糸井 | 作るっていうことについて もうちょっと聞きたいんですけど、 どんなふうに仕事をなさっているのか、 教えていただけますか。 たとえば革の素材、 どこにもあるわけじゃないですよね。 きっとこれがいいっていう革を 探したりするところから始まるんですよね? |
アンリ | そうですね、はい。 年に2回、大きな革の展示会がイタリアで行われて、 そのときに見に行きます。 革選びは直感です。 その素材を見て、こういうものを作ろう、 というような感じではなくて、 直感で選びます。 |
糸井 | 食材を選ぶみたいですね。 |
アンリ | そう、で、それで、 なるべく化学薬品を使ってないものを選びます。 それも食材に似ていますね。 |
糸井 | 似ていますね。 |
アンリ | 革をなめすのに、タンニンを使うんですが、 それはなるべく植物性のタンニンを使ったもの、 なるべく化学薬品を使ってないものっていうことが 基準としてはありますね。 そして、デザイン画は描きません。 |
糸井 | そうなんですか。 |
アンリ | 軽いスケッチをして、それで型紙を作ります。 そしてじっさいに作っていって、 その間に「これはこうやったほうが いいんじゃないか」と、修正して、 少しずつ、完成品に近づけていくという形ですね。 |
糸井 | つまり、ある種、 プロトタイプみたいなものをアンリさんが作って、 それをもとに、製品を生み出していくわけですね。 |
アンリ | そうですね。 |
糸井 | 昔ながらの工房ですね。 絵の工房みたいなものですね。 それを製品にする仕事場、 工房みたいなものがあるんですか? |
アンリ | そうですね、工房ですね。 アンリー・クィールは、 すべてひとつの工房の中で作っています。 |
糸井 | どんな人が働いてるんでしょう? |
アンリ | 私の工房には40人ぐらいのスタッフがいて、 その多くが、女性です。 靴の部門と、バッグの部門と、 アクセサリーの部門があるんですけれども、 バッグの部門はほとんど女性です。 ただバッグの責任者が1人、男性ですね。 靴の方は、責任者もスタッフも、 男性がやや多めです。 靴はやはりちょっと力仕事なので。 |
糸井 | ああ、なるほど、 ミシンじゃないからですね。 |
アンリ | もちろん、靴でもミシンを使ってる部分は あるんですよ。だけど、ほとんどの部分は 手で裏返しにして、力を入れて縫う感じですね。 |
糸井 | 工房は、イタリアのどこにあるんですか。 |
アンリ | 工房があるのはヴィジェーヴァノという町です。 ミラノからきちんと電車が動けば 40分で行けるところなんですよ。 このヴィジェーヴァノっていう町は、 昔は靴の工房で有名だったところなんですね。 それが、メイド・イン・チャイナに押されて、 工房を閉めなきゃいけないことになってしまって、 仕事をなくした腕のいい職人さんが たくさんいるんです。 僕は、そういう職人さんたちと出会えました。 彼らの中には、頭が堅いくらいの、 これはこうでなかったらいけないんだよみたいな、 パーフェクトを求める文化があります。 彼らにしてみると ぼくのつくる、縫い目が波打ったりするの状態は ちょっと考えられないことなんですけれど、 アンリー・クィールの楽しさっていうのは、 ちょっと波打っても可愛い、 革の端が切りっぱなしでもいい、 みたいなところにありますよね。 そういうことを伝えるのに とても時間がかかりました。 |
糸井 | そうでしょうね。 考えが1つになるまでに ものすごい時間と手間がかかりますよね。 |
アンリ | そうなんです。 でも理解して、作っちゃうと早いんですよ。 そして、僕は、切りっぱなしであるとか、 完璧じゃない完璧っていうのを 職人さんたちに教えたけれども、 彼らは僕に反対に、ここはこういうふうに 完璧じゃなきゃいけないということを 教えてくれました。 それが合体したものだから、 よりよいものがどんどんどんどん 出来上がっていくと思います。 だからクオリティもいいはずですと。 |
糸井 | アンリさんに任せていたら ほんとに実用的でないものみたいなのが 出てきちゃうのを、職人さんが、 この方が壊れないとか、 教えてくれるわけですね。 |
アンリ | そうそう、そうですね。 いい合体、相乗効果です。 |
糸井 | その場所に工房ができたっていうのは ほんとうに幸福な出会いですよね。 |
(つづきます。) | |
2008-11-10-MON