糸井 | ちょっとした興味からうかがいますが、 藤野さんは、はじめから投資家になろうと 思っていたんですか? |
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藤野 | いえ、ぼくはですね、 もともと検察官になりたかったんです。 祖父が裁判官だったこともあって、 裁判官とか、検察官になりたい、と。 ですので、ぼくは法学部を卒業しているんですよ。 |
糸井 | へえー! |
藤野 | 在学中、司法試験に合格できなかったので、 2年間ぐらい民間で仕事をしながら 司法試験の勉強をしようと思っていました。 大学のゼミの先輩に、 どうせやるんだったら、 世の中のことがわかる仕事にしたほうがいい、 金融はお金の流れを通じていろいろ見られるからいいぞ、 というふうに言われて、金融系の会社に入りました。 |
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糸井 | 世の中の動きを知るために、 金融の世界に入ったんですね。 |
藤野 | はい。 そしたら、たまたま配属されたところが、 中小企業への投資の部署だったんです。 当時のぼくは今とは真逆の考えで、 大きな会社こそすばらしいと思っていました。 中小企業の会社の社長は 資金繰りに苦労して脱税とかしている、 悪い人ばかりだと思い込んでいました。 |
糸井 | そうなんですか。 |
藤野 | 検察官になったら、 そういう人を捕まえようと思っていましたから(笑)。 |
糸井 | ああ(笑)。 |
藤野 | ところが、 中小企業の社長さんに 毎日会いに行く仕事をすることになって。 最初は、そのナマグサさに「うっ」となったりして ものすごい嫌だったんです。 でも毎日1時間半ぐらい、そのおじさんに会う。 それを3年ぐらいやると、だんだんね、 自分もナマグサくなってきて(笑)。 |
糸井 | ははははは。 ナマグサい人に触れて、人間化していったんだ。 |
藤野 | そうなんでしょうね。 それから4年たって、 その会社の寮から出ていくことになったので 部屋を片付けていたら、 押入れの中から司法試験関係の本がいっぱい出てきて。 「あっ、ぼくはこれやる予定だった」と思い出しました。 |
糸井 | 忘れてたんですね(笑)。 |
藤野 | かんぺきに忘れていました。 最初は嫌だったんですけど、 仕事にどんどんのめり込んでいってたんです。 それはなんでかと言うと、 その生々しい、まさに人間同士のやりとりを 目の当たりにしていくうちに、 最初は捕まえたいと思ってた人が だんだん、ヒーローに見えてきたんです。 ナマグサいおじさんに会うと、 目がウルウルするんですよ。 ぼくにとって、彼らはヒーローですから。 |
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糸井 | うんうん。 |
藤野 | 社長さんたちはいつも 机越しの「あっち側」にいて、 ぼくも、いずれあっち側に行きたいと 思うようになりました。 あっち側とこっち側の差はなんだろうか、 頭のよさかなとか、運のよさかなとか、 いろいろ考えてみたんですが、 ぼくの結論は「やるかやらないかの差」だと。 この境を飛び越えようと思ったのが、 6年目ぐらいのときです。 |
糸井 | つまり、投資会社という形で、 境界線を飛び越えたわけですね。 |
藤野 | そうです。 なんでもよかったんです。 なんでもよかったんですけど、 多くの社長さんはサラリーマン時代に経験したことを ある程度活かして会社を経営していました。 ぼくが手にもっている職って、 ナマグサい社長さんと話して そのなかから会社の価値を見出だす、 ということだったんですね。 それを6年半やりました。 日本って、転職したり異動になったりで、 6年半も一つのことをしている人が意外に少なくて。 |
糸井 | はい。 |
藤野 | それぐらいのころから、 外資系のヘッドハンターから たくさん誘いを受けるようになりました。 なんでぼくなんですかって訊いたら、 外資系でも中堅企業に投資をする部署があるし、 あなたぐらいのキャリアの人はあまりいないんです、 と言われました。 金融の世界で6年半、 ナマグサいおじさんと会い続けたこと自体に 価値が出ていたんですね。 将来起業したいと思っていたので、 経験を積むために外資系に転職しました。 そして、2003年に、今やっている レオス・キャピタルワークスという 会社を立ち上げました。 |
糸井 | 藤野さんは、そういう成り立ちだったんですね。 新鮮な食品を扱っているうちに、 どんどん感化されちゃったみたいな(笑)。 |
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藤野 | ほんとうに、そうですね(笑)。 |
糸井 | そこがおもしろいですね。 数字や図面ではわからない、 ナマグサいおじさんの話に 涙が出てくるっていうのが‥‥、 やっぱり、かっこいいんでしょうね。 |
藤野 | 彼らはみんな本気だったんです。 企業家って、お金をつかみにいくときに ものすごい力を出すんですよ。 お金をつかむ方法は、 売上を上げるか、銀行や投資家から得るかの 2つしかありません。 ぼくは、投資する会社を背負って 社長さんの前にいるわけですね。 つまり、社長さんからすると、 ぼくの後ろには莫大なお金があるので‥‥。 |
糸井 | 藤野さんを通じてお金をつかんでやろうという 意気込みがそのまんまぶつけられる。 |
藤野 | ぼくにとって、それは最高の学びでした。 ナマグサい社長さんたちは、 ぼくからお金を引き出そうと思って あらゆる手段を使うわけです。 泣き落とすとか、論理的に話すとか、 少し怒ってみるとか、それはもういろんなやり方で ぼくに向き合ってくるんですね。 ずーっと直球を浴び続けられたので、 ぼくは成長することができたんです。 1時間半くらいの時間の中で、 すべて全力でボールを投げ込んできますから。 |
糸井 | 強烈ですよね。 |
藤野 | みなさん本気でしたから。 それこそ、ぼくが 夢に近づくための司法試験を忘れるほどです。 |
糸井 | とてもおもしろかったです。 また、いろいろ教えてください。 |
藤野 | 残り4時間分ありますので、 いつでもお話させていただきます。 |
糸井 | さすがです(笑)。 ありがとうございました。 |
一同 | ありがとうございました! |
藤野 | どうもありがとうございました。 |
(おわります。
最後まで読んでいただき、
ありがとうございました)
2014-05-26-MON
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「ほぼ日」の創刊12周年記念の特集で、 |
日本・台湾の実業家、作家の邱永漢さんの |
「もしもしQさんQさんよ」を連載していた |
就職すること、はたらくことについて |