第2回 おまえもタンバリン持ってこいよ

── いい曲を「いい曲だよ」と
ふつうに知らせるのはむつかしい、と。
糸井 でもさ、そんなに無理矢理
知らせるものでもないような気もするんだよ。
たとえば、最近のニュースとか読むとさ、
紀元前300年くらいの文字が
どこかで見つかったりしてるじゃないですか。
そういうのって、もう、なんていうの、
「誰が見つけるんだよ?」ってことでさ。
人類最古の頭蓋骨の骨とかさ。
そういうのが見つかっちゃうから
おもしろいわけでしょう?
── 見つかっちゃうのはおもしろいですけど、
見つかんなかったらおもしろくないじゃないですか。
糸井 でも、3万年前の骨とかはさ、
見つけられたくて死んでるわけじゃないんだよ。
── そりゃそうですけど‥‥。
糸井 わけてもいまはインターネットというものがあって、
無理して知らせたりしなくても
見つけたり分類したりするのが好きな人たちが
どんどん見つけてくれるわけだしさ。
── はい。「見つけるのが好きな人」には、
ほとんどなにも知らせなくても、
勝手に届く時代ではあるんですよね。
糸井 うん。いいんじゃない? それで。
そういう人が、掘り出したものの中から
お気に入りをひとつ取り出して、
明るいところへ持ち出して光を当てたら、
思いがけず多面体的に浮かび上がって
他の人がすごい気に入った、みたいなことが‥‥。
── あるかもしれない?
糸井 あればあるし、なければないし。
── どっちなんですか。
糸井 あったりなかったりだよ。
そういうふうにとらえるしかないんじゃないですかね。
こと、いまの時代の音楽というものについては。
だってさ、ミック・ジャガーがソロアルバムを出してさ、
ストーンズみたいに売れるかというと、売れないだろう?
── ま、そうでしょうけど‥‥いや、違う!
ミック・ジャガーがいい曲を出したら、
やっぱり売れてほしいじゃないですか。
糸井 いい曲なら、売れますよ、きっと。
少なくとも、いまプロでやっている人は、
発見される要素はあらかじめ持ってるんですから。
まったくの素人でなければね。
その意味では、いい曲であれば売れるんでしょう。
── ‥‥じゃあ、この曲は?
糸井 この曲は、いい曲とか悪い曲とかじゃないですね。
「妙な曲」!

── もーーー。
いや、でも、ほんとうにそう!
『ゆうがたフレンド』の「妙」なところを
ぜひともみんなに知らしめたいんですけれども。
糸井 「妙」っていうところを
いま、人々がたのしめるかどうかっていうのが
けっこう重要だと思うんですよね。
── はい、はい。
糸井 さっき、仕事しながら、しばらくぶりに
ビートルズの『All You Need Is Love』を
聴いていたんだけれども、
ほら、エンディングのところで
『She Loves You』が出てくるじゃない?
──
ポールが歌ってますね。
糸井 あれって、当時は
とってもムチャなことだったと思うんですよ。
── ああ、そうですね。
あれ以降、みんながマネをしたから、
手法としてすっかり認知されてますけど。
糸井 「そんな勝手なことをしていいのか!」と
当時はみんなが思ったはずなんだよ。
というか、オレは思った記憶があるんだよ。
── いいなあ、リアルタイム。
糸井 リアルタイムですよ。
オレは、宇宙中継も見ていますよ、たしか。
── マジですか!
糸井 いや、違うな。
宇宙中継をニュースでやった、
みたいなのを見ていますよ。
── リアルタイムじゃないじゃないですか。
糸井 そんなことはどうでもいいんだよ。
── そんなことはどうでもいいですね。
糸井 何が言いたかったかというと、
『All You Need Is Love』の終わりに
『She Loves You』が出てきたときに、
オレなんかは、「え!」って思ったけど、
それがたのしめる人たちは、
すぐに「たのしい!」って思って
自分たちも取り入れちゃったわけでしょう?
つまり、ビートルズの友だちたちは、
そういう風に音楽を聴いていたわけだよ。
── ああ、そうか。
その「妙」がたのしめたんだ。
糸井 そう、そう。
いいとか悪いとかのふたつに分けるんじゃなくて、
ビートルズにしてみれば、
「じゃ、おまえ、つまんなかったの?」
っていうことなんだよ。
ビートルズって、とにかくそういう
質問返しみたいなことをいつもやってるんだよ。
── はいはいはいはい。
糸井 そういうふうに質問されると、
「や、べつに、嫌いじゃないよ?」
ってことになるわけでさ。
「嫌いじゃないなら、
 おまえもタンバリン持ってこいよ」
って言われたら、持つでしょ、タンバリン。
「She loves you yeah yeah yeah〜♪」
って、やると思うんですよ。
そういう「妙」。「妙」と言うよりは、「遊び心」。
── うん、「遊び心」。
たしかにその遊び心は、
「ここに遊び心があるぞぉ!」って
知らしめるようなものじゃないですね。
糸井 そういうことなんだよ。
しかも、そういう遊び心ってね、
人は、素人の中から出てくると
思い込んでいる節があるんだよね。
── ああ、ああ。ところがそうじゃなくて、
オトナでプロだからこそ、遊べるんですよね。
『ゆうがたフレンド』という曲は、まさにそうで。
糸井 そう、まったくそうなんですよね。
だから、音楽家の体内にしみ込んだ滋養がね
触っているうちににじみ出てきた、みたいなね。
骨董品をなでまわしているうちに、
違う表情を見せはじめる、みたいなことですよね。
── なるほど。
糸井 そういう「遊び」。そういう「妙」。
あるいは、そういう「自由」。
もともとさ、自由で妙でっていうのが
ムーンライダーズじゃないですか。
その意味ではこれはね、見事にそういう‥‥。
── 自由で妙な名曲。
糸井 その割にものすごく
しょうもないところで真剣だったりね。
── (笑)



(そんなこんなで、つづきます)






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2006-10-02-MON



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