第6回 一銭も生まない言葉が無限に価値を生んでいく。

糸井 藤野さんのお話、とてもおもしろかったです。
5時間の内容を1時間にしていただいて。
藤野 ダイジェスト版でお届けしました。
糸井 お話の山場になっていた「投資」について、
もう少し掘り下げて訊いてもいいでしょうか。
藤野 ええ、どうぞ。
糸井 投資っていうのは
株価の細かい動きを見ていくんじゃなくて、
人が人を見るときと同じような目線で会社を見て、
応援したいと思ったところに投資をする。
これが、藤野さんの投資信託が
業界でいちばんの成績をおさめている秘密だと
おしえていただきました。
「何に投資をするのか」ということ、
とても大切だと思います。
藤野 はい、ぼくは何に投資をするのかというと、
結局「人」にするしかないと思っています。
機械に投資をするって、ありえない。
機械を動かすのは人で、技術をみがくのも人。
最終的にすべて人にかえってくるんです。

ですので、そういう人たちを率いている
社長さんの考えって、ものすごく重要なんですよ。
そして、それに賭けるのが、
投資の王道だと思うんですね。
ぼくらは、結果的に
そういう投資が高い成果を生むことを信じているし、
実際に成果も出ています。
糸井 投資をしている人たちにとっての成果とは、
「利益」という数字のことですよね。
藤野 そうです。
糸井 ぼくらの仕事の中には、
利益には表れないけれど
新たな価値を生むものもあります。
それを、一時期
ハードマネーとソフトマネーと言っていました。
ハードマネーというのが貨幣のことで、
ソフトマネーというのは
たしかに価値があるんだけど
明確に数字として表現できないもののことです。

ソフトマネーを稼ぐ仕事をたくさんすることは
株価に直接反映されないんだけども、
総体として見たときに株価は上がるんじゃないか?
って考えたことがあるんですね。
そのあたり、藤野さんはどうお考えでしょうか。
藤野 ソフトマネーが豊かな会社が、
その価値が認められて社会に受け入れられると
株価にも影響してポコッと上がる、
ということはあります。
ただ、株っておもしろくて、
ぜんぜんダメだったところから
急にポコっと上がるんじゃなくて、
その前から、ちゃんと上がっていたりするんですよ。

