糸井 | ものって、捨てられるんですよ。 だいたいのものは、捨てようと思えば、 冷蔵庫でもテレビでも捨てられる。 だけど、アンリさんのものって、 ゴミ箱に捨てられないですよね。 |
アンリ | 素材の革は、生きているから。 |
糸井 | そうか。そうですね。 生きている感覚ですね。 |
アンリ | 生きているからこそ、使っていくうちに、 いろいろなものが合わさって革も育っていく。 自分の体の一部分になるんでしょう。 いわばこの自然のもの、 石だとか、木だとか、 そういうものも全て生きていますものね。 |
糸井 | そうですね。 |
アンリ | これは、日本には古くからある考え方ですよね。 1つのものに魂が宿るとか、そういうのって やはり日本の文化からですからね。 どんなところにも神様がいるっていう。 |
糸井 | うん、逆に僕らが日本人として 理解していることってのは、 西洋のお客さんたちはどう思ってるんでしょう。 |
アンリ | イタリア人は特に ファッション・ヴィクティムですからね。 |
糸井 | うん? |
アンリ | とても流行に惑わされやすいんです。 ファッションの世界に踊らされていると僕は思う。 日本では、世界的に有名なブランドではないお店でも、 ちゃんと成り立っていますよね。 ちゃんとそれぞれの顔があって。 でもイタリアはそういうお店って とても少ないんです。 |
糸井 | そうなんですか。 |
アンリ | イタリア人はブランドを買います。 それも、あの奥さんが持ってたから、 じゃ私も持つわっていうような感覚で。 もちろん、そういう人は、 日本にもいると思いますが、 イタリアは日本とは比べものにならないです。 これは僕が言ってるだけじゃなくて、 イタリアの人たちもそう言っていますね。 |
糸井 | そうですか。そういう中で、 アンリさんの作るものって、 東洋の宗教みたいに見られてるんでしょうか。 |
アンリ | もう、ラスト・サムライですよ(笑)。 |
糸井 | それは、もしかしたら当たってるかもしれない。 アンリさんがモチーフにしているものって、 ネイティブ・アメリカン的な要素もあるし、 南米的でもあるし、 どうもモンゴロイド系の血を感じますよ。 |
アンリ | 自負してるわけじゃないんですけれども、 ユニーク(唯一無二)な、 どこにもないものをやってると思います。 自惚れではないんですけれども。 ニューヨークのバーニーズ・ニューヨークが 長いこと、ぼくのつくるものを 扱ってくれているんですが、 彼らは、バーニーズの顔だと言ってくれるんです。 |
糸井 | 西欧人にとっては、 とっても変わった何かがあるんでしょうね。 |
アンリ | 今という時代に、すべて手仕事というのは。 |
糸井 | 異常なんでしょうね。 |
アンリ | きわめて異常(笑)、そうですね。 地味ですし。 今、イタリアで大変な問題になっているのは、 国営テレビが番組を通して告発したんですが、 「メイド・イン・イタリーの真実味」ということ。 ある有名ブランドが、 安くつくらせたメイド・イン・チャイナの製品を、 不法に輸入して、 製品表示をメイド・イン・イタリーに付け替えて 高い価格で販売しているというものなんです。 全行程のなかで30%だけイタリアでやれば メイド・イン・イタリーと付けていい、 という決まりがあるんですよ。 |
糸井 | 日本の食品でもそれに近い問題がありました。 |
アンリ | 今、少なくなっている職人さんは、 それに対して反発しますよね。当然ね。 イタリアの文化はどうなるんだと憤っています。 これでは手作業というものが どんどんどん廃れていってしまう、 それはイタリアが守らなくてはだめなんだと。 今、そのイタリアの法律を 変えてくれるようにっていう動きになっています。 |
糸井 | アンリさんは、どこで作ろうが、 アンリさん作なんですよね。 チベットで作ろうが、日本で作ろうが、 メイド・イン・ミーですよね。 |
アンリ | メイド・イン・ミー(笑)。 ありがとう。 |
(つづきます。) | |
2008-11-07-FRI