第7回 ヴィジェーヴァノの工房のこと。
糸井 作るっていうことについて
もうちょっと聞きたいんですけど、
どんなふうに仕事をなさっているのか、
教えていただけますか。
たとえば革の素材、
どこにもあるわけじゃないですよね。
きっとこれがいいっていう革を
探したりするところから始まるんですよね?
アンリ そうですね、はい。
年に2回、大きな革の展示会がイタリアで行われて、
そのときに見に行きます。
革選びは直感です。
その素材を見て、こういうものを作ろう、
というような感じではなくて、
直感で選びます。
糸井 食材を選ぶみたいですね。
アンリ そう、で、それで、
なるべく化学薬品を使ってないものを選びます。
それも食材に似ていますね。
糸井 似ていますね。
アンリ 革をなめすのに、タンニンを使うんですが、
それはなるべく植物性のタンニンを使ったもの、
なるべく化学薬品を使ってないものっていうことが
基準としてはありますね。
そして、デザイン画は描きません。
糸井 そうなんですか。
アンリ 軽いスケッチをして、それで型紙を作ります。
そしてじっさいに作っていって、
その間に「これはこうやったほうが
いいんじゃないか」と、修正して、
少しずつ、完成品に近づけていくという形ですね。
糸井 つまり、ある種、
プロトタイプみたいなものをアンリさんが作って、
それをもとに、製品を生み出していくわけですね。
アンリ そうですね。
糸井 昔ながらの工房ですね。
絵の工房みたいなものですね。
それを製品にする仕事場、
工房みたいなものがあるんですか?
アンリ そうですね、工房ですね。
アンリー・クィールは、
すべてひとつの工房の中で作っています。
糸井 どんな人が働いてるんでしょう?
アンリ 私の工房には40人ぐらいのスタッフがいて、
その多くが、女性です。
靴の部門と、バッグの部門と、
アクセサリーの部門があるんですけれども、
バッグの部門はほとんど女性です。
ただバッグの責任者が1人、男性ですね。
靴の方は、責任者もスタッフも、
男性がやや多めです。
靴はやはりちょっと力仕事なので。
糸井 ああ、なるほど、
ミシンじゃないからですね。
アンリ もちろん、靴でもミシンを使ってる部分は
あるんですよ。だけど、ほとんどの部分は
手で裏返しにして、力を入れて縫う感じですね。
  henri
糸井 工房は、イタリアのどこにあるんですか。
アンリ 工房があるのはヴィジェーヴァノという町です。
ミラノからきちんと電車が動けば
40分で行けるところなんですよ。
このヴィジェーヴァノっていう町は、
昔は靴の工房で有名だったところなんですね。
それが、メイド・イン・チャイナに押されて、
工房を閉めなきゃいけないことになってしまって、
仕事をなくした腕のいい職人さんが
たくさんいるんです。
僕は、そういう職人さんたちと出会えました。
彼らの中には、頭が堅いくらいの、
これはこうでなかったらいけないんだよみたいな、
パーフェクトを求める文化があります。
彼らにしてみると
ぼくのつくる、縫い目が波打ったりするの状態は
ちょっと考えられないことなんですけれど、
アンリー・クィールの楽しさっていうのは、
ちょっと波打っても可愛い、
革の端が切りっぱなしでもいい、
みたいなところにありますよね。
そういうことを伝えるのに
とても時間がかかりました。
糸井 そうでしょうね。
考えが1つになるまでに
ものすごい時間と手間がかかりますよね。
アンリ そうなんです。
でも理解して、作っちゃうと早いんですよ。
そして、僕は、切りっぱなしであるとか、
完璧じゃない完璧っていうのを
職人さんたちに教えたけれども、
彼らは僕に反対に、ここはこういうふうに
完璧じゃなきゃいけないということを
教えてくれました。
それが合体したものだから、
よりよいものがどんどんどんどん
出来上がっていくと思います。
だからクオリティもいいはずですと。


糸井 アンリさんに任せていたら
ほんとに実用的でないものみたいなのが
出てきちゃうのを、職人さんが、
この方が壊れないとか、
教えてくれるわけですね。
アンリ そうそう、そうですね。
いい合体、相乗効果です。
糸井 その場所に工房ができたっていうのは
ほんとうに幸福な出会いですよね。
  henri
  (つづきます。)
協力:Henry Cuir 青山本店

2008-11-10-MON