強さの磨き方。格闘技ドクター二重作拓也 ☓ 糸井重里 どうしたら人は、もっと強くなれるのだろう?

強さの磨き方。格闘技ドクター二重作拓也 ☓ 糸井重里 どうしたら人は、もっと強くなれるのだろう?

挌闘技ドクターこと、二重作拓也さん。
現役の医師でありながら、
国内外で挌闘技セミナーを開いたり、
敬愛するプリンスの名言をまとめた
『プリンスの言葉』という本を書いたりと、
枠にはまらない活動をつづけている方です。
そんな二重作さんと糸井重里がはじめて会い、
いろいろなことを長く話しました。
キーワードは「強さ」について。
なぜ人は強さに憧れるのか?
なぜ人は強くなりたいと思うのか?
発見と驚きのつまった対談を、
全8回にわけてお届けいたします。

二重作拓也さんのプロフィール
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第1回 プレイヤーの発想。

糸井
よろしくお願いします。
二重作
よろしくお願いします。
まさか糸井さんにお会いできるなんて。
声をかけてくださってありがとうございます。
糸井
ツイッターでやりとりはしてますが、
お会いするのは初めてですね。
二重作
いまこれを読んでる人は
「こいつは何者なんだ?」
と思ってるところだと思います(笑)。
糸井
最初にぼくが二重作さんを知ったのは、
ツイッターだったと思います。
誰かがリツイートしたのを見て、
それが一発でおもしろくて。
二重作
一発ですか?
糸井
その一発のおもしろさで、
すぐに「誰だろう」と思って、
どういう人かたどってみたんです。
それで二重作さんのことを知って、
格闘技ドクターとしての活動だったり、
考えてることや書いてることを読んで、
すごくワクワクしたんです。
ぼくからすると、
フィロソフィーが一致したというか。
二重作
えぇぇ! まいったなぁ(笑)。
糸井
やっぱり誰でもみんな、
フィロソフィーが一致した人同士で、
ごはんを食べたり、バカ話をするんですよ。
フィロソフィーが一致してるから、
どんなに意見が食い違っても、
食い違ってることを話し合えるわけで、
違うからって攻撃されることもないし。
そういう人同士が出会うには、
ツイッターはおもしろい場所ですね。
二重作
すごく光栄です。
見つけてくださったことに感謝します。
二重作拓也さん
糸井
見つかっちゃうんですよ、必ず。
二重作
人とのご縁って「ドミノ」みたいなものだと
ぼくは思っていて、
糸井さんに向けて文章を書いたわけじゃないのに、
まずは1人目、それから次の人と、
ひとりひとりがつながっていくことで、
糸井さんにまで届いたような気がします。
糸井
ぼくが最初に読んだのは、
たぶん「AED」についての文章だと思います。
「AEDの講習を1回受けたくらいじゃ、
絶対にうまくつかえないよ」って書いてあって。
すごくインパクトがありました。
二重作
ありがとうございます。
ネットにAEDのことや
心臓震盪(しんぞうしんとう)のことを書くと、
たいがい返ってくる反応が
「うちのジムでもその講習は受けました」なんです。
糸井
あぁ、その程度なんですね。
二重作
はい。ぼくが言いたかったのはそこじゃなくて、
目の前で人が生きるか死ぬかという状況で
「ほんとうにきちんと救命行為ができますか?」
というところなんです。
そもそも現代人は、
人が死にそうな瞬間にあまり遭遇しないので。
糸井
めったにないでしょうね。
二重作
ぼくら医師にとっては日常茶飯事です。
どんなにベストを尽くしても、
結果がともなわないこともあります。
実際、自分の大切な人が意識を失うのと、
知らない人が倒れているのとでは、
状況もぜんぜん違います。
「目をつぶってもできる」とか
「人につかい方を教えられる」とか、
そこまでになってくれないと、
パニック状態ではうまくつかえないよ、
ということが伝えたかったんです。
糸井
あと、感染被害のことも書かれてました。
リング上での血液による感染被害。
二重作
HIVや肝炎などの「血液感染」ですね。
糸井
格闘技の試合で相手が出血したとき、
その返り血を浴びるのって、