もちろん、ぼくは株価を万能だと思っていませんが、
意外と市場はソフトマネーの部分を評価するし、
ぼくらもそこを評価していきたいと思っています。

投資家にもいろんな方がいて、
儲かってるか損してるかなんて関係なくて、
この会社の商品が好きだから株を買う、という
完全に応援投資をしている人がけっこういますよ。
たとえば、カゴメはまさにそういう会社です。
カゴメの株主総会は、
株主が、研究者や社長といっしょに
カゴメの文化を共有するための
パーティーになっているんですね。
そのパーティーに出たいがために、
カゴメの株を購入している人が
たくさんいらっしゃいます。
糸井 ああー!
たしかに、それは数字には表れない価値に
投資しているんですね。
藤野 もちろん、
ソフトマネーが豊富にあっても、
無名で今はまだ評価されていない会社も
いっぱいあります。
それでも、ぼくらは、
いつか必ず株価が上がると信じていますから、
そういう会社には投資をします。
ただ、しばらくは上がりません。
上がらないんですけど、
真面目に仕事をする会社であれば下がることもないので、
結果的には、投資家の資産は減らないんですよ。
糸井 なるほど。
藤野 そうしていると、あるときに
「この会社は価値があるんじゃないか」と
誰かが気づいて、
多額のハードマネーを払ってもいいという集団が現れる。
すると、ポコッと株価が上がります。
こういうふうに、ソフトマネーも
ちゃんと株価に反映されていくんですね。
糸井 ぼくは野球をよく見るのですが、
そういう市場でのソフトマネーの認められ方って
リーグ戦をしているスポーツの選手の成績と
とても似ていると思いました。
「あいつ、数字にはなってないけど、
 いい選手なんだよ」
って玄人筋がほめた選手は、
そのあとちょっと数字が上がるんですよ。
藤野 ああー、すごく似てますね。
ぼくらもそういう目線で、投資をしています。
たとえば、ある会社に1億円を投資して、
約5年で60億円になったケースがあります。
糸井 1億円が、5年で60億円に!
藤野 60倍になりました。
投資先は、
「JINS」というメガネを売っている会社です。
今では、街で店舗を見かけるようになりましたが、
5年前はちょこちょこっとあるくらいで、
あまり知られていませんでした。
そのころ経営が行き詰まっていて、
JINS の社長の田中(仁)さんは思い切って
ユニクロの柳井(正)社長に相談に行ったんですね。
糸井 柳井さんに。
藤野 JINS の株価などをさっと見たあと、
柳井さんはこう言ったそうです。
「このままだと倒産しますね」。
糸井 わぁ。
藤野 そして、
「あなたはなんのために
 メガネの会社をやっているんだ」
と訊かれたそうなんです。
そのとき、田中さんは
うまく説明ができなかったんですね。
それで、説明できなきゃ絶対ダメだ、と。
社長がわかってなかったら
社員もわからないし、お客さんもわからない、
というようなことを言われて、
田中さんはショックで
2日間くらい寝込んだそうです。
糸井 うんうん。
藤野 でも、彼のすごいところは、
3日目に立ち上がって、社員と合宿をしたんですよ。
これからどうしたらいいか、
どうなりたいかをめちゃくちゃ考えて、
とてもシンプルな答えにたどり着きました。
「世界でいちばんイケてるメガネをつくろう」。
そこで、会社がグッと変わったんですね。
ちょうどそのときに、ぼくらが会社訪問しました。
糸井 すごくいいタイミングだったんですね。
藤野 そのあと、
JINS はパソコンのブルーライトをカットする
「PCメガネ」で大ブレイクしました。
この背景には、
社長が「イケてるメガネをつくりたい」と言って
会社を変化させたことがあるんですね。
糸井 その、メガネに「イケてる」という言葉が
くっついているというのが‥‥。
藤野 そう、そこなんです。
そこが、彼らも腑に落ちたところなんだと思いますね。
世界一売るだけではなくて、
「かっこいい」とか「イケてる」というのを、
彼らはずっと考えているんです。
糸井 その言葉は一銭も生まないんだけれども、
その言葉を中心に集まった人たちが動くと、
無限に価値を生んでいくんですね。
藤野 そうです、そうです。
そして、店頭でいいメガネが見つかったと
お客さんによろこんでもらえると、
それがまた彼らの確信になる。
このプラスのスパイラルが、
JINS の躍進を支えたんだと思います。
(つづきます。)

2014-05-21-WED

星海社新書 820円(税別)
Amazonでの購入はこちら。
20年以上プロの投資家として活躍されてきた
藤野英人さんが、
「お金の本質とはなにか」について考えた結果を
1冊にまとめた本です。
この本を読んだ糸井重里は、
「非常におもしろかったです」と社内にメール。
希望者を募って本を配りました。
糸井重里の
「これは、いい参考書です。」いうつぶやきは
この本の帯にもなりました。

「ほぼ日」の創刊12周年記念の特集で、
テーマは「お金」でした。
なぜ、お金について「あえて」取り上げるのかという
糸井重里のイントロダクションからはじまり、
芸術家の赤瀬川原平さんや、みうらじゅんさん、
日本マクドナルド会長の原田泳幸さんなどにうかがった
お金にまつわるお話をまとめています。

日本・台湾の実業家、作家の邱永漢さんの
2000年から2002年まで連載したコンテンツです。
「金儲けの神様」と呼ばれた邱さんが
お金や経済を中心に、人間、人生についても執筆。
全900回の連載になりました。

「もしもしQさんQさんよ」を連載していた
邱永漢さんと糸井重里との対談が、
同タイトルでPHP研究所から出版されました。
このコンテンツは、対談本の立ち読み版です。
本についてはこちらをご覧ください。

就職すること、はたらくことについて
あらためて考えたコンテンツ特集です。
ミュージシャンの矢沢永吉さんや
ディズニーの塚越隆行さん、
マンガ家のしりあがり寿さんなど、
さまざまな職業や肩書きの方に話をきいたり、
読者にアンケートしてもらったりしました。