「確かにオランダは先進国ではあるさ。
なぜなら、オランダでは路面電車の料金が
安いとか、社会保障とか、
医療費を政府が持つとか、
そういう福祉の恩恵を1400万人くらいの国民が
こうむっているわけだから。
けれども、そういう制度は、
すごく残酷な植民地主義的なやり方によって
成り立っているんだ。
それはオランダだけじゃなく、
全世界的に行われてることだよ。
インドネシアやアフリカや南米の多くの人々が、
死んでいるし、死に瀕している。
彼らは1週間に1ドルにもみたないくらいの賃金で
働いているんだ。
そういう人達の犠牲によって、この世界の
経済的な不均衡が維持されているんだ。
洗練された、発展した社会であると思われている
欧米の社会は、結局白い肌の人間のことしか
考えていないんだよ。
そして、一方では貧しい国の人々に対して、
マドンナを聞いたり、ナイキの靴とか、
ヒップホップとか、
そういうのがクールだという文化を押しつけて、
文化の奴隷にしているんだ。
すごく哀しいことだ。
面白いことがあるんだ。
私が15年前にオランダに来た時には、
例えばイスラム教徒の人達はとても少なかった。
でも、ここ10年くらいで
たくさんの移民がオランダにやってきた。
知ってのとおり、オランダは彼らに対して
冷淡な政治的態度をとっている。
外国人がたくさんいなかった時には、
自由だとか平等だとか言うけれど、
いったん隣近所に
黒人が住むようになると変わるんだ(笑)。
閉鎖的になって、彼らを国から追い出そうと
みんなが言い始めるのさ。
オランダのメディアも面白いんだ。
私は12年間テレビを見ていないんだけど。
テレビは(と言って、イアンさんは
自分のちんちんを指差した)
精子をぶっこわすっていうからさ。
ヨーロッパやアメリカのメディアが、
自国の視聴者に向けてアジアやアフリカを
とりあげる時は、
必ず貧しい姿とか救われない様子や
災害なんかをとりあげる。
例えば日本だと、今の不況の状態とかさ。
それが白人至上主義を助長するんだよ。
白人達は、日本人が
災難にあっているのを見て喜ぶわけさ。
『ホラ、見ろよ!
資本主義を日本人に与えてやったら、あのザマだよ!
資本主義は、白人だけが
うまくやっていけるものなのさ』
ってね。
彼らは資本主義が最高だと思っている。
しかし彼らも、
白人が一番優位なんだという意識に囚われて、
そういう意識の奴隷になっているんだ。
とても哀しいことさ。
資本主義とか民主主義とかいうのは、
すべての世界にとって良いものではないんだ。
それらは、ほんのわずかな
支配的な人間達にとってのみ良いシステムなんだ。
資本主義は購買欲を煽り立てることばかりを
押しつけるキチガイじみたシステムになっている。
日本も、物を生産しまくって、消費しまくって、
それに囚われて不幸になっている感じがするよ。
(ここでイアンさんは、
メモ帳を取り出して絵を描いた。
それは蛇が自分の尾を呑み込んでいる絵だった)。
これが、ジレンマだよ。
これは蛇が自分を食うという、
ギリシャのウロボロスという図だ。
蛇が自分の尾を食べていって、
もう食べ切れなくなっているんだ。
それが資本主義だ。
作って消費して、作って消費して、
ついにどこかで破裂してしまう。
人間を生き物として考えると、
技術を中心とする発展に
ついていけなくなってきているんだ。
だから資本主義の発達が、人を狂わせ始めるんだ。
酒鬼薔薇少年の犯罪も、
そのひとつの現われなんじゃないかな」
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