33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q023

なやみ

わたしは死に接する仕事をしています。
年々、死に対する気持ちが、
鈍ってきているように感じて心配です。

(25歳・介護職員)

勤務している施設では、多いときには月に数人、看取ることがあります。そのような環境に身を置いていると「死」に対しての気持ち、感情が鈍感になってきているように思えてなりません。同じように、仕事の中で「死」と向き合うことのある方々は、どのような心持ちで仕事をしているのか知りたいです。

こたえ

死には、慣れないですよ。毎回しんどいです。
でも、悲しみを抱きながら
仕事のプロに徹することは、きっとできます。

こたえた人友森玲子さん(株式会社ミグノンプラン代表)

友森
まじめそうな方ですね。
──
ご自身、日々、死というものに触れるなかで
「感情が鈍ってくる」ことを
おそれているようです。
友森
わかります。わたしの場合は動物ですけど。
今朝も一頭、看取ってきたんです。
──
ああ、そうでしたか。
友森
死というものには
日常的に接してはいるんですが、
いつまでも「慣れない」です。

毎回毎回、しんどい思いをしています。
いまだに。
──
友森さんほど、長くやっていても。
友森
慣れないですね。

ただ、これまで
たくさんの死と向き合ってきた経験から、
たとえば「ああ、そろそろだな」ということは、
わかるようになりました。
──
そうですか。
友森
「お別れのときが近づいているんだね」って。

そうすると
「心の準備」をすることができるんです。
──
はい。
友森
質問の方もそうだと思うんですが、
死に接すれば接するほど、
スムーズに
「やるべきことをやれるように」なります。

それは、自分たちの職業としては、
決して悪いことではないです。
上手になる、ということは。
──
でも、悲しいことには、変わりない。
友森
むしろ、死に対する悲しみは、
年々、深まっていくように感じます。
──
そういうものなんですね。
友森
だから、ご自身が「どういう人になりたいか」を、
考えたらいいんじゃないかな。
──
どういう人。
友森
職業人として、
いかに目の前の仕事をきちんとこなすか……つまり、
亡くなっていく生命のくるしみを和らげるために、
冷静に、たんたんと、
やるべきことをやれる人になりたいと思ったら。
──
はい。
友森
亡くなりつつある「本人」の気持ちに、
感情移入するようにしたらいいと思います。
──
本人の気持ちに。
友森
そうすることで、乱れそうになる心を、
抑えられると思います。
わたしは、そうなんです。

死んでしまう瞬間って、わたし、
いまだに少しおかしくなっちゃうんです。
「もうダメだ、呼吸が止まっちゃうんだ」
と思ったら
「どうしよう、どうしよう」って、
よけいなことをしそうになってしまう。
──
よけいなこと、と言うと?
友森
静かに看取ってあげようと話してたのに
「気管挿管」をしたくなってしまったり、
無理やり
心臓マッサージをしたくなってしまったり。

死んでいくものに対する執着心が、
うわーっとあふれてきてしまうんですね。
──
その、死の訪れる瞬間には。
友森
本人は、そんなところで強引に蘇生されたら、
よけいにくるしんでしまいます。
──
そうしないためにも
「亡くなる本人の気持ちに感情移入する」と。
友森
はい、そうすると
「呼吸がつらそうだから、
身体の向きを変えてあげよう」だとか、
「最期、叫んだり暴れたりして
身体をぶつけてしまうかもしれないから、
タオルでくるんでおこう」だとか、
目の前の出来事に対して
冷静に向き合うことができるんです。

もちろん
悲しいことには変わりないんですけど、
本人に感情移入することで、
職業的に徹することができるというか。
──
ええ。
友森
「お疲れさま」という気持ちで、
看取ることができるというか。
──
なるほど。
友森
そうじゃなくて、仕事ではあるけれども、
自分も、
その死を一緒に悲しみたい人になりたかったら、
家族やまわりの人たちの気持ちに
寄り添ってあげること。

そうすれば、悲しみを感じながら、
死を迎える仕事にあたることができると思うんです。
──
自分は、死に直面したとき、どういう人になりたいか。
友森
はい。
──
「自分は、どういう人になりたいか」って、
どの職業にも言えることかもしれないです。
友森
死を前にして、できるだけ心を安定させて、
少しでもくるしみを取りのぞくために、
冷静に事態に対処できる人になりたいのか。

それとも、まわりの人の気持ちに寄り添って、
悲しみをわかちあって、
一緒に泣いてあげられる人になりたいのか。
──
同じ人でも、その場その場の役割や立場によって、
変わってきたりもしそうですね。
友森
どちらにしても「死」というものに対しては、
慣れ切ってしまうことはないと思います。

