GEORGEの勝地さんと話した 犬と猫と人間のはなし。
勝地 糸井さん、アークがいま、丹波篠山(ささやま)の土地に、
イギリス式のシェルターをつくろうとしているのを
ご存じですか?
糸井 いえ。そうですか、新しいシェルターを。
勝地 ええ。すでに土地は確保してあって、
施設の設計は、イギリスの建築を参考にして。
糸井 なるほど。
勝地 篠山のシェルターの用地は、かなりの面積なので、
いまの能勢のシェルターよりも、
保護できる動物たちの数も増えますし、
イギリスのシェルターはロジックが確立しているので、
動物たちにとって快適な環境になるだけじゃなくて、
動物を飼いたいと思う人にとっても
訪ねやすい場所になると思うんです。
糸井 なるほど。
動物を飼いたいと思う人たちは、
ペットショップではなく、シェルターに行く。
勝地 はい。ペットショップと違って、
シェルターでは「お客」じゃないですから、
住環境、家族構成など事前調査があって、
犬や猫を家に迎えたあと、彼らのために
一日のうちのどのくらいの時間を費やすことができるのか、
逆に、審査されるんですね。
おそらく、多くの人にとっては、
「犬を飼うって、こんなにたいへんなことなの!?」
というところから、はじまると思うんです。
「飼う」ということのほんとうの意味を、
知らない人も多いですからね。
糸井 そうですねぇ、なんだろう‥‥
たぶん、子どもの頃に
虫を採ってきて飼って、というようなことと、
同じレベルでも、はじめられてしまうことだから。
自分より弱いものとの関係では、
大人にならなきゃいけないんですよね。
勝地 シェルターができた後はどうするのか、
オリバーさんに訊いてみたんです。
そうすると、
「えらそうな言い方になるかもしれないけど」と前置きして、
「『飼うことの責任』を教育したい」と言ってました。
糸井 「教育」。
勝地 メキシコ人のある有名なトレーナーさんが言うには、
犬たちや子どもたちの教育は、
リハビリでいいんだ、と。
教育を受けなきゃいけないのは、
オーナーさんや親のほうだと言うんです。
親たちが生まれ育った時代といまはちがうわけで、
いまの時代にキャッチアップするために、
大人のほうが学ばなきゃいけない。
糸井 社会のでき方とペットのあり方って、
相関関係がすごくありますよね。
ぼくなんかも、身近なことでよく思うのは、
いま道が全部舗装されているから、
うんちより、おしっこの始末のほうが
むずかしいんですよ。
田舎道では、土にしみ込んで、
その後は微生物に分解されて、ってなるんでしょうけど、
都会の道では‥‥どうするんだろう?
うちの犬は、散歩にでる前に
おしっこを済ませる習慣がついているもので
なにもしなくて済んでるんですけど、
必ずしもそれだけが正解というわけではないですし。
水を持って歩いている人もいるし、
ペットシート持っている人もいるし、
そのままって人もいるし‥‥
勝地 いろいろですね。
糸井 これだけとっても、ひとつひとつ、
失敗して考えなきゃならないんですよ。
そういう意味でも、たしかに
新しい時代を学ばなきゃならないのは、
親のほうなんだと思いますねぇ。
勝地 「昔はこうだった」と言った時点で、
「いま」がそこでストップしちゃってますからね。
「いまから」のことを考えないと。
糸井 考えてみれば、さらに上の、ぼくらの親の世代では、
犬には、みそ汁をかけた残りご飯を
あげるのが当たり前だったんですよね。
いまから思えば、塩分が多すぎたり
犬に必要な栄養が不足していたりで
犬の健康にはよくないってことがわかるけど、
それもただ、そういうものだと信じ込んでいただけで、
悪意でもなんでもないわけで。
冬も寒いなか、外の犬小屋で、
凍えそうになったりしてましたもんね。
勝地 ある意味、すごい免疫力が高まったろうとは
思うんですけどね(笑)。
もともと、外にいた動物なんで。
糸井 今年は、炎天下のなか鎖でつながれたままで
辛いめにあった犬たちがたくさんいましたけど、
地面が土で、山で、木があって、という環境とは
いまは違うんですよね。照り返しもあるし。
昔とは違うんだということを人間が気づかなければ、
犬たちには、どうしようもないですからね。
勝地 動物とのつき合い方が、
みそ汁ぶっかけて、というところから
いきなり「コンパニオン・アニマル」になりましたからね。
根本的に、その間が抜けてるんです。
糸井 そうか、間がないんですね。
結局、あとからやることって、
お金で解決できることが多いから、
簡単に「飛び級」できちゃうんですよね。
飛び級して覚えられなかったことを、
あとから学ぶ時期が、いまってことなんでしょうね。
勝地 動物とは、というところからはじめるなら、
アークが、動物を育てるために必要なことを
全部教えてくれるわけです。
それに、アークのシェルターにいる犬や猫は、
3歳以上になっている子も多いですから、
その子たちの性格もわかっているし。
糸井 なるほどなぁ。
勝地 シェルターが動物と出会う場になるということが、
これからは、日本でも主流になっていくと思うんです。
ドイツなんかだと、シェルターにいる犬より、
もらい手の数のほうが多くて、
ウェイティングしている状態だそうです。
そのぐらい、普通のことなんです。
イギリスもそうです。

