第2回
あなたはどこに眠る?
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糸井 |
地上の墓石は離れているのに、
下でつながっているお墓があるんですって。
不倫の男女のお墓ですけどね。 |
佐々木 |
ほんと、それ?
そういう作り方、あるんですか。 |
長江 |
依頼があればお作りしますよ。
実際、似た例では
「主人に内緒でお墓を作りたい」
というのはあります。
そういえば、アメリカの墓地に
なまめかしいお墓がありました。 |
糸井 |
なまめかしいお墓? |
長江 |
男性のお墓だったんですが、
等身大の彫刻で、
男の人と女の人が
ベッドに横たわってるの。
で、その脇に
二人を眺めている女性がいるんです。 |
佐々木 |
そんなの、作ってるわけ? |
糸井 |
怖いなあ。(笑) |
長江 |
私、「正妻と愛人ですか」
って聞いたんですよ。
そうしたら、離れているのは
2度目の奥さんで、
最初の奥さんこそが
本当に愛した人だったって。 |
佐々木 |
リアルだなあ。 |
長江 |
イタリアじゃ、
大勢の女の人が泣いている墓石も見ました。
なんでも、
ものすごくモテた男性のお墓だとか。 |
糸井 |
生前に本人が
「こういう彫刻をしてくれ」
って頼んでおくのかなあ。 |
長江 |
そのあたりの感覚は
日本人とは違いますよね。
我々のお墓はもっと象徴性のあるもので、
形はそんなにリアルじゃない。
さっきの話みたいに下でつながってるとか、
それくらいですよね。 |
糸井 |
佐々木さんは
ご自分のお墓をどうなさるんですか。 |
佐々木 |
あのね、墓というのは
マンガみたいな話から厳粛な話まで、
幅が広いけど、結局は
「あなたはどうするの」という話になる。
僕は長い間、
チベット仏教徒たちの風習を見てて、
「墓なんかいらない」
と思ってたんですよ。
鳥葬だけは絶対に嫌だけど、
火葬後は骨は砕いて、
どこかへ撒いてもらいたい、と。 |
糸井 |
ほぉ、青年っぽいですね。 |
佐々木 |
ところが、骨を砕くのは大変なんです。
それを誰に頼むのか。 |
長江 |
自分で叩けないしね。 |
佐々木 |
大阪に一心寺というお寺があって、
そこでは明治以降10年に1度、
集まったお骨を砕いて、
粉を練って仏様を作るんです。
「骨仏」といって、
もう6体ほどになってます。 |
糸井 |
骨仏志願者は多いんですか。 |
佐々木 |
ものすごく多いんですよ。
で、その骨仏の作り方を聞いたら、
大きな骨は
若いお坊さんが臼の中に入れて、
トンカチで何日かかけて
ドーンドーンと砕くらしいんですよ。
その時、骨灰を
どうしても吸い込んじゃうんですってね。
はたから見ると、
「確かに吸い込むかもしれないけど、
ある種の宗教的境地にあって、
そんなことは気にならないだろう」
と思うかもしれないけど、
そんなことはまったくなくて、
ただ、辛いだけだと(笑)。
これはお坊さんも、
骨仏を実際に作る彫刻家の方も
おっしゃってましたね。 |
糸井 |
そりゃあ、辛いよ。(笑) |
長江 |
骨灰は、髪の毛とか洋服の縫い目にも
こびりつきますからねえ。 |
佐々木 |
だから、自分の骨を砕くのを
誰かに個人的に頼むのは、ちょっとね。 |
長江 |
家族が一所懸命トンカチでやる
っていうのも大変ですよね。 |
糸井 |
葬式が遅れたりして(笑)。
それに、 砕く時には
打撃を加えるわけでしょう。
そこにまた、
表現的なものを感じちゃいますし。 |
長江 |
アメリカじゃ骨粉砕機が
火葬場に備えつけられています。
日本でも、散骨を請け負う葬儀社に
あることはある。
3時間くらいかかりますが。 |
佐々木 |
とまあ、かように散骨は大変なんで、
どうしようかなと思っていたら、
弟が突然墓を買っちゃって、
「兄貴も入るか」
と言うから、
「あ、そうか」
と言うてしもた(笑)。
お墓って、
そんなふうに決まっちゃうんだと
思いましたね。
理想的にはヒマラヤかどこかに
散骨してほしいんですけど。 |
糸井 |
なるほど、墓というのは
自分の意思ではなくて、
社会的なしがらみの中で
決まっちゃうことが多いわけだ。
じゃあ、佐々木さんは死んだあと、
自分の骨や墓がどうなってもいいと
思えるようになってきたんですか。 |
佐々木 |
いや、底のほうには
揺れている自分がいると感じてます。 |
糸井 |
じゃあ、僕と同じですね。
「死」に関してはみんな、
モラトリアムなんですかね。(笑) |
佐々木 |
みんな、口では
「死んだら、生き残ったやつに
まかしたらいい」
と言うわけですよ。
でも、その奥には、
揺れている自分がいるんじゃないですか。 |
糸井 |
長江さんはどうなんですか。 |
長江 |
うちは長男長女の結婚で、
夫の実家のお墓は岐阜県なんですね。
でも私には恵那山が見えるような、
なじみのない場所で
自分が眠るイメージがわいてこない。
かといって、
例の八柱霊園にある実家のお墓に
おじいちゃんたちと一緒に入るのかというと、
これまたピンとこない。
だから、
個人的に作ろうかなとも思ってるんです。 |
糸井 |
つまり、ご主人とのお墓ですか。 |
長江 |
いえ、夫は散骨してほしいって。
彼は墓を残したくないようですね。 |
佐々木 |
いやあ、わからんよ。
死ぬ前になったら。(笑) |
長江 |
でもここまでお墓に関わった以上、
私には理想のお墓が・・・・。 |
糸井 |
ちょっといい男の彫刻とか? |
長江 |
いえ、そんな男性いませんから(笑) 。
実は私、子供のころ登校拒否したりして、
閉じこもり型だったんですよ。
「生まれてよかった」
という感覚も薄くて。
それが、今のような
おしゃべり人間になった経緯を思うと、
人と接することへの感謝の気持ちが強くて、
その感謝を墓に書きたいと思うんです。 |
佐々木 |
なるほど。
墓碑銘をちゃんと書きたいから、
個人墓がいいと。 |
長江 |
でも、うちは子供がいないので、
墓を建てる施主がいないんですよ。
私が先に死ぬなら夫に頼みますが、
そうなるとは限らないし。
だから、ジョークで
「作ってみようかな」
って言う程度なんですけどね。 |
佐々木 |
おかしいね。
お墓の話をしてたら、
長江さんの家庭内事情が
ここまでわかっちゃった(笑)。
初対面なのに。 |
長江 |
お墓って、不思議と人間関係を
明らかにしちゃうものなんですよ。 |