33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q021

なやみ

会議でぼくが話し出すと、
必ずあくびをする同僚がいます。必ずです。

(40歳・ウェブ編集者)

ぼくが会議で話し出すと、必ずあくびをする同僚がいます。これはいったい、どういう意味でしょうか? 話がつまらないと、暗に言われているのでしょうか。

こたえ

心配するのは、まだ早い。
その場の全員があくびをしたら心配しよう。
その場の全員が寝ちゃったら、
あなたにはまったく別の才能があると思う。

こたえた人春風亭一之輔さん(落語家)

一之輔
あくびくらいしたっていいじゃないの。
──
師匠。
一之輔
じゃあさ、時間帯の問題じゃない?
おひるごはんのあとにやらないようにするとか。

誰だって眠いでしょう、
おなかいっぱいの状態では。
──
眠くならない時間に、
会議の時間を変えてみたらどうかと。
一之輔
まあ、俺は一日中、眠いけどね。

でもさ、
つまんないからあくびが出るってわけでもなし、
そもそも、そんなに話がおもしろい人っている?
──
むやみにはいないと思います。
一之輔
それに「会議って何だ」ってことでもありますよ。

まあ、文字をまじまじと見つめれば
「会って、議論する」ってことでしょうが。
──
はい。一般的には、
主にむずかしい問題について議論される場ですね。
一之輔
でしょ。だったら眠くなって当然だよね。

でも、あくびが出るくらいのほうが、
のんびりしてていいような気がするけどなあ。
──
師匠は、よく会議にお出になるほうですか。
一之輔
出ないね。まず、むずかしい問題がないよ。
打ち合わせってのはあるけど、会議はない。

ここ何十年も出てないと思う、
会議というものには。
──
でも師匠、世の中を見渡せば「会議だらけ」です。
一之輔
そうなの?
──
今日も会議で一日が終わったみたいな
ツイッターもよく見るし。

無駄な会議をするなとか、
会議は30分で終わらせろとかいう本も、
探せば出てくると思います。
一之輔
会議に出てたら、仕事してる気になるんだろうね。
時間も埋まるしさ。
ま、そんなんだから眠くもなるんだろうけど。

だから、いいじゃない。
あくびするくらいの権利は、
ゆるしてあげといたほうがいいと思うけど。
おたがいのためにも。
──
ですね。
あくびの自由は死守したいところです。
一之輔
ひとりでしょ?
──
え?
一之輔
その、あくびをしてるって同僚は。ひとりですよね?
──
あ、はい。ひとりなんじゃないですかね、たぶん。
一之輔
たったひとりのあくびを、
そんなに気にしててもしょうがないと思う。

その場の全員があくびしはじめたら、
そのときは
「自分には何かあるな」と思ったほうがいい。
──
なるほど(笑)。
一之輔
だから、「まだ早い」だよね。答えとしては。
──
「たったひとりでは、まだ早い」(笑)。
一之輔
うん。その場の全員がウトウトし出したら、
いよいよ
心配しはじめたほうがいいかもしれないけど。
──
それは、何らかの理由がありそうです(笑)。
一之輔
さらに全員が寝ちゃったら、
その人、その会議に出てる場合じゃないよね。
──
たしかに(笑)。
一之輔
その能力を、
ぜんぜん別の場所で活かしたほうがいいと思う。

寝かしつけのプロとか。
──
ときに、落語の寄席というのは
非常に心地よい空間で、
ときたま近所から、
ふわぁ~っと聞こえてくることもあるんです。
一之輔
ええ。
──
舞台の上の師匠たちからも、わかりますか。
その点。
一之輔
わかりますよ、そりゃ。一目瞭然にわかります。
お客さんより高いところから見渡してるんだから。

こっちが一生懸命にしゃべってるのに、
あくびどころか、寝てる人だっていますよ。
気持ちよさそうに。
──
落語って気分がゆったりするから、
眠くなるのもわかります。

だから、たしかに、眠くなるかどうかって、
話がおもしろいかどうかに関係ないですね。
その場の雰囲気がいいから、というか。
一之輔
この人、めちゃくちゃ「いい声」なんじゃないの。
──
ああ、なるほど! 眠りを誘う、美声の持ち主。
一之輔
だって、ガーガーガチャガチャ言ってる人じゃ
眠くならないでしょ。
──
たしかに、それではウトウトできません。
一之輔
心地いい響きなんですよ。あくびを誘うほどの。
──
話がつまらないのではなく、声がよかったのか。
そう思えば「上向き」になりそうです。

