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「ほぼ日刊イトイ新聞の本」が出るよ!

【見本読み その13】
企画の協力者も現れる。



今日の立ち読み部分は、
ほぼ日の企画話のつづきです。
アップル原田さん、クマさんのお話です。
乗ってくれる人と、断られる可能性について。

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【企画の協力者も現れる】

うれしかったのは、
知り合いのディレクターや編集者から
企画の協力者があらわれてきてくれたことだ。
 
ぼくがテレビ朝日の
「徹子の部屋」にゲスト出演したときのこと。
 
ひょんな話から若いディレクターのTさんと、
クマちゃんこと鉄のゲージツ家・
篠原勝之さんのことが話題になった。
どちらも、クマちゃんの友人だったのである。

「『徹子の部屋』とは別に、
 クマちゃんに取材して番組をつくったのだが、
 時間的制約もあって、
 取材した内容のすべてはオンエアできない。
 自分の感じた驚きや喜びを、
 もっとたくさんの視聴者に伝えたい。
 糸井さんがはじめるホームページに
 『クマちゃんの部屋』をつくってもいいだろうか」
 
ぼくはTさんからこういわれたとき、
「もちろん。こちらからお願いしたい」
と言った。
 
クマちゃんはゲージツ家だ。芸術家、ではない。
 
芸術の「術」は技術の「術」だという。
技術が高度であればあるほど、
作品は高価になるらしい。

「でも、そこには
 魂のほとばしりがないだろう。
 俺のゲージツは『術』に
 関係ないところで成り立っている。
 ゲージツの『ジツ』は実在・実行の『実』。
 ゲー実は書き間違いでもなければ、
 ゲイミでもない」
というのがクマちゃんの持論だ。
 
テレビ出演の多いクマちゃんは
よく知られているが、
クマちゃんのゲージツを実際に鑑賞した視聴者や、
制作現場を知る人はそれほど多くはない。
 
「クマちゃんの部屋」は
ネット上の常設写真展として
たくさんのファンの目を楽しませるにちがいない、
とぼくは思った。
 
テレビ局のディレクターが、「ほぼ日」に
媒体としての興味を持ってくれたということが、
またこれからのぼくらの可能性を感じさせてくれた。
 
日本アップルの社長・原田永幸さんの企画も、
知り合いのマック雑誌編集者との
とりとめのない話から生まれた。
 
日本アップルの社長交替に話題が飛んだとき、
「あの社長の原田さんって、
 ぼくの知っている原田さんなのかなぁ」
と質問してみたら、
たぶん、その原田さんですよということになった。
 
彼はすぐに秘書室に連絡をとってくれて、
十年以上前のマーケティング本部長時代の
原田さんとぼくとの一回きりの遭遇を確かめてくれた。

当時、創業者スティーブ・ジョブズが
暫定CEOとして返り咲き、
いかにアップルを再生させるのかが
マックファンにとって大いに気になるところだった。
日本アップル新社長の原田さんから、
普段着の話を聞くという企画は、
ぼくだけでなく
さまざまなコンピュータ好きの人々にも
無力的な企画になるだろう。
 
以前、一回会っただけの原田さんに、
企画を持ち込めるかどうかもわからない。
しかし、かつて一度だけ
マーケティング部長としてお会いした
原田さんという人なら、
きっとぼくの考えをわかってくれる人だと、
妙な信じ方をしていた。

そのあたりは、人間的な直感だ。
戦略も理屈もありはしない。
ただ、断られても
「それが当たり前なんだ」
と、ぼくは思っていなくてはいけない。

いくらこちらに情熱があったとしても、
それは相手にはなんの関係もないことだ。
相手には相手の、別の情熱があるだろうし、
ぼくとはちがった優先順位で動いている。
そのことだけは、
いつもぼくらは肝に命じておかなくてはいけない。
 
すべて実現するかもしれないし、
ぜんぶ断られるかもしれない。
成算があるわけではなかったけれど、
ともかく企画だけが先行した。
自分で考えているかぎり、
アイディアは無料だったし、
他にできることがない状態では
企画を考えることこそが
まっさきにやるべき仕事だったからである。
 
ぼくのノートに「クマちゃんの部屋」
(のちに「クマが鉄からガラスへ?」に変更)と
「原田社長はリンゴを売りまくる」という
企画タイトルがメモされたのは、
こういう経緯からだった。


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(つづきます)

2001-04-20-FRI

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