糸井 |
そもそも、なぜ、いちばんはじめに 南三陸町へ行ったんですか? |
---|---|
西條 |
うちの父が 「じゃあ、南三陸町行くかあ」って 言ったんで、それで。 |
糸井 | ‥‥それが理由? |
西條 | そう、それだけです(笑)。 |
糸井 | じゃ、偶然なんだ。 |
西條 |
はい。 偶然というなら、そもそもが偶然で、 はじめは 旧ソ連の特殊部隊で採用されている 「システマ」という武術の インストラクターをやっている 北川さんという人のふたりで行こうと してたんですね。 |
糸井 | システマ‥‥ええ。 |
---|---|
西條 |
ふたりの「ゴールドペーパードライバー」が バンを物資で満載にして、首都高に乗って。 |
糸井 | 危険‥‥(笑)。 |
西條 |
まわりには、地震よりも そっちで死ぬ可能性が高いぞとか言われて。 |
糸井 | たしかに。 |
西條 | それで、「I will be」という会社社長の で、その松前さんが |
糸井 | 偶然の連続。 |
西條 | そんなご縁から、すべてが始まったんです。 |
糸井 | 計算ずくじゃ、ムリな展開ですね。 |
西條 | だから、今でも「流れ重視」でやっていて、 先の「予定」は、極力立てないんです。 |
糸井 | 理論的にも「そうすべき」なんですか? |
西條 |
いや、これはまず「経験的に」ですね。 なにしろ、あまりにも 被災地の状況の変化が激しいので、 「予定」じゃ、動けないんですよ。 路線変更も、しょっちゅうだし。 |
糸井 |
いま、お名前が出てきた、 三浦さんとか、北川さんとか‥‥。 |
西條 | はい。 |
糸井 |
その、言ってみれば「ふつうの人」に 内在した情報が、 ものすごく重要だったわけですね。 |
西條 |
そのとおりです。 個と個がつながっていくと、早かったです。 |
糸井 |
いま、バリッとしたスーツの西條さんが、 そういう状況の中で どうやって 現地の人とコミュニケーションとるんだろうって ちょっと思うんですけど‥‥ 「鶴瓶さん」でもあるまいし(笑)。 |
西條 | やっぱり、方言になりますよね。 |
糸井 | あ、そうなんだ。 |
西條 |
どうも、方言の方がうまくいくことに 気づいたんですよ、途中で。 あとは、父がいたことも、大きいです。 |
糸井 | ほう。 |
西條 | 実は実家が剥製屋で 父はむかし、ハンターもやっていたんですね。 船も持っていて ぼくも小さいころは色々なところに 連れて行ってもらっていたんです。 |
糸井 | はー‥‥。 |
西條 |
つまり、道を知ってるんですよ、ぜんぶ。 だから、橋が落ちてたりしても カーナビなんか、いっさい使わずに 「じゃ、あっちから行くか」って。 |
---|---|
糸井 | 頼れるなぁ。 |
西條 |
それに、そのへん歩いてる人に 「誰々さん、知らねえすかや」とかって いきなり、訊いちゃうんです。 そしたら 「ああ、あっちに逃げたよ」って、 「第一村人」で 探してる人を、見つけちゃったりとか。 |
糸井 |
あの、すごくおもしろいんですけど(笑)、 お父さんは、 西條さんの考えていることを理解して 一緒に行動しているんですか? |
西條 | 基本的に、あまり理解してないと思います(笑)。 信頼してくれているのは感じますが。 |
糸井 | いいコンビだなぁ(笑)。 |
西條 | できれば、現地の人を入れたりと 多様なスキルを持ってる人たちが集まって 組むのが、理想的なチームですね。 |
糸井 |
オレはこういう理論を持ってるから それで行きたいと思う‥‥とか お父さんを誘ったわけじゃ、ないですよね? |
西條 | ええ。 |
糸井 | 何て言って誘ったんですか、お父さんは? |
西條 |
うん、まあ、そうですね‥‥ とくに、何と言ったわけじゃないんですけど、 とにかく 「ゴールドペーパードライバー」なんで、 ぼくは(笑)。 |
糸井 |
そのあたりは、「映画」として観てたら、 めちゃくちゃおもしろい場面だね(笑)。 |
西條 | いろいろ変わった人が集まってますしね。 |
糸井 | そうみたいですね、聞いてると。 |
西條 | 武術の師範、社長、 哲学や心理学の教師と、元ハンターの剥製屋(笑)。 |
糸井 | いや、いいチームだ(笑)。 |
西條 |
システマの師範の北川さんの存在も 心強かったですよ、実際。 |
糸井 |
そうでしょうね。 具体的な強さを持ってますものね。 |
西條 |
ぼくが、ツイッターで「行きたい」と つぶやいたら 「それは、ぜひ行くべきです」って 背中を押してくれたのが、北川さんで。 |
糸井 | へえー‥‥。 |
西條 | それで「一緒に行きませんか」 「行きます」‥‥となって、 いきなり、行くことになったっていう。 |
糸井 |
こういうとき、 エンジン系の人って重要なんだよなぁ。 |
