強さの磨き方。格闘技ドクター二重作拓也 ☓ 糸井重里 どうしたら人は、もっと強くなれるのだろう?

強さの磨き方。格闘技ドクター二重作拓也 ☓ 糸井重里 どうしたら人は、もっと強くなれるのだろう?

挌闘技ドクターこと、二重作拓也さん。
現役の医師でありながら、
国内外で挌闘技セミナーを開いたり、
敬愛するプリンスの名言をまとめた
『プリンスの言葉』という本を書いたりと、
枠にはまらない活動をつづけている方です。
そんな二重作さんと糸井重里がはじめて会い、
いろいろなことを長く話しました。
キーワードは「強さ」について。
なぜ人は強さに憧れるのか?
なぜ人は強くなりたいと思うのか?
発見と驚きのつまった対談を、
全8回にわけてお届けいたします。

二重作拓也さんのプロフィール
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第5回 戦いの中で戦わない。

糸井
そもそも「強さ」を磨くなんてこと、
人間のDNAには
インプットされてないはずです。
二重作
ぼくもそう思います。
だって、歯がありますから。
対人用の武器としては歯があれば十分。
糸井
そうか、歯はすごい武器ですね。
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二重作
いくら挌闘技をやってるぼくでも、
小学生に思いっきり急所を噛まれたら、
動けなくなると思います。
社会全体に「噛みつきはやめましょう」という
暗黙のルールであるからいいけど。
糸井
つまり、ほんとうの強さというのは、
すでに文明的にはいらないわけですよ。
前にもどこかで話したけど、
チンパンジーのボス争いって、
パフォーマンスの部分もあるんです。
二重作
そうなんですか?
糸井
昔、ドキュメンタリーで見たんですが、
チンパンジーのボス争いって、
木を揺らしたり、石を川に放り投げたり、
大騒ぎすることで勝ち負けが決まるそうで。
二重作
えぇ、おもしろいですね。
なんだかロックコンサートみたい(笑)。
糸井
そう、永ちゃんなんです。
二重作
あぁ、マイクスタンドを投げたり(笑)。
糸井
実際のチンパンジーのボス争いって、
殴り合ったり、腕をへし折ったり、
そういうのはほとんどないらしくて。
二重作
そういうピースフルじゃないことは、
よろしくないわけだ。
糸井
小突いたり、追いかけたりはあるんです。
逃げたり、追いかけてる途中で、
1匹が木にぶら下がって枝をワサワサーってやると、
もう1匹もワサワサーってやる。
それを見て「いまのは負けた」と思うとまた逃げて、
今度は川のところで水をバッシャバシャやって。
二重作
おもしろい(笑)。
糸井
人間になる前のチンパンジーでそれだから、
つまり、強いということは
「イメージ」で良かったんですよ。
二重作
そうですね。
「強そう」でいい。
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糸井
ねぇ(笑)。
体が大きいとか、筋肉がムキムキとか、評判で「強そう」と思われたら、それで十分にボスをやれるわけです。
チンパンジーの段階ですでにそうなんですよ。
二重作
「強そう」というイメージと、
あとは実際に「動ける」も大切な要素です。
動けるやつはモテます。
フィギュアスケートの羽生結弦選手もそう。
氷の上なら人類史上、
もっとも華麗に動ける人です。
糸井
ああ、なるほど。
「動ける」ね。
二重作
人には「ミラーニューロン」という
神経細胞があるから、
動ける人を見るのはそれだけで快感です。
だから動ける人はモテる。
だって、そういう人は
マンモスを取ってきてくれそうだし(笑)。
もしかしたらそういう人に
拍手をおくるDNAが人類にはあるのかも。
糸井
氷を滑るというのも、
動けるのバリエーションだもんね。
そうか、ミラーニューロンか。
二重作
マイケル・ジャクソンもプリンスもそう。
とにかく動ける人は強い。
糸井
そうだね。
二重作
だからこそおもしろいのは、
年齢が上がって動けなくなってきた時に、
どうやって「動いた結果」を見せられるかです。
糸井
これまで採った肉の在庫を見せるとかね(笑)。
二重作
その手もありますね(笑)。
いや、じつはこの前、
チリで格闘技医学のセミナーをやった時に、
「スパーリングの相手をしてください」って、
20歳の南米チャンピオンが出てきたんです。
ぼく、46歳ですからね(笑)。
まともにやって勝てるわけがない。
糸井
それ、危ないですよね?
二重作
危ないです。
まともにもらったら大変です。
同じように殴りあって、蹴りあっても、
絶対に勝てない相手です。
でもその時、
46歳だからこその戦い方を見つけたんです。
糸井
ほう。
二重作
まずは一発ももらわないように、
動いて、動いて、相手の攻撃をかわす。
かわしつづけると、向こうは疲れてきます。
頭の中が「?」マークで埋まります。
そうなると必ずスキが生まれます。
さらに、ぼくは攻撃をかわしながらも
相手の情報を集めているので、
後半はこちらのカウンターが刺さる。
糸井
はーー、なるほど。
そんな戦い方、
若い人にはできないですね。
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二重作
できないです。
というか、ぼくもできなかったですし(笑)。
戦いの中で戦わないというか、
戦いのフォーマットの中では競い合わない。
糸井
おもしろいなぁ(笑)。
いや、社会集団が何かをしていく時って、
それと同じようなことがいっぱい言えますね。
つまり、古典としては「孫子の兵法」とか、
みんないろいろ知ってはいるんだけど。
二重作
そうなんです。
なにも格闘技だけの話じゃないんです。
糸井
ぼくがドラッカーをおもしろがってるのも
そういうところがあって、
ドラッカーは自分のことを
「社会生態学者」と言ってるらしいんです。
社会の生態を観察する人。
二重作
おもしろいですね。
糸井
ドラッカーについては、
パラパラと本を読んだだけなんですが、
ぼくが「すげぇ!」と思ったのは、
「市場の創造が仕事です」という考え方です。

ドラッカーがいう「市場」とは、
顧客の集合体という意味でもあるんだけど、
ぼくは自分たちを支持してくれて、
自分たちのパフォーマンスを発揮できる場所、
というふうに解釈できると思ったんです。
二重作
あぁ、なるほど。
そして、その場を自分たちでつくりだすと。
糸井
いまの格闘技の話もまったく同じで、
相手がいて、何をするべきかわかってる時、
こっち側から新しい相手をつくっているわけです。
二重作
あぁ、たしかにそうかもしれないです。
糸井
さらにいまの話って、
20代の南米王者が挌闘技ドクターと戦うことで、
彼は彼で市場をつくったんです。
つまり、こういう戦い方もあるんだというのは、
彼の中にも市場をつくったことになる。
だからそういうふうに、
もっとたくさん応用することができます。
それをただ「相手に勝つため」という、
挌闘技の話にせばめちゃうのはもったいない。
二重作
もったいない。非常にもったいないです。
糸井
市場というのは、
それこそ自分の活躍の場所だし、
自分のポテンシャルを活かす場所で、
それをどうやってつくるかって話なんです。
だからそれってもう、
人生を生きることそのものですよね。

(つづきます)

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