糸井 |
たとえば、「悲しい」という
しょうもない感情を歌にしたいという気持ちは
ぼくの中にいつでもあるんですよ。
でも、それをそのまま「悲しい」って名づけちゃうと
おもしろくもなんともない。
そうじゃなくて、その世界を丸ごとスケッチして、
どんどん広げてパノラマにしていくと
悲しいだけじゃないところに行けるんです。
悲しいはずの話なのに、
「よかったな」と思っちゃうようなこと、
そういうことを友だちと味わう深夜3時、
みたいなところまで届くんですよね。
ぼくは酒を飲まないけど、酒を飲むとしたら、
そういうところで遊んでいたいな
という気持ちがあるんですよ。
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── |
そういう世界を思わせる文章は、
「ほぼ日」の中にもときおり顔を出しますよね。 |
糸井 |
ああ、混ざりますね。
歌や詞やことばで遊ぶときには、
けっこう、そこに行きたがりますね。 |
── |
うん、うん。 |
糸井 |
『ゆうがたフレンド』も
『ニットキャップマン』も典型的にそうだし、
(忌野)清志郎くんとやったいくつかの詞もそうですね。
清志郎くんも他人の詞はあまりうたわないんですけど、
『いぬのこ』っていう歌と、
『散々な目に遭っても』っていう歌の2曲が
その系列なんですよ。
だから、昔から、ときどきそういうことをして、
ぼくは自分と遊んであげてるんだろうね。
ぼくの中に秘密の部屋があって、
そこに鉄道模型なんかがあって、
模型に色を塗ったり、落書きしてたりする
っていうのがこのへんの歌詞ですよね。 |
── |
うん。その領域から出てきたもの。 |
糸井 |
親しい友だちが来たら
「汽車、みる?」みたいな。
「犬歯、みる?」みたいなことで(笑)。
(気まぐれカメら 8月8日4:22)
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── |
(笑)。
『ニットキャップマン』も『ゆうがたフレンド』も
べつにフジオさんが出てくるわけでもないし、
テトラポットが共通してるわけでもないんだけれども、
あの明らかな地続き具合みたいなところは
その、同じ「頭の中の部屋」から出てきたからですね。
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糸井 |
そうですね。
そこへスッと入っていけるときがあるんですよね。
いま、たまたまぼくは
社会で大丈夫なところで生きてるけど、
ほんとうはぼくは、ぼくに限らず誰もが、
大丈夫なところと、大丈夫じゃないところの
ギリギリのところにいつもいるはずなんです。
たとえば、こないだのニュースで、
自転車に乗っていた人が、車にはねられて、
フロントガラスに突っ込んだんだけど、
結果的には大丈夫だった、っていうのがあって。
そんなことが起こるなんて、
自転車の人も車の人も、絶対思ってないですよね。
そういう人のこととかをぼんやり考えるんです。
そういうことをよくやるんです。
で、ちょっとでも念入りに考えると、
すごく妄想が働いて
自分はその部屋にスッと行けるんですよ。
その意味では現実と地続きだともいえる。
なにか些細なことで、運命って不意に変わっちゃう。
アートと呼ばれるようなものは
その境目でいつも生まれてると思うんですよね。
絵もそうだし、歌もそうだし。
だからぼくは、その境目の気分を、
毎日を平凡に生きてる自分に
ときどき、味あわせてあげたくなるんです。
旅に出してあげたいなっていうのが
あのへんの歌をつくる理由になるんです。
だから、その意味では、オレはフジオさんだし、
あいつはお葬式にも来てくれるかな、
って思っている人だし、
いまここでこうしてしゃべっていなければ、
もしかしたら忍池のところで
拾ったエサをハトにやっているかもしれない。
そういう「世界」なんですよ。自分にとっての。
わかりやすい話じゃないかもしれませんけど。
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── |
いえ、大丈夫です。きっと。
あの、糸井さんのその「頭の中の部屋」から
出てくる世界っていうのは、
たいてい「男の友だち」っていう姿をとりますよね。 |
糸井 |
それは究極だからでしょう。
古今東西のあらゆる人々が
「一番美しいものは友情である」と結論を出してるわけで。
男と女ってね、理由があるんですよ。いろんな。
なさそうに見えても、なんか、わけがある。
でも、友情って理由がないじゃないですか。
そこのところを深く考えていくとね、
「すごいことができるんだな、人間は」
と、思いますよね、ほんとうに。
無縁のものを救えるっていうか、助けられるというか。
だから、頭の中にあるその部屋には、
「人のもってるすごみ」っていう本が
たくさん並んでるんじゃないですかね。 |
── |
『ニットキャップマン』も『ゆうがたフレンド』も
そういう「理由なき友情のすごみ」がありますね。
あと、その世界とムーンライダーズの
相性がいいっていうのも、妙に納得できるような気が。 |
糸井 |
ライダーズなぁ。へんなものだなぁ。
なんていうか、ムーンライダーズって
隣のクラスの友だちなんですよね。 |
── |
「隣のクラスの友だち」。 |
糸井 |
うん。おんなじクラスにいると、
エリアが違うと逆に接点がなくなるじゃないですか。
でも、隣のクラスにいる友だちって、
距離としてくっつきすぎないから、長くいられる。
そういう感じなんだよね、ぼくにとっては。
(そんなふうに言いながら、続きます) |