HOLAND
オランダは未来か?

「ホ 〜!ラント」第7回目

オランダの国土の面積は、約4万1000平方キロメートル。
日本の面積の約9分の1。ほぼ九州と同じです。
オランダの人口は、約1500万人。
日本の人口の約8分の1。
東京都の昼間人口にほぼ等しい。
つまりオランダは九州くらいの国土に、東京都の
昼間人口くらいの人々が住んでいるというイメージです。

オランダの首都である
アムステルダム市の面積は、約2万ヘクタール。
東京都の面積の約12分の1。
八王子市より少し大きいくらい。
アムステルダム市の人口は、約72万人。
だいたい世田谷区の人口くらいです。
てえことは、アムステルダムは八王子市くらいの広さに
世田谷区民くらいの人がいるというイメージになります。

小さな国ですね。狭い日本と比べてさえ、ひときわ狭い。
しかもオランダは国土の3分の1が海面下にあるんです。
万が一堤防が決壊して大洪水にでもなれば、
最も人口密度の高いアムステルダム、ロッテルダム、
ライデン、ハーグ、デルフトなどの都市をはじめ
多くの国土が海面下に沈んでしまう、
そうオランダ政府観光局の
ホームページに書いてありました。
堤防っていう人工物が、
直接に国の生死を支えているわけです。
これこそオランダという国を
象徴する事実という気がします。
「世界は神から与えられたが、
オランダは人間が作った」
という言い回しがあるそうです。
これはオランダが海の暴威と戦い、海を干拓して
国土を広げてきたことを指しているのでしょう。
オランダの正式な国名である
ネーデルラントとはそもそも
「低い土地」という意味なんだそうです。

オランダはたえず海を見張っていなくてはならない。
それに貿易立国であり、小国としての危機感から、
たえずまた世界情勢を見張っていなくてはならない。
それは知的な優越感とか憧れとかではなく、
世界情勢の洪水に
飲み込まれたら真っ先に
海の藻くずと消えるという死活問題だから。
つまりオランダという国はたえず「外側」を
見張っていなければならない国なんでしょうね。
それも役人に任せておくというのではなく、
一般庶民の中に
そういう危機意識が
浸透しているんじゃないでしょうか。
自分達の世界と外側との壁が、
はかない堤防に過ぎないことを知っている国。
自分達の社会のもろさ、壊れやすさを
よく知っている国じゃないでしょうか。

いや、そういうところは
日本とはずいぶん違うんじゃないかと思って。
これはまだオランダについて、
ちびっとしか知らない私の第一印象なんです。
そんだけのものに過ぎませんが、
第一印象を忘れずに書きとめておきたいんです。
もうひとつ第一印象その2があります。
それは、オランダの人たちっていうのは、
負け戦に強いんじゃないかって印象です。
足が徳俵にかかってから
根っこが生えたようにねばりにねばる、みたいな。
17世紀に黄金時代を迎え
世界帝国を築いたオランダは、
1世紀半ほどして衰退していきます。
ていうか、そう本に書いてあるんですが。
おおざっぱに言えば、
オランダはそこからずっと撤退戦
といえるかもしれない。
「しんがりの戦い」というやつです。
でもそこからが極度に強いんじゃないでしょうか。
一丸となって整然と戦うのが
苦手な代わりに、苦難が身近に
迫ってくると、
ひとりひとりが徹底抗戦することができる。
それは国としてもそうだし、個々の人生を襲う
負け戦に関しても強いんじゃないか。
すごくそんな気がします。
麻薬、安楽死、売春といった人生のどん詰まりに対して、
どこの国よりも臆せずに見つめ、
独創的な対策を実行できる力って、そういうところから
長い時間をかけて培われてきたんじゃないかって。
ちょっと進歩的だってくらいで、
出来ることじゃないですよね。
それは強い国の強さとは違った、
弱い国の強さだって気がします。

さて、ビギナーのあてにならない
第一印象はこのくらいにして、
ツバキさんの話の続きを聞きましょう。
また前座が喋りすぎちゃって、本文が短めです。
すまみせん。
私は内気なくせにおしゃべりなんです。

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お縄パフォーマー・ツバキさんの話シリーズ7
【未来都市アムステルダム?】
(縄というのが、ツバキさんの発言です)
「前回ツバキさんがアムスでは人種差別を感じなかった
って言ってましたね。それってスゴイことですよね。
人種差別って根の深いものじゃないですか、
簡単になくなるものじゃないでしょ。
その根深い差別を打ち消すくらいの根深いなんかを
オランダは持ってるんでしょうね。
アムステルダムってありと
あらゆる人種が集まってるんでしょ?」
「ヨーロッパの他の国からもいっぱい入ってくるし、
オランダの植民地時代に
入ってきてる人たちがたくさんいる。
アジア系の人。
マレーシア人とか、インドネシア人とか。
またそういう人たちと
オランダ人とのハーフも多いの。
そういう人たちはアジア系の顔立ちのまま、
体がオランダ人並みにでっかくなってるの。
いっぱい混血しているのよ」
「人種にこだわらないってことは、
混血にもこだわらないってことだよな」

「ただ中国人だけは、チャイナタウンの中だけにいて
チャイナのつながりだけで生きているらしい」

「ふ〜ん、
それは人種差別というのとは違うんですね?」

「アムスの友達は、
私達は閉鎖的な人たちに対しては
干渉しないよ、って言ってた」

「ほっとこう、と。
そういうのもアムスらしさですかね。
アムスの人っていうか、
オランダの人の国民性ってどんななんですか?
よくオランダ人はケチだって言うじゃないですか。
ダッチ・アカウントって割り勘のことでしょ?
あれもオランダ人がケチだから言われるんだとか」

「わたしの印象では、
ケチっていうのとまた違うんだな。
お金を使うのが
好きじゃない人たちなんじゃないかな。
だから余分な収入はいらないわけ。
お金を重要視してないところはすごくあると思う」

「ケチっていうのは吝嗇ってやつですよね。
守銭奴とか。
そういうんじゃないと?」
「使う時には思い切りよく使うみたいだから。
ケチとは違うんじゃない。
もとはピューリタンが多かったんだから
『清く貧しく美しく』みたいな価値観があるんでしょ。
だからケチじゃなくて『清貧』?(笑)」
「ちょっと前に日本でも流行りましたねえ」
「食事もあまり食べないのよ。体でっかいのに」

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オランダ人があまりお金を使わない話を聞いていたら、
糸井さんと対談している
大瀧詠一さんを思い出してしまいました。
働くことの哲学って昔からあって上司なんかが語るけど、
消費するほうの消費者の哲学ってあまりまだないですよね。
今ってなんか金を使ってるっていうより
使わされてるって感じじゃないですか。
オランダ人は消費哲学ってものを持ってるのかな?
もしかしたら。
では、また次回。数日後にお会いしませう。

1998-09-24-THU

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