いたいだけだけど‥‥。 |
糸井 |
むつかしいですよね。
だから「沢ガニを見かける人が増える」
っていう状況を目指すしかないですよね。
だから、まあ、お金のあるところだと、
沢ガニの広告を出したりするわけでしょう。 |
── |
お金のないところはどうするんですか。 |
糸井 |
沢ガニの広告を小さく出すんでしょうね。 |
── |
沢ガニの広告を小さく出しても意味ないじゃないですか。
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糸井 |
そうやって、昔のやり方に乗っ取って、
小さくやっているというのがいまの音楽なんですよ。
弱ったもんですよね。 |
── |
‥‥弱ったもんですね。 |
糸井 |
それは音楽だけじゃないんですけれどもね。
でも、一方で、みんなが音楽そのものを
楽しみやすくなったということについては
まったく文句ないんですよ。 |
── |
そうなんですよ。
でも、だからこそこう、際立った沢ガニも
埋もれてしまうようなこともあるわけで。 |
糸井 |
いや、埋もれないんじゃないですか。
べらぼうな沢ガニが横歩きしてたら、
雷に打たれたように発見されてしまうんじゃないですか。 |
── |
じゃあ、この曲も‥‥。 |
糸井 |
この曲がどうかは知りません(笑)。
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── |
えーーーっ(笑)!
(むつかしさを抱えたまま、つづきます‥‥)
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