この「40歳・ウェブ編集者」さんのお気持ちも。
一之輔
ものは考えようだからね。
──
ちなみに、落語家さんにとっての「声」って、
どのようなものでしょう。
一之輔
声はねえ、大事だよ。
楽器みたいなもんだから、噺家の身体っていうのは。

一声二節(いちこえにふし)って言うくらいで。
──
第一に声、第二に節回し。
一之輔
そう。「ああ、この人うまいんだけど、声がなあ」
ってこと、あるしね。

いい声という定義もむずかしいけど、
ずっと聞いてて疲れないとか、
それこそ「眠くなる」なんて声があったら、
それは、
その人にとっての「いい声」なんでしょうな。
──
声って、生まれ持ったものじゃないですか。
一之輔
うん、基本はね。
でも、しゃべってるうちに変わってくる。

単純に歳を取ったら音域が狭く、
つまり「低く」なってくるし。
──
同じ古典を聞いていても、
真打ちの方と若い前座の方とでは、
話の印象もかなり変わってきますものね。

あれ、きっと声のせいもありますよね。
一之輔
あるね。真打ちと前座では当然ちがうけど、
落語好きの素人のおじさんと、
はじめて3年目くらいの若いやつでも、
もうちがう。

なんだろう、
それでお金を稼いでるかどうかってのが、
声に出るんじゃない?
──
なるほど。
一之輔
ただ「落語っぽく」しゃべってやろうなんて
気になると、
たちまちに緊張感が生まれてダメだよね。
──
ああ、そうですか。
落語っぽく、やろうとしちゃうと。
一之輔
ダメなんだなあ。

今、自分が着物を着て正座してしゃべってるのが
もう「落語」なんだから。
いいんですよ、カタチなんてものはね、どうだって。
──
なるほど。
一之輔
……なーんて心持ちでやれるのがいいって言うけど、
自分もまだまだです。
──
あ、その境地っていうのは、
師匠にとっても、まだ先ですか。
一之輔
そこまでいったら、さぞ楽しいと思いますよ。落語も。
──
楽しい。
一之輔
何にも考えずに滔々としゃべってるってのが、
いちばん気持ちいいと思う。
──
ちなみに師匠は、寝るのはお好きですか。
一之輔
好きだよ。寝るの。歳を取るにつれて、
いろんな欲望が消えてなくなっていくけど、
睡眠欲だけは薄まらないよね。
──
ひとつ思ったのが、一日が終わって
「さあ、寝るぞ」って瞬間、
えらい幸せじゃないですか。
一之輔
うん。
──
寝ているときには意識がないのに、
寝ているときこそがいちばん幸せなのかと。

つまり、生きるとは寝ることなのかと
思うことがあって。
一之輔
わかる。夜中に目が覚めて
「今、何時だ? ああ、3時半か。
まだちょっと寝れるな」って瞬間に、
俺、いちばん「生きてる」って感じがするから。
──
ああ、師匠もですか。

やっぱり「眠り」というのは、大切なんですね。
だとしたら
「眠りを誘うような声」をしているというのは……。
一之輔
人助けにも近いよね。
──
「寝る」とはちがうんですけど、
このあいだ、新宿の末廣亭に行ったら、
三笑亭可楽師匠が、
途中で噺の続きをお忘れになったんですよ。
一之輔
ああ(笑)。
──
でも、そのときの場の雰囲気がすごくよくて、
「すいませんねえ、
しばらくすれば出てくるから」なんておっしゃって、
客席も、話の続きを、じっと待ってるんです。
一之輔
いいですねえ。
──
先日、亡くなったボサノバの
ジョアン・ジルベルトにも
「ステージの最中に寝た」という逸話が
あるみたいで……そのときも、
みんなで起きるのを待っていたという。
一之輔
古今亭志ん生師匠も寝たよね。
酔っぱらって高座上がって。

で、そのときも、
お客さんはじっと待ってたらしい。
──
ええ。
一之輔
そこまでいったら最高ですよ。
これ以上の「芸」はないと思う。
──
話芸の究極のカタチ。
一之輔
だって、寝ている姿を見てるだけでいい……
ってことですから。
【2020年3月18日 上野にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

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