動物に対してのあつかい方が
紳士的とはいえないこの国では、
モノだけを発達させてもだめで、
人間の意識を変えていかないと‥‥。
その意味でも、シェルターは必要だと思うんですよね。
糸井 そう考えると、かつてアメリカが発展するときに
「月にロケットを飛ばす」ことが
なにかを大きく変えることだったように、
日本にシェルターが目に見える形でできあがると、
なにか、大きく変えるきっかけになるかもしれませんね。
おそらく、シェルターが
そのシンボルになりますよね。
勝地 そうですね。ぼくは、シェルターが完成して、
うまく機能していくことで、
いずれは保健所もシェルターに
かわっていくんじゃないかと思ってるんですよ。
糸井 保健所で殺処分に携わっている人だって、
やりたくてやっているわけじゃないんですよね。
「犬と猫と人間と」という映画のなかで
ある保健所の職員の人が、
「動物を嫌いな人に処分されるよりは、
 彼らを好きなじぶんがやるほうがいい」
ということをおっしゃっていて、
あれは‥‥重い言葉ですよ。
勝地 おそらく行政も困ってるだろうと思うんです。
民間の力でシェルターが完成して、
ひとつのお手本になれば、
保健所をシェルターにしようという動きが
出てくるんじゃないかと思うんです。
糸井 いずれは日本でもヨーロッパの国みたいに、
犬も猫も「買う」じゃなくて、
「ゆずる」「ゆずられる」に、なっていきますね。
勝地 ええ、かならずなります。
糸井 「ゆずる」「ゆずられる」ということのほうが
あたり前だということを、
まだ、多くの人が知らないですよね。
それはじぶんを含めてのことで、
うちの犬は、たまたまゆずられてうちにきたけど、
その巡り合わせがなければ、ぼくだって、
買いに行ったかもしれないですし。
「買う」以外の方法を知りませんでしたから。

ぼくは、この1年くらいの流れでしかわかってなくて、
まだ知らないことも、やまほどあるし、
これまでは耳にしていても「立派な人がいるなぁ」で
終わってしまってたことは、いっぱいあるんですよ。
でも人は、なにかひとつ
手がかりが見つかると、がんばれるんです。
アークの目指すそのシェルターは、
まさしく「見える山」で、
とても具体的な手がかりになりますね。
勝地 そう思います。
ぼくら、ジョージも
日本の犬や猫の状況をなんとか変えたいと、
20年間チャレンジしてきましたけど、
シェルターができて、
保健所に犬や猫がいなくなったときに、
ぼくらの仕事がひとつ終わるだろうなと思いながら
つづけています。
糸井 できないことじゃない、と
信じてやるべきですね、ほんとにね。
でもきっと、ジョージさんがはじめた頃とは、
日本もいくらか変わってますよね。
勝地 そうですね。当時に比べればずいぶんちがいます。
活動するグループもいっぱい増えてますしね。
ただ、ぼくなんかは、もし考え方がおなじであれば
協力し合えばいいんじゃないかと、
シンプルに思うんですけど。
むずかしいんでしょうかね。
糸井 それぞれに事情はあるんでしょうけど、
たしかに、たくさんグループがあって、
逆に、どこに行ったらいいかわからなくて
動きだせないというのは実感としてありますよね。
ぼくなんかも、アークに絞ったんで、
会員になります、って申し込めたんです。
これはすごく自分を助けました。
勝地 いちど、オリバーさんに聞いてみたことがあるんですよ。
「もし協力するという人たちが来たら、
 オリバーさん、どう?」って。
そうしたら、「オープンドアです」と言ってました。
糸井 ぼくらはいま、はじめたばかりですけど、
この手帳をきっかけにして、
アークの会員になってくれる人が出てきたら、
いいなと思ってるんですよ。
この手帳につけた冊子をみてくれた人たちや、
アークのホームページを読んだ人たちに、
わたしはわたしで応援します、という道が
もしかしたら、つくれるかもしれない。
じつは少し、期待もしているんです。
あせらず、ゆっくりつづけていきたいと思います。
勝地 そうですね。
糸井 ところで、あのアークのホームページは、
文章も、たいした力がありますね。
保護された犬や猫たちのプロフィールなんかが、
じつによく書かれているんですよ。
ときたま、犬のセリフで書いてあって、
それがもう、まいっちゃうんです。
勝地 ええ、ええ。
糸井 たとえば、スポンサーを募集している
引き取り手のいない犬がいて、
二匹いっしょに写真が出てるんです。
お年寄りの飼い主に先立たれちゃって、
アークに引き取られてきたそうなんですが、
いっしょに飼われていたので、離れたくないんだって。
いい子なんですけど、ひとつだけ条件があって、
それは「二人いっしょ」ってことなんです、って
彼らのセリフで書いてあるんですよ。
「お互いのいない将来は考えられないんです」って。
まいりました(笑)。
勝地 ちょっとユーモアもあるんですよね。
糸井 そうなんですよ。
ユーモアって、大事ですね。
いいことをしている人も、
目を三角にして走り回っているだけだと、
やっぱり変わり者としか見られないんですよね。
それは損だと思うんです。
ユーモアって、ものすごい大事ですね。
勝地 そこらへん、アメリカ人なんかは得意ですね。
「ピンチのときこそ、ジョーク言え」みたいな(笑)。
糸井 いや、それは重要ですよね。
きょうはありがとうございました。
勝地 こちらこそ、ありがとうございました。

(おしまい)
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2010-11-16-TUE
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN