中山さんのプロフィールはこちら
東京大学理学部生物学科に入ったものの、
やはり音楽をやっていくことを選択して、
ジュネーヴ音楽院古楽センターに進み、
ヴィオラ・ダ・ガンバ専攻で卒業。トゥール音楽院で
ルネサンスダンスとリローネを学ぶ。
在学中よりEnsemble Elyma, Ensemble Concertoほか
ヨーロッパの多くの古楽アンサンブルのメンバーとして、
また独奏者としてスイス・イタリア・フランスなど各地の
コンサート、音楽祭、録音などに参加。帰国後は
パリで創設したグループHarmonia Grave e Soaveの日での
公演のプロデューサーとして、また古楽のほかジャズや即興、
ダンスとの共演も多く行っている。演劇作品への出演も多く、
2016年には河合祥一郎主宰のKawai Projectで
シェイクスピア作『まちがいの喜劇』公演の
舞台上での演奏を担当した。
Photo by Ruriko Nakayama
佐藤さんのプロフィールはこちら
東京芸術大学声楽科及び同大学院古楽科修士課程卒業。
卒業時にアカンサス賞受賞。スイスのスコラ・カントルムで
学び、バロック科修士、中世・ルネサンス科修士課程修了。
第2回国際古楽コンクール第一位(ポズナン)、
第28回国際古楽コンクール山梨第一位及び上原賞(山梨)、
第2回ヘンデルアリアコンクール第三位(マディソン)を
受賞。中世から古典派までのレパートリーを中心に、
オペラやアンサンブルのソリストとして国内外共に精力的に
活動。特にオペラでは、渡欧前ミュージカルや芝居の舞台に
多数主演した経験を活かし、現地の演出家やメディアより
好評を博す。
https://www.yukiesato.com/
- ーー
- 今日は古楽の魅力を語っていただきたいと思います。
- 中山
- ぼく、古楽っていう言葉を使わないようにしているんです。
バロック音楽とかルネサンス音楽とは言いますが。
- ーー
- え、「古楽」だめですか?
- 中山
- 古楽っていうと、難しいイメージがあるでしょ。
昔の楽器をつかって、昔の楽譜を使って、
楽譜に書かれていることをそのまんまやる。
できれば昔の人が来ていた衣装を着て、みたいな。
それが一般的なイメージではないでしょうか。
ぼくはそれを全否定したい。
そもそもはっきりした定義がないんですよ、古楽って。
- ーー
- 時代的に区切られているわけではないのですね。
- 中山
- 一般的には、だいたい人文主義の時代より前、
いわゆるルネサンス期の前の時代を指すと
思いますが、明確な定義があるわけじゃないんです。
ぼくは、きちんと定義できて、
わかりやすい言葉を使いたい。
だから、宮廷音楽とか、教会音楽とか、
ある時代のどの地方の‥‥と具体的に絞って
表現したいと思っています。
「古楽」って「民族音楽」と同じくらい
あいまいな言葉だと思うんですよね。
- ーー
- なるほど。
では、具体的に楽器の話を聞かせてください。
ヴィオラ・ダ・ガンバは、
チェロと違って、脚ではさんで
ささえるんですね。
- 中山
- ガンバはイタリア語で「脚」。
ヴィオラ・ダ・ガンバは
「脚の弦楽器」という意味です。
脚ではさむのではなくて、脚に乗せて
演奏します。
- ーー
- 素人の質問で恐縮ですが、
チェロとどう違うのですか?
