藤井亮の豪勢なアイディア。 藤井亮の豪勢なアイディア。
「石田三成CM」や「ミッツ・カールくん」など、
一度観たら頭から離れないアニメーションを
たくさん手がけている映像作家の藤井亮さん。
広告の世界から飛び出した藤井さんに、
糸井重里が映像のお仕事をお願いしました。

藤子・F・不二雄ミュージアムだけで観られる
短編映像『セイカイはのび太?』が上映中です。

糸井と藤井さんが作る『ドラえもん』の世界には
藤子先生を尊敬する気持ちが込められていて、
ふしぎとおもしろが混じり合っていました。

この映像がどうやって生まれたのか、
藤井さんの人となりとともに紹介します。

担当は「ほぼ日」の平野です。
(5)豪勢な「パチもん」?
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──
アニメーションの中に、
小ネタがぎっしり盛り込まれていますよね。
カオスになっているのが好きなのですが、
しつこいまでの詰め込みっぷりは
藤井さんの個人的な趣味なのでしょうか。
藤井
不安でやっている感じですね。
100個の小ネタを詰めたら、
1個ぐらいはウケるんじゃないかなって。
本当なら1個の切り口でスパンと終わる、
カッコいいCMができたら理想ですが、
ちょっと不安で、
「もうちょっとなんか出せないかな」って
編集中もずっと考えているんです。
──
撮影前の企画段階だけでなく、
編集中もどんどん考えて、
思い浮かんだら足していくんですか?
藤井
なんだかんだで、だいぶ足しています。
ディティールも変えるし、
編集しながら絵を足すこともあるし。
だから、ギリギリまで編集してますね。
『セイカイはのび太?』を納品したのも、
締め切りの日の23時45分とかなんですよ。
24時をこえたらマズいなと思いながら、
「すいません、できました!」って。
──
今回の藤子・F・不二雄ミュージアムの動画しかり、
他のお仕事で作っている動画しかり、
パロディの演出は藤井さんの得意技ですよね。
藤井
実在しないけれど、それっぽいものを作ることは、
得意というか、好きな気がします。
本当にはないけれどありそうな啓発ビデオとか、
本当はないけれどありそうな熱血アニメだとか。
具体的なパロディというよりは、
そういう世界観のニセモノを作っている感じ。
シミュラークル的なものというんですかね。
──
ニセモノであるからこそ、
ディテールには力を入れてますよね。
藤井
ディテールがちゃんとしていないと
ニセモノに見えないので。
たとえばローカルCMを見てすぐに作ると、
ただの真似になって
安直なパロディになっていましまいます。
そうじゃなくて、そのジャンルの
エッセンスだけを引き出してかたちにすると、
すごく変なものができるんです。
──
動画制作の経験がまったくない人が、
ベタなローカルCMっぽいテイストで作っても、
ただの低クオリティなものになると思うんです。
そこには基本があるから、
安心してたのしめるんでしょうね。
藤井
商品カットの組み方とか、
基本的な技術ってありますからね。
そこは会社員時代に
マジメにやってきたおかげかな。
物撮りのライティングとかも
いまやっている仕事で役に立ってますし。
「ちゃんとした技術を持った人が
ちゃんと作ってこうなっちゃった」
みたいな感じが出るといいなと思うんです。
本物っぽさはやっぱり大事なので。
写真
──
「本物っぽさ」と言っている時点で
ニセモノじゃないですか?
藤井
なかなか自分が作っているものを、
本物とは言えないんですよね(笑)。
でもそこにはオリジナルに対する憧れがあって、
それを自分で再現してみたい気持ちがあります。
子どもの頃に、自分が欲しいものを
何度も絵に描いていたように。
大学の頃に、好きな映画のシーンを
再現して喜んでいたように。
なるべくなら、豪勢なパチもんができたらいいな。
どこかで見た気がするけれど
原作を探そうとしても見当たらない、
そうなるとおもしろいなって思います。
そのまんまのパロディを入れることもありますが、
根っこには、そのジャンルのエッセンスが
ふわっとあるとたのしいなって思います。
──
Amazonプライムビデオの
『77部署合体ロボ ダイキギョー』は、
エンディングテーマとともに
特撮ものの絵本まで作っていますよね。
写真
藤井
そういうディテールがたのしいんですよ。
「うわー! それっぽいな!」
となると嬉しくなるんです。
──
「なんでここまでやっちゃうんだろう」
とは思いませんか?
藤井
思いますね、楽ではないので。
昔から、シンプルな線で
シュッと描いて完成できる人が
すごく羨ましいんですよ。
ぼくはいつまで経っても自信がないし、
隙間が不安になってしまうので、
変な言葉を足したりしてしまうんです。
拘束時間が異常に長くなっちゃうので、
明らかにしんどいんです。
──
詰め込まないとむしろ、
自分の中ではストレスになっちゃうんですか?
藤井
詰め込むと、ちょっと安心するんですよ。
要素が多い分には、引くことはできるので。
ただ、「このままがおいしいんだ」みたいな、
刺身を切って出すような作り方ができなくて。
──
『セイカイはのび太?』はむしろ、
素材の美味しさで勝負していますよね。
藤井
『ドラえもん』が超いい食材なので、
変な味付けはしなくていいなと思ったので。
その分、お皿とかツマとかに
すごく時間をかけた感じですね。
人参に細工してみたり、立体にしてみたり。
だから刺身を出すにしても
時間をかけないと不安なんですよね。
写真
──
できあがった作品を見ておもしろかったんで、
いろんな人に見てもらえると嬉しいですね。
藤井
そうですよね。
ミュージアムなので、
みなさんがお金を払って来てくれる場所ですよね。
「観てよかった」と思ってもらえたら嬉しいです。
──
観てくれた人の反応も励みになりますよね。
藤井
そうそう。
どんなにアーティストみたいに
気取っている人であっても、
何かを作っている人は絶対に
反応が欲しいと思うんですよね。
たとえば、テレビCMでも、
ものすごくたくさん流してるのに、
世の中からの反応がないCMって
やっぱりつまらないんですよ。
──
相当な時間とお金が
かかっているはずですよね。
藤井
すごく頑張って作ったはずなのに、
なにかの事情があって、
タレントが商品を持って
ニッコリ笑ってるだけのCMが
できることってありますから。
それでもちょっとでも爪痕を残そうと思って、
せめて書体を頑張ってみたり、
いろいろやってみたりしても、
誰も見てくれなかった経験があるんで。
──
できあがったCMの裏に、
たくさんの捨てられた案があるわけですよね。
藤井
そう、その中でみんな、
爪痕を残そうと足掻いていたんです。
後ろを歩いてるエキストラのおじさんを
個性的な顔の人に頼んでみたりとかね。
何かできないかなって、
ずっとやり続けていました。
写真
──
爪痕を残したいという気持ちは、
フリーランスになった今も、
ちゃんと生きているんですね。
藤井
昔ならできなかった思いつきを
全部やっているような感覚です。
なるべく日の目を見させてあげたくて。
ひとつの動画を作っているうちに、
また今度は別のやりたいことが
出てきたりするので、
無限に何かしらやりたいことが出てきます。
「爆破のシーンが撮りたい」とか、
そういう他愛もないことですけどね。
──
広告だけを作っていた頃とは、
できることも、意識も変わったんですね。
藤井
広告だけを作っていたころは
道ゆく人にすれ違いざまに
いかに上手に押し売りをするかみたいなこと
ばかりを考えていたのですが、
これからは、お客さんのほうから来て
買ってくれるような
お店みたいになれたらなって思います。
CMを作るにしても、人がおもしろがって
能動的に広めてくれるようなCMなら、
嬉しいんじゃないかなって思うんですよ。
CMって基本的には嫌われ者なので。
だからぼくは、
なるべくみんなに見てもらう、
楽しんでもらうために、
できることはぜんぶやります。
今作っている5分アニメのシリーズも、
やれることは全部やろうとしすぎて
具がはみ出したラーメンみたいに
なっちゃっていますが…。
──
そうですね。
豪勢なアイディアが詰まった藤井さんの映像、
これからもたのしみにしています。
「ほぼ日」でもぜひ今後、
映像を作っていただきたいです。
ありがとうございました。
藤井
とんでもないです。
こちらこそありがとうございました。
ぜひぜひまた何か作りたいですね。
写真
(おわります)
2020-09-07-MON
『セイカイはのび太?』は、
藤子・F・不二雄ミュージアムの
Fシアターにて上映中!
糸井重里がプロデュースし、
藤井亮さんが監督・企画・アニメーションを手がけた
オリジナル短編映像『セイカイはのび太?』を、
藤子・F・不二雄ミュージアムの
Fシアターにて上映しています。

