糸井 | そろそろ予定の時間になってしまいますが、 最後にもうひとつだけ。 去年のジャイアンツはチームの方針として、 フォークボールに代表される 落ちるボールについて、 ツーストライクを取られてからも 見逃してOKだという話を聞きました。 つまり、仮にそれがストライクだとしたら、 見逃し三振でもOKだと。 |
原 | はい。 |
糸井 | ふつう、追い込まれたら 打者は見逃さずに打っていきます。 そこに、ストライクからボールになる フォークボールが来たら、空振りしてしまう。 だからピッチャーは追い込んでから 高い確率で落ちる球を投げてくるんだけど、 打者も振らざるをえない。 というときに、 「フォークボールだとわかってるなら 見送ってもいい。 読みが外れて見逃し三振でもいいよ」 というのは、なかなかすごい指示ですよね。 |
原 | つまり、なにかを捨てさせることで、 選手に勇気を持たせることができるわけです。 |
糸井 | あーー。 |
原 | そのリスクはベンチが負うよということです。 バッターって、すごく打つといっても 三割ですからね。 10回打席に立てば7回は失敗するわけです。 というときに、問われるのは、 やっぱり、失敗の内容だと思うんです。 |
糸井 | なるほど、なるほど。 |
原 | 三割の確率で打っているなら、 ほかの打席でなにをやってもいい。 より成功の確率が高くなるというのなら、 ツーストライクと追い込まれても 見逃してOKです。 それで選手たちがラクな気持ちになるなら、 リスクはこっちがちゃんと負う。 とくに、ふつうに戦っていたのでは なかなか打てない手強い投手が相手のときには そういう手段もつかいますね。 |
糸井 | いや、過去にそういう作戦が あったかどうか詳しく知りませんが、 ぼくにとってははじめて聞く話でした。 |
原 | ま、いいピッチャーが来たり、 あるいは、手強い打者が相手だったりするときは、 リスクをベンチが負うから、 思い切って勝負しようよ、ということですね。 |
糸井 | ああー、ベンチがリスクを負うことで ピッチャーも思いきった勝負ができるわけですね。 |
原 | そうです。 たとえば、ホームランバッターを迎えたとき、 思い切ってインサイドに投げて、 狙ったとおりインサイドに行ったボールを ホームランされても、オレは文句を言わないよ、と。 しかし、アウトコースを狙ったボールを 引っ張られてレフトにホームラン打たれた。 これは、いちばんダメです。 アウトコースに狙ったボールは、 絶対、ホームランを打たれてはいけない。 インコースを狙って投げて、 そのインコースをホームランされたんだったらOK。 こういう考え方って、勇気が出るんです。 つまり、怖がらずにインサイドつかえってことです。 |
糸井 | そういうことは、 誰が選手に言ってあげるんですか。 |
原 | まあ、だいたい、ぼくから バッテリーコーチを通じてという感じですね。 本人に直接言うときもありますし。 |
糸井 | 気持ちよく理解されるでしょうね、それは。 |
原 | そうですね。ま、いってみれば、 非常に単純な方法なんですけども、 そういうことを伝えるとですね、 選手は「おお、そうか」と。 |
糸井 | うれしいですよね。 |
原 | 「よし、やろう」というふうになりますね。 |
糸井 | そうでしょうね(笑) |
原 | これは、外に投げるよりも、 インサイド行ったほうがいいな、ってね(笑)。 |
糸井 | そしてそういう勝負は、 お客さんも観ていてたのしいですよね。 |
原 | まあ、でも、そこをわからないように チームとしてやりたいわけですが‥‥。 |
糸井 | そうですね、そうですね(笑)。 |
原 | わかるようじゃ、作戦として(笑) |
糸井 | たしかにそうです。 ええと、だから、今年はそれはやりません。 |
一同 | (笑) |
原 | ははははは。 |
糸井 | しかし、やっぱり、 いろんなことを想像させるチームで あってほしいですね、今年も。 |
原 | ああ、はい。 |
糸井 | それは、今日の試合のオーダーでもいいですし、 けっきょく二番を誰が打つのか、 ということでもいいですし、 レギュラーの選手がケガしたときに 誰がどうカバーするのか? ということでもいいですし。 村田選手がフォークボールを 平然と見送って三振しても、 いまの話を聞いてると ちょっとべつのたのしさがありますし。 |
原 | そうですね。 決して奇をてらうのではなく、 こちらとしてベストの選択が、 お客さんをたのしませる野球になるとしたら これはもう、願ったり、という感じですね。 |
糸井 | 今年もきっとまた思い切ったことを、 たくさんやってくださると思います。 期待してます。 |
原 | ありがとうございます。 がんばります。 |
糸井 | おまけの質問なんですけど、 原さんがたまにベンチで舐めてる飴はなんですか。 |
原 | 飴(笑)? あれねぇ‥‥ええと、プロポリス。 |
糸井 | プロポリスですか。 |
原 | 糖分のない、プロポリスの飴ですね、 ちょっと喉とかにはいいんですね、 風邪の予防にもなりそうだし。 |
糸井 | 機会があったら、いただいていいですか。 |
原 | ぜひぜひ(笑)。 あるんじゃないかな、いま。 |
糸井 | ほんとですか。じゃあいただきます。 ありがとうございます。 ずーっと気になってたんです。 |
原 | 甘すぎる飴はね、糖分があると太るしね。 でもね、やっぱりね、試合に集中してると 口のなかがからっからに乾くんですよ。 |
糸井 | ああ、そうでしょうね。 |
原 | 飴でもなめないと、もう、 脳がね、フリーズして、動かないときがあるの。 |
糸井 | じゃあ、ベンチで原さんが飴をなめているときは、 こう、ちょっと切り替えているようなとき。 |
原 | そうですね。 気を取り直して、というようなとき(笑)。 |
糸井 | いや、今日はいろいろ聞けてよかったです。 ありがとうございました。 |
原 | ありがとうございました! |
(原辰徳監督との対談はこれでおしまいです。 最後までお読みいただき、 どうもありがとうございました) |
2014-04-07-MON | ||