ファンドマネージャーの藤野英人さんは、
個人や会社からあつめたお金(ファンド)を
運用するプロの投資家で、
日本でもトップレベルの成績をあげられている
業界ではとってもスゴイ人。
このたび、縁あって
「ほぼ日」で講義をしてくださることになりました。
テーマは「投資」と「はたらくこと」。
その2つのテーマがどう結びつくのか、
はじめはポカーンとしていた「ほぼ日」の乗組員たちも、
藤野さんのお話が進むにつれて、納得した表情に。
実際、講義が終わったあとは乗組員から
「おもしろかった!」という声がたくさんあがったんです。
まずはじめに、テーマに沿った藤野さんの講義を5回、
その後に行われた糸井重里との対談を4回、
全9回にわたってお届けします。

第9回 ナマグサいおじさんが、ぼくを人間にしてくれた。

糸井 ちょっとした興味からうかがいますが、
藤野さんは、はじめから投資家になろうと
思っていたんですか?
藤野 いえ、ぼくはですね、
もともと検察官になりたかったんです。
祖父が裁判官だったこともあって、
裁判官とか、検察官になりたい、と。
ですので、ぼくは法学部を卒業しているんですよ。
糸井 へえー!
藤野 在学中、司法試験に合格できなかったので、
2年間ぐらい民間で仕事をしながら
司法試験の勉強をしようと思っていました。
大学のゼミの先輩に、
どうせやるんだったら、
世の中のことがわかる仕事にしたほうがいい、
金融はお金の流れを通じていろいろ見られるからいいぞ、
というふうに言われて、金融系の会社に入りました。
糸井 世の中の動きを知るために、
金融の世界に入ったんですね。
藤野 はい。
そしたら、たまたま配属されたところが、
中小企業への投資の部署だったんです。
当時のぼくは今とは真逆の考えで、
大きな会社こそすばらしいと思っていました。
中小企業の会社の社長は
資金繰りに苦労して脱税とかしている、
悪い人ばかりだと思い込んでいました。
糸井 そうなんですか。
藤野 検察官になったら、
そういう人を捕まえようと思っていましたから(笑)。
糸井 ああ(笑)。
藤野 ところが、
中小企業の社長さんに
毎日会いに行く仕事をすることになって。
最初は、そのナマグサさに「うっ」となったりして
ものすごい嫌だったんです。
でも毎日1時間半ぐらい、そのおじさんに会う。
それを3年ぐらいやると、だんだんね、
自分もナマグサくなってきて(笑)。
糸井 ははははは。
ナマグサい人に触れて、人間化していったんだ。
藤野 そうなんでしょうね。
それから4年たって、
その会社の寮から出ていくことになったので
部屋を片付けていたら、
押入れの中から司法試験関係の本がいっぱい出てきて。
「あっ、ぼくはこれやる予定だった」と思い出しました。
糸井 忘れてたんですね(笑)。
藤野 かんぺきに忘れていました。
最初は嫌だったんですけど、
仕事にどんどんのめり込んでいってたんです。
それはなんでかと言うと、
その生々しい、まさに人間同士のやりとりを
目の当たりにしていくうちに、
最初は捕まえたいと思ってた人が
だんだん、ヒーローに見えてきたんです。
ナマグサいおじさんに会うと、
目がウルウルするんですよ。
ぼくにとって、彼らはヒーローですから。
糸井 うんうん。
藤野 社長さんたちはいつも
机越しの「あっち側」にいて、
ぼくも、いずれあっち側に行きたいと
思うようになりました。
あっち側とこっち側の差はなんだろうか、
頭のよさかなとか、運のよさかなとか、
いろいろ考えてみたんですが、
ぼくの結論は「やるかやらないかの差」だと。
この境を飛び越えようと思ったのが、
6年目ぐらいのときです。
糸井 つまり、投資会社という形で、
境界線を飛び越えたわけですね。
藤野 そうです。
なんでもよかったんです。
なんでもよかったんですけど、
多くの社長さんはサラリーマン時代に経験したことを
ある程度活かして会社を経営していました。
ぼくが手にもっている職って、
ナマグサい社長さんと話して
そのなかから会社の価値を見出だす、
ということだったんですね。
それを6年半やりました。
日本って、転職したり異動になったりで、
6年半も一つのことをしている人が意外に少なくて。
糸井 はい。
藤野 それぐらいのころから、
外資系のヘッドハンターから
たくさん誘いを受けるようになりました。
なんでぼくなんですかって訊いたら、
外資系でも中堅企業に投資をする部署があるし、
あなたぐらいのキャリアの人はあまりいないんです、
と言われました。
金融の世界で6年半、
ナマグサいおじさんと会い続けたこと自体に
価値が出ていたんですね。

