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「ほぼ日刊イトイ新聞の本」が出るよ!

【見本読み その12】
おカネで頼めない人に頼む。


創刊にあたって、「ほぼ日」の中身を
具体的にどうするか、という話の続きです。

「作者にも、読者にも、『ほぼ日』にも
 全員に対して、プレゼントになる企画を作る」
というほぼ日編集部の方針のおおもとのような
内容のことが、今回は、語られます。

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【おカネで頼めない人に頼む】

どうせなら、
おカネで頼めない人にあえて頼もうというのは、
カネのない現状から
必然的に導き出されたコンセプトだった。
 
世間にはいくらおカネを積まれても、
いくら華々しい発表の場を用意されても、
自分の意に染まないことは
絶対にやらないというクリエイターがいる。
ミュージシャンの大滝詠一さんや俳優の高倉健さんは、
その最右翼に位置する人たちだろう。

通常のやり方で頼めないのなら、テレビや
大手広告代理店などとぼくは五分五分ではないか。
企画の内容次第で
『ほぼ日』に登場してくれるのではないか。
 
大瀧詠一さんとは
ほとんど面識がなかったが、共通の友人がいた。
大森昭男さんという音楽プロデューサーで、
大滝さんやYMOのメンバーたちが
若いミュージッシャンとして活躍しはじめた頃からの
古い知り合いだった。
 
ぼくが、大森さんに企画内容を話し、
「大瀧詠一さんに対談を頼めるものかどうか」
をたずねたのは、
「ほぼ日」がスタートする直前だったと思う。
「やるんじゃないですかねぇ」
大森さんという人は、
主にCM音楽のプロデュースをやっている人なのだが、
とにかく誠実で真剣で誰もが敬愛している
いまどきめずらしいくらいの人物なのだ。
彼が、脈あり、と言ったというのことは、
かなりの確率で可能性があるということだ。

彼の言葉を頼りにメールを出した。
数日後にOKの返事が届いたときは、
本当にうれしかった。
オレたちに不可能はない、と高揚した。
不可能にならないようなことをやっていくのが
「オレたち」なのだ。
そういうふうに考えていくべきだ。
可能と不可能の分け方は、
世の中と「オレたち」はちがう。 

大滝さんは早くから
インターネットやメールを使っていた。
ぼくがはじめる何年も前から
ネットの世界で遊んでいたらしい。
「ネットはボランティアで成り立ち、
 シェアしあうのが当たり前」
ということを当然のように考えていた
インターネット第一世代の人なのである。
意気に感ずという姿勢が、
気持ちいいくらい伝わってきた。

『ほぼ日』のコンテンツの企画は、
こんな感じで次々と実現していったのだった。
 
以下は「ほぼ日」をスタートする前の、
ぼくのメモからの抜粋だ。

こんな企画が実現したい、という思いと、
こういう企画は大メディアでは
かえって難しいだろうなぁという戦略が、
ここにあったようだ。

「吉本隆明、まかないめし」
「大滝詠一的スタイル」
「矢沢永吉二十一世紀を語る」
「高倉健、寿司に教わること」
「中畑清が科学する!」
「木村拓哉の監督したい映画」
「竹中直人、謝る」
「クマちゃんの部屋」
「原田社長はリンゴを売りまくる」
「イッセー尾形を確実に観る方法」
「前田日明は、何が怖いか」

三月頃までに百以上の思いつきがあって、
三十くらいの実現した企画が
ぼくのノートを埋めていった。

実現できるかどうかはわからなかったし、
ほんとうは、あてもなかった。
でも深夜に考えを煮つめていると
魅力あるコンテンツの企画がどんどん出てくるのだった。
そうだ、こういうものを、ぼく自身が読みたかったのだ。

上記のメモにあって、まだ登場が実現してないのは、
高倉健さんと中畑清さんだと、いま気がついた。


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(明日に、つづきます)

2001-04-19-THU

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