西條 | 本当に行ってもいいんだろうか、 東京にいる家族を心配させるかもと どこかで逡巡していたんですけれども、 「いま、行くべきです!」と ハッキリ言われて。 |
糸井 |
自分以外の人の言葉が 自分を動かす力って、すごいんですよね。 |
西條 | いま、北川さんに 副代表をやっていただいてるんですけど、 何かに迷ったときに話すと、整理されるんです。 |
糸井 | うん。 |
西條 | 的確なアドバイスを言ってくださるし。 |
糸井 | うん、うん。 |
西條 | ぼくはデマだとは思ってましたけど、 もし変な人たちに襲われたら 北川さんに戦ってもらえばいいかとか(笑)。 |
糸井 | ははははは(笑)。 |
西條 | 少し治安が悪い、みたいな噂は ありましたから。 |
糸井 |
治安についてのデマを流す人たちって みんなを、 自分の不安に巻き込みたいのかなぁと 思うんですけど‥‥。 |
西條 | ええ。 |
糸井 |
暗闇で「光」を見つけたときに、 明るくなったって言う人と 眩しいって言う人と、いるでしょう。 あらゆる場面で ネガティブに形容する人はいるんですが、 ポジティブに考えたほうが、 緊急時の生存率は、あがると思うんです。 |
---|---|
西條 | そうかもしれません。 |
糸井 |
何ができるもかわからないまま、 あてもないまま、 ゴールドペーパードライバーのまま、 南三陸町に行っちゃった 西條さんも、ポジティブ型ですよね。 |
西條 |
基本的には、そうだと思います。 今回の震災で思ったのは、 自分の叔父さんも亡くなってしまったし、 故郷が、むちゃくちゃになってしまった。 だから、自分のできることは すべてやろうって、もう、決めたんです。 |
糸井 | なるほど。 |
西條 | 構造構成主義という考え方は、 「OS」みたいなものなんで 何においても役立つものなんですが 学者の世界や 医療・教育現場に広まっていくくらいで いいかなと、思ってたんです。 有名になって めんどくさいことになるのも嫌だし。 |
糸井 | ほう。 |
西條 | ‥‥でも、そのリミッターを、外そうと。 |
糸井 |
今日、お話をしてみて、 まず、興味を持ったことがあるんですけど。 |
西條 | ええ。 |
糸井 |
プロジェクトを主催する西條さんが 実際に会ったこともない人と組んだり、 あるいは 自分の目の届かない範囲の動き、 つまり、自分の管轄ではないところを 「放っておけること」なんです。 |
西條 | ぼくは直感タイプなんです。 |
糸井 | もともと、そういう人だったんだ。 |
西條 | 学者になろうって気もなかったし‥‥。 |
糸井 |
だから、あれだけ多くのプロジェクトを どんどん、進められるんだなぁって。 |
西條 | 全体状況、すべてを把握はできません。 |
糸井 |
今、進めているプロジェクトって 他にも、いろいろあると思うんですが、 たとえば‥‥。 |
西條 |
最近では「ガイガーカウンター・プロジェクト」 というのを、立ち上げました。 |
糸井 | 放射線量をはかる機械の、あの。 |
西條 |
福島第一原発の放射線の問題って、 「科学の問題」として 取り組まなければ、ならないんですよね。 |
糸井 | まさしく、そうですね。 |
西條 | まず、小学校単位で 同じ機種のガイガーカウンターを渡して、 正しいリテラシーを伝えて 使いかたを、覚えてもらう。 同じ場所に集まれば 「校正」もしやすいですから。 |
糸井 |
つまり「ある考え方」を補強するためじゃない、 ガイガー・カウンターの使用法。 |
西條 |
そうです、そうです。 具体的に、子どもたちの安全を考えるなら、 通学路を調べればいいと思うんです。 で、放射線量の高いルートは通らないよう、 安全なルートを見つけ出す。 |
糸井 | ええ、ええ。 |
西條 | 外と家の中はどのくらい違うのか、 実際、鉄筋コンクリートの建物の中は |
糸井 | うん、うん。 |
西條 | 福島の放射線の問題については、 そういう 生活者レベルで把握できないと、 ボランティアも入れないし、 支援物資も止まってしまいかねないんです。 |
糸井 | 話を具体的にしよう、と。 |
西條 |
キメの細かい情報が得られないと 「イチかバチか」みたいな話にしか、ならない。 |
糸井 | うん、うん。 |
西條 |
そして、そのプロジェクトでは 「原発賛成、反対」の話とは、切り離すんです。 |
---|---|
糸井 | それは、すごく重要ですよね。 |
西條 | そこの論争に巻き込まれちゃったら、 データ自体、信じてもらえなくなりますから。 |
糸井 | うん。 |
西條 | あくまで科学的に、フラットにやる。 |
糸井 | それは、ほんとに大事なことだと思う。
|
西條 | そう、そうなんです。 |
糸井 | つまり「信念の話」に、ならないように。 |
西條 | プロジェクトは政争の場ではないので、 そういうかたちで、 |
<つづきます>