糸井 | いままでお話をうかがってきて、 僕は、アンリさんのような人が、 ビジネスが「上手に」できるとは思えないんです。 ビジネスの手伝いをしている人もいるんですか? |
アンリ | うーん、いないんですよね。 だから大変なんですよ。 もともと、大金持ちになりたいとか そういうことは考えたことがありませんでした。 しかしやはり会社を持っている以上、 40人の職人さんに、 毎月、毎月のお給料をきちんと払うことと、 革屋さんにも遅れずにきちんとお金を払うことは 自分に厳しくしています。 それができていて、あとは自分たちが きちんと暮らしていくぶんがあれば、 たとえ貯金ができるようなものではなくても、 それでいいと思っています。 |
糸井 | うん、うん、ビジネスのことを ちょっとでも考えるっていうことと、 この作品を作っていくっていうことの 両方をやるのは、大変ですよね。 |
アンリ | 僕にとって豊かさとは、 朝、5時に起きて、一日を 「さあ、今日は何をやろう」 とはじめられること。 そういうような気持ちの豊かさと、 その作ったものをどなたかに 共感してもらえるということ。 それが僕にとって、いちばん豊かなことです。 |
糸井 | ああ。今はじゃあそれができてるんですね。 |
アンリ | そうです。あとはやはり、 自分が、職人さんたちに教える人になれたということ。 僕は自分の持っている全てを みんなに受け継いで教えていきたいんです。 それも僕にとっては豊かなことです。 |
糸井 | ああ、なるほど。 |
アンリ | 別にそれは計算したわけではないし、 僕の直感で生きて来てしまったので、 ただそういうふうな自然な成り行きで そうなっているんですけれども。 最初、1人で始めたことが、 だんだんオーダーが来るようになって 1人増え、2人増え、3人増えっていう、 スケジュール表のない人生なんです。 明日どうなるか分からないけれど、 つくったバッグがなくなったら また作ろう、みたいな。 日本では、うどん屋さんが 店先でうどんをこねてますよね。 それと同じようなことです。 |
糸井 | そこに出会った人はラッキーですよね。 |
アンリ | そうですね、僕もラッキーです。 |
糸井 | 今、いちばん楽しいときってどんなときですか? |
アンリ | ふと、アイデアが出て来たときに、 あ、こんなアイデアが出て来た、 これを何とかしなきゃって、 その気持ちがどんどんどんどん沸き上がって来て、 夜だったら、朝5時まで待てないくらいになって、 それをかたちにしている間に、 別なアイデアが出て来ちゃうときですね。 その瞬間がたまらなくて。 終りがないんです。 |
糸井 | 楽しいですね、それは。 |
アンリ | 楽しいですよね。 そのときに僕は世界でいちばん幸せな子どもだと感じます。 |
糸井 | そろそろお約束の時間がなくなって来てしまいました。 もうちょっとだけ聞かせてください。 アンリさんに影響を与えたものや人を、 3つ、挙げるとしたら何でしょう? アンリさんを作って来たものですね。 あなたの材料、3つ挙げるとしたら何でしょう? 人でもいいし、物でもいいし、事でもいいです。 |
アンリ | いっぱいあり過ぎて選べないんですけど。 |
糸井 | いっぱいあり過ぎて(笑)。 |
アンリ | 長い間、こうやって生きてる以上、 とってもいっぱいあって。 でもその中で1つはやっぱり愛情です。 愛すること、愛されること。 その感情が僕の気持ちに届いたり、 その気持ちを与えたりっていう、 その感情っていうのは、 その、何て言うんでしょう、 心と心が通って、 その愛情があることによって 生まれるものがいっぱいありました。 その愛情が僕を進ませてくれたんです。 |
糸井 | 3つというより1つですね、それはね。 |
アンリ | 3つというより1つ。そうですね。 |
糸井 | わかりました。 じゃあ、ここでおしまいにしますけど、 10年後、何してるでしょう? |
アンリ | 10年後の今も、 「明日はどんなことができるんだろう」 と思っていたいです。 |
糸井 | なるほど。 |
アンリ | そして、息子がまだ小さいので、 その10年間の間にどれだけ多くの、 自分の気持ちを伝えていけるだろうかと。 今、何て言うんでしょう、 いろんなものがコンピューター化されて 人と人との通じ合いっていうのが なかなか上手く表現できない。 そういう人と人との関係っていうのものも、 愛情というものも教えていきたいと思います。 満たしていきたいと。 |
糸井 | そのとき息子さんは15歳ですね。 |
アンリ | 15歳。 思春期ですね。 |
糸井 | そうですね。 |
アンリ | 口、きかれないかも。 |
糸井 | まだまだ忙しいですね。 |
アンリ | 糸井さん、日本語で話せないのが残念です。 |
糸井 | いえ、短い時間でも、言葉がちがっても、 とても通じ合えたように思います。 アンリさんのバッグから 僕らが受け取ってるのと、 僕らが仕事してるのを みなさんに受け取ってもらうのと、 同じぐらいな分量だと思うんですよ。 |
アンリ | 僕も同感です。 やっぱり感情、情ですね。 エモーション。 |
糸井 | ええ、ええ。 |
アンリ | 何か、読んで感動するのと、 ものを、持って感動するっていうことは。 |
糸井 | 同じです。 |
アンリ | それは読んでくれる人、 付き合ってくれる人に、 この感情を伝えることですからね。 今の時代に、大切なものを作ってるんだ、と。 |
糸井 | はい。そうです。 |
アンリ | 未来がないものを作りたくはない。 感動するってことは、 未来を呼ぶ、次の流れを呼びます。 その感情がないまま生きていると 人間ではなくなります。 世界が終わっちゃいます。 お金だけを求めていっても、 それは要するにイリュージョンで、 感情を皆さんにお伝えすることはできない。 お金を儲けるよりも、 クオリティのいい毎日を生きたいんです。 最後に言いたいのは、日本に来ると、 朝から夜まで、会う人、会う人、 知り合いでなくても、すれ違う人であったりとか、 お店やレストランに行くと、 人それぞれが、みんな、 人それぞれを敬って生活している。 僕はそれにとても感動します。 |
糸井 | ほんとうに、そうならいいんですけどね‥‥。 日本人としては、そうじゃない人もいる、 そうならいいんですけれどって思います。 いやあ、アンリさんの作品を見たときと アンリさんという人に会ったときとが、 同じような印象で、面白いです、 きょうは、ほんとうに、 ありがとうございました。 |
アンリ | ありがとうございました。 糸井さん、ぜひ、いつか、 ヴィジェーヴァノの工房や、 エルバ島の家に、遊びに来てくださいね。 |
糸井 | いつか、ぜひ。 ありがとうございました。 |
2008-11-11-TUE