YAMADA
カンバセイション・ピース。
保坂和志さんの、小説を書くという冒険。

第11回「小説を書く人間」

糸井 保坂さんがいま話してくれたことって、
高橋源ちゃん(高橋源一郎さん)なんか、
とてもよくわかっている人だと思うんです。
保坂 こないだも話をして、
今度も、高橋さんとは、ぼくの小説のための
対談をしてもらうことになっているんですけど、
高橋さんは、すごくよく、わかりますよね。
糸井 うん。
保坂さんと源ちゃんの小説の話は、
根から音楽好きの人の音楽の話に近いね。

人は、小説の中に、
違うオマケの部分を、もっと求めている。
それで、不自由になることなんですよね。

源ちゃんと保坂さんに共通する何かは、
ぼくは、感じるんですよね。
雑に言うと、権力的じゃないというか……。
保坂 小島信夫先生も、
その中のひとりなんだと思います。
すばらしいのに、文壇的には、
ぜんぜん、えらくないもの。
糸井 うん。
そう聞くとそうだね。

前にぼく、ふざけたタイトルで、
「ペンは剣よりも強し、だから武器よさらば」
って言ったんだけど。
保坂 (笑)
糸井 でも、ほんとはそうですよね。
武器をチャカチャカやるのは、よくないよ。

言葉って、たしかに、
「ペンは剣よりも強し」
というのもほんとで、
どうしても、暴力というか、
パワーを持ってしまいますよね。

今、名前が挙がった人たちは、
パワーを持ってしまうことに
とても敏感で、でも、ノーパワーじゃ、
小説の世界にいる時に、遊べないですよね。

場所を立ちあげる力が、出ないから。
保坂 やっぱり、
小説を書く人っていうのは、独特な人間で。

こないだ、遠い先輩にあたる人が、
出版にまつわる、収入の話を聞きつけてきて、
ぼくに手紙を、書いてくれたんです。

「保坂くんも、収入が少ない、
 経営的に、とてもたいへんなことを
 やっているんだな。これからも応援します」

収入がほしくてやってるんじゃないんです。
やりつづけるための収入は欲しいんだけどね。

次の小説を、ゆっくり書ける程度のお金は、
前の小説によって稼ぎだしたいと思っているわけ。

でも、手紙をくれた方は、
すべての人が、お金を儲けるために
動いていると、思っているんです、きっと。

糸井 保坂さんの小説家としての収入を
心配する実業家の人には、
金銭以外の目的は、わかってもらえないかもね。

要するに、資本主義の社会だから、
みんな、無尽蔵に登れる山を想像しながら
欲望については、語っているわけでして……。

無限の高さの山って、
ほんとは、ないんだよね。
無限に近いように見えたビル・ゲイツが、
三度三度のメシを四度にしているかというと、
そうではないので。
保坂 うん。
糸井 保坂さんが小説家になって、
小説語の言語体系の住人になるように、
「実業語」があって「実業体系」がある。

その中の遊びが、ものすごくおもしろくて、
で、抜けられなくなって日常に影響を与えると、
実業以外の評価が、できなくなるんですよ。

ただ、以外と、
ガリガリの金の亡者に見える人も、
小説書きの趣味と、ほんとうは
共通するものがあるんじゃないかというか。
そう思える人には、ときどき、会いますね。

そういう経営者に、
「さぞかし、おもしろいでしょうねぇ」
って訊くと、
「……おもしろい!」って言うもんね。
その愉快さを伝える言語を持っていない、
っていうかなしさは、ありますけれど。
保坂 実業をやると、ついつい、
お金ではかれるような気持ちになるから、
そこで話が流通しちゃうんだけどさ。
糸井 たとえば、政治家が文句言われたりする時の、
「ぜんぶ、お金の為にやってるんだ」
っていう悪口が、あるじゃないですか。
いわゆる、ジャーナリスティックな批評とか。

「こういう利権が動いていた」
とか、アレって、つまんなすぎますよね。
悪役として登場させるにしても、
もっと複雑でおもしろいはずだから。

その文句で言い足りなくなると、
今度は、陰謀史観とかを出してきたりしてさ。

でも、それじゃ、
想像力の範囲が、オモチャっぽすぎるよ。
たとえば、実際に生きていた時の
田中角栄の考え方なんて、
もしも、その頭に乗りうつれたら、
うっとりするぐらいおもしろいと思うんです。
文学には、なってなかっただろうけど。
 
(つづきます!)

2003-07-11-FRI

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