仕事を手際よく処理できるようにはなるけど、
悲しみは変わらないかな。
この先も、たぶん、わたし自身は。
──
ひとつひとつの生命に、
ひとつひとつの死ですものね。
友森
死に際して「パニック」に陥ってしまい、
やらなきゃならないことができなくなってしまう。
それが、いちばんダメなこと。

だから、新人のときには、死に際して
「いかに職業的に向きあうことができるか」
を訓練するんです。
この方は、そういうこともあって、
死への感情が薄れてしまうと
心配しているのかもしれないけど。
──
ええ。
友森
いつでも「悲しみ」を心に抱きながら
職業的なプロフェッショナルになることは、
きっと、できると思いますよ。
──
友森さんは、
はじめて死に接したときのことを、
覚えていますか。
友森
最初に動物を腕の中で看取ったのは、
小学校のときです。
──
今のお仕事に就くずっと以前に、
もう、その経験が。
友森
わたし、うさぎが大好きで、
小学校の園芸飼育委員会に入っていたんです。

4年生から入って、5年生で副委員長になって、
6年生で委員長になって。
小学校のころは、
うさぎの世話にのめり込んでいたんです。
──
そうなんですね。うさぎ。
友森
でもあるとき、
飼育小屋の金網のすきまから猫が侵入して、
一匹のうさぎのおなかを裂いちゃったんです。
──
わあ……。
友森
サッカー部の男の子が見つけてくれたんだけど、
内臓が外に出てしまっていて。

瀕死の状態でした。
すぐに先生がタオルにくるんでくれて、
かかりつけの獣医さんに電話してくれて……。
で、その獣医さんまで、
その子を抱いて行ったんですね。
──
友森さんが。
友森
はい。
学校から歩いて数分のところだったんですけど、
ガタガタ震えているうさぎを抱いて、
だーっと走って行きたかったんだけど、
大怪我をしているから……。
──
ええ。
友森
そしたら途中、
横断歩道で信号待ちをしているときに、
うさぎの身体が急に強く突っ張ったんです。
そして、
おしっこがポタポタポタッて垂れてきた。

そのときに、子どもながらに
「ああ、今、死んだんだな」とわかった。
──
ああ。
友森
もちろん悲しかったんですけど、
尋常じゃない怪我を目の当たりにしていたから
「助けたかったけど、
無理やり生命を延ばすよりは、
死んでよかったのかもしれない」って、
そのときに思ったんです。
──
今の友森さんのお考えにも、
通じるような体験だったんですね。
友森
今にしてみれば、自分の腕の中で、
ああして生き物が死んだことは、
とても大きなことだったと思います。

「死ぬときには、あんなふうに硬直するんだ」とか、
「おしっこが出るんだ」とか、
「助かってほしかったってみんな言うけど、
助けていたらどうなっていたんだろう」とか。
子どもながらに、
いろいろなことを理解したんだと思います。
──
友森さんは「生と死」、みたいなことについては、
何か思ったりしますか。
友森
よく、亡くなりつつある動物に、
徹夜で付き添ってたりするんですね。

そういうとき、他にすることもないんで
「死ぬって、どういうことだろう」とか、
ぼんやり考えていたりはしますよ。
──
それは、答えの出ないような問いですよね。
友森
そうですね。

ただ、たとえば「あの世」というものについては、
わたしは、
基本的に「死んだら終わり」だと思ってるんです。
──
あ、ぼくもそんな感じです。
友森
でも、残された人にとっては
「あの世は、ある」ってことにしといたほうが、
いろいろ助かるんじゃないかと思う。

つまり
「肉体はなくなったけど、
お空から見守っていてくれるから」って思えたほうが、
なんだか、いいじゃないですか。
──
そうですね、ほんとです。

生きてる側に
はたらきかけてくるようなものかもしれないですね、
死って。
友森
そう思うことで、いつでも心を寄せられるというかな。
──
自分は30歳くらいのときに父親を亡くしたんですが、
それまで「死」に対しては
「漠然とした不安」しかなかったんです。
友森
ええ。
──
でも、父親が死んでこの世からいなくなって、
天国だかどこだか知らないですけど
「こことは別の場所へ行った」と思ったら、
恐怖が薄れていくように感じました。

死というものに
「親しみがわいた」と言ったら変ですけど
「あっちに父親がいるんなら、まあ、いっか」
と思えるようになったんです。
友森
うん。そういうこと、あると思う。

動物たちの死が教えてくれたことって
いっぱいあるし、
わたしも、
いつのまにか自分の死を考えるようになってきたので。
──
ああ、そうですか。
友森
わたしはどう生きて、どう死んでいくんだろう……
みたいなことを。
【2020年3月28日 渋谷区千駄ヶ谷にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
ご予約を承っております。

和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。