藤子先生を尊敬する気持ちと、
たっぷりのアイディアを詰め込んだ4分間の映像を
200インチのスクリーンで堪能できます。
落語家の春風亭昇太さんによる
コミカルな語り口もどうぞおたのしみに。

ひみつ道具「セイ貝」から出てくるのは誰かな?
まんがのコマ読みに合わせた映像の動きにも注目です。



この映像のプロデューサー、
糸井重里のコメント
藤子・F・不二雄ミュージアムを訪れて、
最初に椅子に座る場所が「Fシアター」でしょう。

そこで、いったい何が見せられるのか?
こんなにワクワクドキドキする難問は、
ちょっとないですよね?
「ふつうのふりして、ふつうじゃない?」
そんな世界をお見せしますよ。



語りをつとめた
春風亭昇太さんのコメント
「これはそれぞれの役の声優さんに頼めば
いいんじゃないですか?」
って言ったんですよ…でもそうじゃないそうです。

頼まれたのは一つ
「昇太さんが漫画読んでいる時に、
頭の中に浮かんでいる声の感じで読んで下さい」
でした。
つまりこれはアフレコではないんです。

僕はあくまでもガイドみたいなもので、
皆さんが漫画読んでたあの頃を想像しながら見て下さい。
これは、皆さんの頭の中で完成させる作品です。



試写会で映像をご覧になった
吉本ばななさんのコメント
観てるあいだ、
ずーっとニコニコして幸せでした。
きっと創るのに
膨大な時間かかったんだろうなあ。

ただただ感謝です!





藤子・F・不二雄ミュージアムでは
「ドラえもん50周年展」を開催中!
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50周年を記念した展示を
川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアムで開催中。

1階の展示室では、
特別展示「藤子・F・不二雄とドラえもん」。
※2021年1月31日まで(予定)

50年の歩みを貴重な原画と共にご紹介しています。

そして2階の展示室Ⅱでは、
『ドラえもん』の「生活ギャグ」に焦点を当てた、
「ドラえもん50周年展第2期後期 
ゲラゲラ笑える話/ゾ~ッとするこわい話」を開催。
※2020年11月9日まで

子どもの目線を大切にした藤子・F・不二雄先生の描くお話は、
時を経た今でも多くのファンに愛されています。
はらっぱにシアター、カフェやショップ、どこでも
『ドラえもん』はじめ藤子・F・不二雄先生の
キャラクターに会えますよ。

ミュージアムは現在、完全日時指定入館制なので、
混み合うことなくゆっくりとご覧いただけます。



9月2日よりミュージアムショップ限定の
ほぼ日手帳weeksも販売中!