- 中山
- 形は似ているんですけど、
チェロは「ヴァイオリン族」の楽器で、
ヴィオラ・ダ・ガンバを含む「ヴィオール族」とは
同じ時代にぜんぜん別の系統から生まれて
発達した楽器なんです。
楽器はいろんな場所でさまざまな発達をして、
ハイブリッドが生まれたりして変化してきました。
ヴィオラ・ダ・ガンバにも
いろんな形があるんですよ。
弓の持ち方も、いまは下から持つのが主流ですが、
昔は上から持ったり下から持ったり、いろいろでした。
「これはこうだから、こうでなければならない」
といった規則があったわけではないんです。
- ーー
- へえ、自由なんですね。
- 中山
- そう。自由です。
その場にある楽器や状況にあわせて、
その場でベストなように演奏されるのが、
当時の音楽でした。楽器も決めつけずに、
ギターしかなければギターでやればいい、
現代だったらマリンバで代用するとか、
そういうこともできるような自由さがあったんです。
厳格なはずの教会のミサの記録でも、
教会に登録されている歌手がいなかったから、
器楽奏者で穴埋めしたとか、
そういう記録がいくらでもあります。
そういうその自由さは、ジャズに通じるところが
あるかもしれません。
ぼくはジャズが好きで、
大学時代ベースを弾いていたんですが、
そのうち、どうも17世紀、18世紀の音楽の感覚が
ジャズに近いなと思って、そっちに
のめりこんでいったところがあるんです。
- ーー
- ジャズの話題がでたところで、
5月29日に出演していただくスイス在住の
リュート奏者の坂本龍右さんから、
即興演奏の動画が届きました。
ちょっと見ていただきましょう。
本拠地バーゼルでの演奏会でのひとこまで、
ルネサンス・リュートによる即興演奏です。
- ーー
- 中山さんへの質問に戻ります。
ベースよりもヴィオラ・ダ・ガンバを
選ばれたのはどうしてですか?
- 中山
- 音です。
すべての音域で倍音成分が豊かに鳴るので、
ヴィオラ・ダ・ガンバは表現力の幅が広いと思います。
しかも、弓をアンダーハンドで持つから、
弦を指先ではじくのと同じくらい
弦に直接触れている感覚があります。
それによって、音の立ち上がりを細かく調整できるのです。
シンセサイザーで音作りするくらい楽しい感覚です。
- ーー
- 音を耳にするのが本当に楽しみです。
佐藤さんにお聞きしたいのですが、
バロック、ルネサンスの頃の声楽を
専門にされたのはどうしてだったのですか?
- 佐藤
- 普通にクラシックを勉強しているうち、
だんだんバロック音楽に興味をもって、
スイスに留学して中世ルネサンスに出会って、
結局7世紀頃の単声音楽まで
さかのぼってしまいました。
- ーー
- どうして、さかのぼったのですか?
- 佐藤
- 音楽の歴史はつながっています。
現代の私たちがどう生きていくか考えるとき、
歴史を知らずして次のステップに進めないのと同じで、
いまのこの時代に何を演奏するのか、
どういう演奏をするのかを考えるとき、
歴史の文脈を考えないわけにはいかなくて、
調べていくと芋づる式に‥‥(笑)。
- ーー
- 時代によって、
歌い方は違うものですか。
- 佐藤
- 歌い方を変えるんですかと
よく聞かれますが、変えるというよりも、
その音楽がどこで誰にむかって
何のために歌われたかを考えると
おのずと歌い方が変わってくるのだと思います。
たとえば残響の大きい大聖堂と小さな部屋、
あるいは劇場で人が観るなか、
メッセージをもって伝えるのか、とか
状況と目的にあわせた歌い方というのがあります。
- 中山
- 何を伝えるかは本当に大事ですね。
ぼくが大切だと思うのは、
「この音楽はこういうことを言おうとしている」
というのが聴いている人に伝わること。
「当時の楽譜どおりに演奏しているから正しい」
というのではなくて、
楽譜を読み込んで、足りない情報を補って、
細かい修正をして、納得してから演奏する。
そうすることで、
その音楽が言おうとしていることを伝えることができる。
今度の音楽会でいえば、
『柳の歌』が歌われているとき、
シェイクスピアを観ていたお客さんは
何を感じていたんだろう。
それが伝わればぼくらの演奏は成功なんだと思います。
難しいことは考えなくていいんです。
ただ、感じて、楽しんでいただければ。
- ーー
- ありがとうございました。
29日の音楽会がますます楽しみになりました。
おわり