ほんとうはものすごく危険なんですよね。
「みんな血液感染症の被害を、
ちょっと甘く見てるんじゃないの?」
みたいなことが書かれてました。
糸井重里
二重作
他人の血液にさわっちゃいけないのは、
病院の中では当たり前なんです。
しかも試合前に検査したとしても、
2か月以内の感染はわからない。
リングやサンドバッグに付いたウイルスは、
数か月生きるという報告もあります。
みんなそういうことを、
意外と知らなかったりするんです。
糸井
格闘技でリングについた血って、
プロレスでいう「華」じゃないですか。
それを「ダメだよ、それ」って言うあたり、
二重作さんのサイトを読もうと思った
きっかけだったかも。
二重作
たしかに、当事者のなかには、
そういう危険性をダイレクトに言う人って、
あんまりいなかったかもしれないです。
糸井
でも、プロレスにも医者はいるじゃないですか。
リングドクターはいるわけで。
二重作
最近はだいぶ変わってきましたが、
昔のリングドクターの方々って、
プレイヤーのマインドではなかったような気がします。
ぼくは8歳から空手をやってるので、
考え方が基本的にプレイヤーなんです。
空手少年がまちがえて
ドクターになった結果がぼくなので(笑)。
糸井
そうか、順番がそっちなんだ。
だから自分の体をつかって、
レントゲンをたくさん撮るんですね。
二重作
撮っちゃいますね(笑)。
糸井
ファイティングポーズで、
レントゲン撮ってますもんね(笑)。
二重作
ぼくは空手少年だったので、
どういうパンチが強いのか、
自分が論理的に知りたいんです。
例えば、空手の「正拳突き」って、
打つ前にわき腹の横で拳を構えてから、
パンチを突き出します。
これ、見た目だけ比べると、
ボクサーのパンチとは違います。
糸井
あぁ、たしかに。
ボクサーは腕が顔の前ですからね。
二重作
そうなんです。
じゃあ、なんで空手のパンチは、
わき腹の横に拳を構えてから打つのか。
なぜそうやって伝わってきたのか。
その理由は、拳を体幹にくっつけてから
しぼるようにパンチを出すと威力が上がるし、
体も壊さないよという、
先人たちのメッセージだったんです。
それがレントゲンを撮るとわかっちゃう。
糸井
それは、なぜわかるんですか?
二重作
拳を体幹にくっつけるパターンと、
くっつけないパターンの両方のフォームを、
レントゲンで撮影して比べてみたんです。
そうすると拳を体幹にくっつけないときは、
靭帯や関節まわりのやわらかい組織で、
衝撃の反作用を受けていました。
一方、体幹に触れてからパンチを出すと、
骨と骨の関節がうまく連結して、
反作用を「肩甲骨」で受け止めていたんです。
負荷の受け止め方がまったく違った。
糸井
おもしろいなぁ(笑)。
他の医者からしたら
「なにやってんの?」ですよね、きっと。
二重作
ヘンな人ですよね(笑)。
でも、つい撮りたくなっちゃって。
糸井
そういう事実を1つ2つ知ってると、
やる側の意識もぜんぜん変わってきますね。
二重作
そうなんです。
こういう知識を知ってると、
ケガをしにくい練習体系づくりを
考えることもできます。
ボクサーが脇をしめて打つのと、
空手の正拳突きが
同じ原理だったこともわかります。
ただ、これまでの常識と違うこともあるので、
そこは丁寧に説明しないと
「あいつは今までの格闘技を否定してる」
というふうに思われかねない。
糸井
そうでしょうね。
二重作
ぼくがなにか言うときは、
「プレイヤーの命や健康を守ることは、
格闘技や武道を守ることでもある」
というような伝え方をします。
正しい情報をみんなで共有して
安全意識をもっと高めていかないと、
スポーツとしての格闘技は、
100年後にはなくなってるかもしれないので。
糸井
あぁ、やっぱりそう思いますか。
二重作
ぼくはそう思います。
文化として格闘技を残していく以上、
プレイヤーの安全性は
もっと確保していかないと。
このままではちょっと安易な気がするんです。

(つづきます)

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