じぶんに桜の花束を。
桜の花は4月に咲きます。
日本の新学期、新年度がその時期にはじまるのは、
この「桜が咲く」ことと関係があるとも言われます。
植物にとって花はゴールではなく、
実をつけ、種をつくり、
次世代にじぶんをつないでいくための
「はじまり」の活動です。
日本の桜が示す「はじまり」を
古来より人びとは受けとめてきたのかもしれません。
春の暮らしに、桜の花をとりいれて、
じぶんの「はじまり」にエールを送ってみませんか?
その「はじまり」が、小さくても大きくても、
気持ちにあう「桜」がきっとあるはず。
このコンテンツでは、桜の花を
おうちでたのしんでいただくためのヒントを
お伝えしたいと思います。
──
桜に出会う編 THE LITTLE SHOP OF FLOWERS 壱岐ゆかりさん
004:植物がくれるもの。
──
壱岐さんは、いつごろ
お花屋さんを開かれたんですか?
壱岐
2010年からです。
──
昔から花がお好きだったんですか?
壱岐
いや‥‥じつを言うと、
そんなに好きでもなかったんですよ。
なんて言ったらいろんな意味で
とてもよくないかもしれませんが(笑)。

以前は、インテリアやファッションブランドの
プレスの仕事をしていました。
ニューヨークが動く時間には起きていて
意見交換を敏速にしたいタイプだったので、
昼夜逆転の生活でした。

プレス業って、
社交性が必要ですよね?
極端にいえば社交性があれば大丈夫、
と言っていいくらい。
けれども、私、
社交性がまったくなくて‥‥。
──
! そんなことないです。
壱岐
いまはそう思ってくださるかもしれないけれども、
その頃はほんとうにダメで、
人と話すのが致命的に苦手だったんです。
隣にいつも
「しゃべってくれる仲間」にいてもらって、
私はそのほかの業務をやる、というような
役割でさえありました。
打ち合わせでひと言もしゃべらない、なんて
しょっちゅうでした。ただ聞き感じる役割というか。

人脈を増やしたり、業界通になっていくのも
仕事のひとつだったんでしょうけど、
それがものすごく苦手で‥‥。
その反面、ブランドやデザイナーの意思を
誰よりも感じ取る自信だけはありました。

だから、社交性を高めようとする努力を
しないかわりに、
それでも「あなたにプレスを頼みたい」と、
人に思ってもらえることとは、
いったいどんなことなんだろう? と考えたんです。
考えていくうちに、これは
「感性が好き」と思ってもらうことなんだ、と
自分なりにわかってきました。

知識でも人脈の力でもなく、
「あなたの感性が好きだから」と
必要とされる存在でいたい。

そう考えていたある日、たまたま
ニューヨークの出張で入った洋服屋さんの一角に
お花屋さんがありました。
ドライフラワー兼生花の、小さなお店。
いまでこそよくありますが、
当時はそういうお店はめずらしかったんです。
──
インテリアショップや洋服屋さんに
小さなお花屋さんやコーヒーショップが
入っていたりしますね。
壱岐
そうそう。そのニューヨークのお店も、
超~小っちゃいスペースでやってました。
しかも、そのお店の人は
「気分が出たら開けるんだよ」と言ってました。

仕事をしながら、週末ヒマだし、
土日だけお花屋さんをやろうかな?
と、そのとき思い立ちました。
特に誰からも教えてもらわずに、
市場というのがあるらしいから行ってみよう、
お店をディスプレイして、
お花屋さんっぽくしてみよう、
けれどもお客さんは来ない、
というような日々を送ってました(笑)。
──
すごいですね。独学で‥‥。
壱岐
はい、まるでお稽古のような毎日でした。
でも、お花屋さんをやっている友人はいたので、
「あいつ、ほんとうにはじめたんだ」と
びっくりしたみんながいろいろ教えてくれました。

私の開いたその「週末だけの花屋」を見て、
近くに住んでいた方々が、お花を買いがてら、
生花のこと、お茶のこと、
たくさん教えてくださいました。

そんなふうに、
まわりの方々、お客さまから助けられて、
いまに至ります。
あのとき植物を選んだのは、
ほんとうになぜだかわからないけど、
花を仕事にしてよかったと思います。
──
桜をふくめ、
壱岐さんにとって、
植物ってどういうものですか?
壱岐
こういう話をすると、
ちょっとあやしいと思うかもしれないけれど‥‥。
──
なんでしょう?
壱岐
私は、ほんとうに、完全に、
違う人になったな、と思うんです。
──
完全に?
壱岐
いま、eatripというレストランチームと
いっしょにやってるんですが、
いつも一緒にいるので、彼らから見ると
「あいつ、なんだ?」
というくらいの変わりようだと思います。
「あの人をあそこまで変えるんだから、
植物にはなにかあるかもしれない」
と言われてしまう。そのくらい、
植物の力を自分が体現していると思います。
──
植物には、
動物からは感じられないなにかがあるというのは
なんとなくわかります。
壱岐
長くいけ花をなさっている
ご高齢の先生方のお話をよく聞きます。
どんなにお年をめしていても、
花器の前に座って、枝を渡されたら
きゅうにシャキンとなって、
生け込みの時間だけは、
集中していきいきとなさる‥‥。
植物は、ただ一緒にいるだけで、
なにかあるんですよね。

私は、前の仕事のとき、
朝早く起きるのが苦手でしかたなかったのですが、
植物の仕入れで早起きが必要だから
起きるようになりました。

植物といると、さりげない力が
作用しているような気がします。
まぁ、植物は太陽とともに生きているから、
それに合わせていると、
うまくからだがめぐるようになった、
ということだけかもしれませんけど(笑)。
──
今回、そら植物園の
桜のお花屋さんをやるのも、
少しでも多くのみなさんに
植物を身近に感じていただけたら、という
気持ちがあります。
壱岐
桜は、お花見で愛でるものであり、
どこか高尚な存在だと思われている。
だから、ご自身のインテリアに
取り入れる概念がなかなかないかもしれない。
あとは単純に「散りやすい」「虫がつくかも」
「枝がやわらかくてしなびるかも」
とか、むずかしいイメージが
先行してしまっているかもしれません。
でも、桜は水が大好きだし、
ほんとうに「いちばん」と言っていいくらい、
取り入れやすい枝ものだと思いますよ。
一気に空間に「線」が描かれて
インテリアもひきしまります。
すごくおすすめです。
──
出かけて、いろんな買い物をしても、
買ってきたものに花がまじっていたら
うれしくなる‥‥、
花びんに挿すのをたのしみに
家に帰ってもらえたらいいな、と思います。
壱岐
うん、いいですね。
──
すごくいいお話をおうかがいできて、
うれしかったです。
ありがとうございました。

(桜のお話は、これでおしまいです。
みなさん、「生活のたのしみ展」に
ぜひ桜を見にいらしてください。
ありがとうございました。)
2017-03-17-FRI
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桜を紹介します。

ヨシノザクラ(染井吉野)

日本で最も「街路樹」として普及している桜で、
開花標準木にもなっている。
樹形が盃形で立派であること、
成長が早く花が美しいということで、
「空前の大ヒット」を成したスター桜。
ただ、あまり長生きの品種ではなく、
戦後に植えられた木々は、ちかぢか
寿命を迎えることになるかもしれない。
切り花で売られることはめずらしい。

※ヨシノザクラの花束は、
「生活のたのしみ展」で購入できます。

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生活のたのしみ展

生活のたのしみ展
2017年3月24日(金)~26日(日)
11時~20時
場所:
六本木ヒルズ 大屋根プラザ、ヒルズカフェ/スペース

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