将来起業したいと思っていたので、
経験を積むために外資系に転職しました。
そして、2003年に、今やっている
レオス・キャピタルワークスという
会社を立ち上げました。
糸井 藤野さんは、そういう成り立ちだったんですね。
新鮮な食品を扱っているうちに、
どんどん感化されちゃったみたいな(笑)。
藤野 ほんとうに、そうですね(笑)。
糸井 そこがおもしろいですね。
数字や図面ではわからない、
ナマグサいおじさんの話に
涙が出てくるっていうのが‥‥、
やっぱり、かっこいいんでしょうね。
藤野 彼らはみんな本気だったんです。
企業家って、お金をつかみにいくときに
ものすごい力を出すんですよ。
お金をつかむ方法は、
売上を上げるか、銀行や投資家から得るかの
2つしかありません。
ぼくは、投資する会社を背負って
社長さんの前にいるわけですね。
つまり、社長さんからすると、
ぼくの後ろには莫大なお金があるので‥‥。
糸井 藤野さんを通じてお金をつかんでやろうという
意気込みがそのまんまぶつけられる。
藤野 ぼくにとって、それは最高の学びでした。
ナマグサい社長さんたちは、
ぼくからお金を引き出そうと思って
あらゆる手段を使うわけです。
泣き落とすとか、論理的に話すとか、
少し怒ってみるとか、それはもういろんなやり方で
ぼくに向き合ってくるんですね。
ずーっと直球を浴び続けられたので、
ぼくは成長することができたんです。
1時間半くらいの時間の中で、
すべて全力でボールを投げ込んできますから。
糸井 強烈ですよね。
藤野 みなさん本気でしたから。
それこそ、ぼくが
夢に近づくための司法試験を忘れるほどです。
糸井 とてもおもしろかったです。
また、いろいろ教えてください。
藤野 残り4時間分ありますので、
いつでもお話させていただきます。
糸井 さすがです(笑)。
ありがとうございました。
一同 ありがとうございました!
藤野 どうもありがとうございました。

(おわります。
 最後まで読んでいただき、
 ありがとうございました)

2014-05-26-MON

星海社新書 820円(税別)
Amazonでの購入はこちら。
20年以上プロの投資家として活躍されてきた
藤野英人さんが、
「お金の本質とはなにか」について考えた結果を
1冊にまとめた本です。
この本を読んだ糸井重里は、
「非常におもしろかったです」と社内にメール。
希望者を募って本を配りました。
糸井重里の
「これは、いい参考書です。」いうつぶやきは
この本の帯にもなりました。

「ほぼ日」の創刊12周年記念の特集で、
テーマは「お金」でした。
なぜ、お金について「あえて」取り上げるのかという
糸井重里のイントロダクションからはじまり、
芸術家の赤瀬川原平さんや、みうらじゅんさん、
日本マクドナルド会長の原田泳幸さんなどにうかがった
お金にまつわるお話をまとめています。

日本・台湾の実業家、作家の邱永漢さんの
2000年から2002年まで連載したコンテンツです。
「金儲けの神様」と呼ばれた邱さんが
お金や経済を中心に、人間、人生についても執筆。
全900回の連載になりました。

「もしもしQさんQさんよ」を連載していた
邱永漢さんと糸井重里との対談が、
同タイトルでPHP研究所から出版されました。
このコンテンツは、対談本の立ち読み版です。
本についてはこちらをご覧ください。

就職すること、はたらくことについて
あらためて考えたコンテンツ特集です。
ミュージシャンの矢沢永吉さんや
ディズニーの塚越隆行さん、
マンガ家のしりあがり寿さんなど、
さまざまな職業や肩書きの方に話をきいたり、
読者にアンケートしてもらったりしました。