強さの磨き方。格闘技ドクター二重作拓也 ☓ 糸井重里 どうしたら人は、もっと強くなれるのだろう?

強さの磨き方。格闘技ドクター二重作拓也 ☓ 糸井重里 どうしたら人は、もっと強くなれるのだろう?

挌闘技ドクターこと、二重作拓也さん。
現役の医師でありながら、
国内外で挌闘技セミナーを開いたり、
敬愛するプリンスの名言をまとめた
『プリンスの言葉』という本を書いたりと、
枠にはまらない活動をつづけている方です。
そんな二重作さんと糸井重里がはじめて会い、
いろいろなことを長く話しました。
キーワードは「強さ」について。
なぜ人は強さに憧れるのか?
なぜ人は強くなりたいと思うのか?
発見と驚きのつまった対談を、
全8回にわけてお届けいたします。

二重作拓也さんのプロフィール
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第3回 最強という幻想。

糸井
医師としての二重作さんは、
リハビリがご専門でしたよね。
二重作
はい。
スポーツドクターとリハドクターを
兼務させていただいてます。
糸井
リハビリで思い出すのは、
作家の浅生鴨さんの話なんです。
鴨さんは昔、大交通事故にあって、
ほとんど瀕死の状態で
病院に運ばれたことがあるんです。
足がほとんど切断された状態で、
心臓も一瞬止まったとかで‥‥。
二重作
えーー、そうでしたか!
糸井
それで大手術で一命をとりとめて、
ものすごくリハビリをがんばったおかげで、
いまの彼があります。
そういう経験をしてるから、
彼は神経細胞のこともけっこう詳しくて、
足の神経をすべてつなぎ直せないから、
手術でざっくりとつないでおいて、
あとは勝手に生成させるみたいで。
二重作
リハビリをしながら
マッチングさせていくわけですね。
二重作拓也さん
糸井
それがリハビリの正体だとしたら、
できないに決まってるようなことを
ひたすら繰り返すことになるから、
彼は「ものすごく脳が疲れる」って。
二重作
まさにその感覚だと思います。
できないをできるに近づけるのって、
脳からどれだけ神経衝撃を
発生させられるかなんです。
ぼくはリハビリの回復期病棟も
担当しているんですけど、
そこにいる患者さんたちは、
そのへんの格闘家よりも、
みんなまじめに練習してますね。
88歳のおばあちゃんが、
毎日合計3時間は運動してますから。
糸井
へーーー!
二重作
ぼく46歳ですけど、
毎日3時間の練習なんてできません。
糸井
みなさん、それをやるんですか?
二重作
みんな一生懸命やってます。
糸井
はぁぁ、立派ですねー。
二重作
ほんとに。
だから格闘家には時々、
そのような大先輩たちの姿を見せます。
そしたらみんな背筋がピシッとなって、
やる気になってくれるので。
糸井
すばらしいですね、人間。
二重作
ことばをよりも、
一生懸命やってる姿のほうが、
胸を打つみたいですね。
糸井
ほんとうにゼロに近いところで、
自分を発想できるんでしょうね。
結局、いちばん強いというのは、
そういうレベルのものかもしれないなあ。
二重作
そうですね。
糸井
きょうはいろんな方向に
話が飛びかってますが(笑)、
ようするに二重作さんは、
強いという観念を、
磨いたり、こすり合ったりすることに、
どこかのタイミングで
たのしさを見出したわけですよね。
二重作
そうですね。
強くなる方法を探していたら、
「強さってなんだろう?」にぶつかったんです。
とくに選手時代というのは、
強さを磨くということに関しては、
信じることしかできないんです。
自分が空手というフィールドにいるなら、
空手がいちばん強いかどうかはさておき、
「自分が強くなる道はこれだ!」
と思いこまないといけません。
そこに疑問の余地をはさむと、
練習に身が入らなくなるんです。
自分が命をかけてるものより、
もっといいものが他にあるとわかった時点で、
気持ちはぶれちゃいます。
糸井
あぁ、そうか。
二重作
だから選手のときは200%信じて
練習に打ち込むわけですが、
ある程度選手生活をやり終えると、
ふと頭をよぎるわけです。
「強さっていろいろあるのかも」と。
つまり、迷いが生じてくる。
そうすると「強さってなんだろう」という疑問に
行き着いてしまいます。
糸井
うん、そうなりますね。
二重作
そこからまた考えていくと、
少し見えてくるものがありました。
強さはルールや条件で変わる。
つまり「条件付きの強さ」の姿が見えてきた。
糸井
それはショックでもあったでしょう。
二重作
はい、ショックでした。
でも、それがおもしろさのスタートでもありました。
例えば、ボクシングって、
手が長い選手のほうが有利ですよね。
なぜリーチのある選手が
有利になるかわかりますか?
糸井
相手より先に手が届くから、
ではないんですか?
二重作
それも正解なんですが、
その前提として
「離れた状態で試合がスタートする」
というルールがあるからなんです。
糸井
あぁ、なるほど。
もしくっついたままだったら‥‥。
二重作
くっついた状態でスタートするなら、
リーチは短いほうが有利です。
離れてからスタートするというルールを、
どこかの誰かが決めたんです。
その影響をぼくたちは受けています。
糸井
つまり、幻想の強さだったわけだ。
二重作
幻想だったんです。
バスケットボールの選手も、
背が高いほうが強いというのは、
ゴールが高いところにあるからです。
ゴールが地上30センチにあったら、
165cmのぼくのほうが絶対有利です(笑)。
糸井
あと、ゴールが動いてるとかね。
二重作
そうですね(笑)。
だから、強さっていうのは、
「条件によって変わる」
「環境や評価基準の影響を受ける」
ということがわかってきたんです。
二重作拓也さん
糸井
あるルールで最強の人は、
ちょっとルールが変わると、
最強じゃなくなっちゃうわけだ。
二重作
その可能性が出てきます。
例えば、昔はヒエラルキーがひとつで、
頂点にいる人が最強と認められました。
極真空手の世界チャンピオンは
世界最強と認知され、
若者たちもそこを目指していました。
糸井
そういう漫画もありましたからね。
二重作
漫画もあったし、幻想もありました。
でも、いまはいろんな価値観があって、
いろんなルールでもそれなりに強いことが
ほんとうの強さだよね、
という新しい価値観が出てきたんです。
昔はメディアが取り上げて、
マスが最強を認識すればそれで済んだけど、
いまはそういう時代とも違います。
糸井
ヒエラルキーはひとつのほうが、
メディアも物語をつくりやすいんでしょうね。
二重作
それはあったと思います。
強さというのは、
時代の影響も受けるものなんだと思います。

(つづきます)

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