アンリ | 革職人になっての40年間は、 僕はもう、とてもトリップ‥‥ 魔法の中にトリップしてるような感じです。 |
糸井 | ほう。 |
アンリ | これはもしかして、 僕の欠点でもあるのかもしれないんだけれども、 大きな利益を得ようとか、 これでお金持ちになろうとか、 そういうようなことが念頭になく、 まず自分の好きなものを作って、 その「もの」に共感して お金を出してくれる方がいるんだったらいい、 というスタンスで始まって、 きょうまでの40年間、いるんです。 素材が好きだ、色も好きだっていう、 やっぱり自分のおもむくままにやっている。 |
糸井 | はい、はい。 |
アンリ | 最初のベルトは、20本か30本ぐらい作って、 スイスのアスコーナという町で あるお店に持ち込んでみたんです。 どうなるか分からないのでとりあえず見せてみようと。 今もそうなんですけど、スイス人ていうのは堅くて、 とても真面目でっていうイメージがありますよね。 なのでちょっと恐かったんだけれども、 まず行ってみようと。 それで行ってみたら、「じゃ、幾ら?」って。 まさか買ってくれると思わなかったので、 値段は決めてなかったんです。 じゃとりあえず1個25フランですって言ったら、 全部、買ってくれて。 「ああ、僕の製品てお金になるんだ」って。 21歳のときのことです。 |
糸井 | 嬉しかったでしょうね。 |
アンリ | ええ、もう何か信じられなかった。 |
糸井 | サッカー以外に何かがお金になるなんてことは 思ってなかったでしょうからね。 |
アンリ | 40年前のサッカーは そんなすごいお金が回ってなかったですけれど。 |
糸井 | あ、そうか(笑)。 そのときに、堅いと思われたスイス人に 全部買ってもらえたっていう、 自分のそのベルトは、 そのへんにあるものと何が違ってたって、 今、思いますか? |
アンリ | ベルトっていうのは、ベルトの形があって、 バックルがあってと、形が決まっていますよね。 僕のは‥‥別に習ったわけでもないので、 幼児的な、原始的な発想でつくったんです。 |
糸井 | あの、要するに 何もかもが決まりきったところに、 子どもが急に何かものを作ったみたいなものが ぽんと出て来たわけですね。 |
アンリ | ここに、あるかな、同じものが。 |
糸井 | え、あるかもしれないですか? |
アンリ | 再現したものですけれど。 「サシェ・ロランド」っていう名前で、 |
糸井 | えっ。 |
アンリ | お客さまが自分で自由に組み合わせて使うんです。 たとえばこのわんちゃんはここに欲しいとか。 |
糸井 | うわぁ。聞いてるだけで楽しいです。 |
アンリ | そうですか(笑)。 |
糸井 | 絵描きさんは、アートをつくっている。 一方で、大量生産の製品がある。 その間の商品が全くなくなって来たんですね、 時代の変化で。どちらかしかない。 でも、僕は、作品と呼ばれる種類の商品が あるんじゃないかと思って、 ずっと、そういうものを探しているんですよ。 |
アンリ | 大量生産というのはやっぱり、作り手が見えません。 10個あったら10個、同じ顔ですよね。 でも作品になると、ひとつひとつが変わってきて、 その作り手の顔が見えます。 |
糸井 | はい。 |
アンリ | 大量生産はやはりミシンを使って、 真っすぐに縫わなきゃいけない。 真っすぐに縫わないと製品になりません。 だけど、手で作られてるものっていうのは、 そういう制約がありません。 たとえばもしかしたら斜めに縫ったほうが 可愛くできるかもしれない。 糸の色を変えて何かを入れたら もっと可愛いかもしれない。 やっぱり手っていうのは、 作るときにそのときの自分の気持ちが出てきます。 さらに、たとえばテクニックに関しても、 限界がないっていうところに、 僕はやっぱり自由を感じます。 |
糸井 | ああ。 |
アンリ | あと、「今、流行ってるから」っていうような、 僕はそういうような流行の奴隷にはなりたくない。 自分の作りたいものをつくりたいんです。 でね‥‥、あれ? 言いたいことがあったのにちょっと忘れちゃった。 |
糸井 | たくさん言葉を持ってらっしゃいますね、 言いたいことがたくさん、おありなんですよ。 |
アンリ | もう1日中、喋っていますよ、喋るときは。 |
糸井 | はい、うん(笑)、よく分かります。 伝わるんですよ、それが。思いが。 |
(つづきます。) | |
2008-11-04-TUE