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吉本さんが『dancyu』に連載してるときには こんなに赤裸々なエッセイだと思わなかったんだけど、 さわちゃん(=ハルノさんのこと)は、 連載当時は読んでたの? |
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解読するときに、読むはめになりました。 |
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なるほど、ゲラでね(笑)。 一般的には、食いものの話というのは、 自分に寄せずに書けるんですよ。 気楽に、自分の正体をあかさないで書ける。 でも、吉本さんのケースは逆でした。 |
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逆ですよね、攻撃的です。 |
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そうだよね。 エッセイのように書いているんだけど、 やっぱりあの「吉本」が出てきちゃうんですよ。 |
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ごりっと分析したり。 |
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本文と解説をひとりの人が書いたことにして 一冊の小説だといえば、 この本はまたおもしろいよ。 |
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うーん、こういう形って、 意外にないですよね。 |
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ない。 まず、一方が死んでますからね。 |
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そうですね(笑)。ずるいことですね。 |
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かわりばんこに書いたものや、 往復書簡集はよくありますけど‥‥、 だから、さわちゃんが書いたものに対して吉本さんが もういちど反論するわけにはいかないんです。 俺も、さすがにないんじゃないかと思ったのが、 「おから」についてのくだり。 |
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ああ、おから。 |
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さすがに吉本さんだって、 おからが豆腐を作るときにできるもんだ、 というのは知ってたんじゃない? |
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(笑)いや、意外にそういうことを 父は追求せずに放っておくんですよ。 |
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たしかに吉本さんは、いろいろ間違ってる(笑)。 知らないことに関して、 ざっくりそのままにしておいたりします。 そういう人だなとも思う。 だけど、おからを米と思ってたのは 無理なんじゃないか、と。 |
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いや、父は妙なところを知らないんですよ。 あれは、知る必要がないんでしょうかね? |
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うーん‥‥もしも必要を感じてたら 料理もうまくなってたかもしれない。 |
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まぁ、そういうことでしょう。 |
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(笑)あのね、いま思い出したんだけどね。 吉本家の開催するお花見は、谷中墓地で たいがい肌寒い頃に行われましたが、 まずは吉本さんが、朝から 敷物を担いで自転車に乗って出かけます。 場所取りのために敷物を広げ終わったら、 そこで本を読みはじめて、昼間ずっとひとりで過ごす。 で、夜になるとみんなが集まります。 ガスコンロやなんかが揃ったところで 鍋みたいなことをするんだけど、 鍋の前には当然主人(吉本さん)がいて、 その主人がみなさんにサービスするということで 鍋をつくります。 それが、サービスにならないくらい、雑なんです。 |
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うん(笑)。 |
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誰もが息を呑むようなかんじで、 ‥‥ざん! と、材料を入れるんです。 豆腐でも肉でも青菜でも根菜でも、いっぺんに。 |
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いやぁ(頭をかく)。 |
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誰も注意もできない。 |
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できないです。 父はすべてにおいてだいたい ああいう感じです。 |
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それぞれの材料は切りわけて 別々に盛ってあったはずですよね? |
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そうなんだけど。 |
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主人は鍋の前で その皿を斜めにするだけなんです。 |
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そう。 |
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ぼくはちょっと、「あっ、あっ!」と 言った憶えはあるんだけど。 |
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そうなんですか(笑)。 |
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でも吉本さんは、反論することもなければ、 言い訳もなくて、 「ああー」と言うだけなんです。 ‥‥毎年そうでした。あれはなんなんですかねぇ。 |
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まぁ、それはしょうがないでしょう。 作り方にどうこう言っても(笑)。 |
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あれだけいろいろ準備をしてねぇ‥‥、 すべての材料が斜めにされたとき、 一同の「これをいっぺんに入れるのか」という心の声。 息を呑みます。 さわちゃんは、ああいう人を扱って、幾星霜。 |
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ほんとにそうです(笑)。 |
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吉本さん、ぼくらがいないときは 怒ったりするんですか。 |
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怒るっていう意味では怒らないけど、 特に最後のころは、あれこれ因縁つけられましたよ。 |
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因縁を。 |
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本の最後のほうのエッセイにもありますけど、 父に「さわちゃんいるか」って言われると、 ちょっと引くんですよ。 いったん心構えをつくっておいて、返事します。 2〜3時間、いろんな思想の話とか(笑) なにか聞かされたらやだなとか、 そういう構えを持って対応しないと。 |
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一方で、お母さんが2階に寝てるから、 そこからもさわちゃんに 指示が出されてるわけですよね。 |
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そうですね。ふたりを介護してたわけだから。 |
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縦軸、横軸、すごい。 |
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すごいです。 |
![]() ![]() 1枚目は1985年、隆明さん後方右から3人め、 ハルノさんは左端。 2枚目は2003年、吉本さんは手前で阪神のお酒を手にし、 ハルノさんは後方でだるまに目を入れている。 お料理はハルノさんによるもの。 ともに「Vマーク」のちらし寿司あり。 |
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(つづきます) 2013-05-13-MON 画:ハルノ宵子 |