糸井 |
……こうして保坂さんの話を聞くと、
「エライ仕事だ」って感じは、確かだよね。
たいへんな仕事だという言い方よりも、
「よくもまぁ、そういう所に、
ふきだまっちゃったなぁ」というか。 |
保坂 |
小説を書くことですか。 |
糸井 |
うん。
誇りのない商売だとは思わないけど、
少なくとも、来させられちゃったもの、というか。 |
保坂 |
ぼくが西武に勤めていた時、
糸井さんも小説書いていましたよね。 |
糸井 |
うん。
おれは、その話をしたいね。
書くの、どんなにイヤだったか……。(笑)
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保坂 |
80年代から、
いろいろな人が
小説を書いていましたよね。
ぼくは書くつもりなのにぜんぜん書けなくて、
どういう風に書くか、
自分の小説とのスタンスを、
わからないまま、考えていたんだけど……。
「わかった」というか、
その時から感じていたのは、
他のことをできる人は、小説書けないんです。 |
糸井 |
追いつめられないとね、その場所に。
でも、他のこととして
小説を描いている人も、いっぱいいますよね。 |
保坂 |
うん。(笑) |
糸井 |
それはそれでまたビューティフルな、
梶原一騎みたいな人はいいよ。
梶原一騎は、
他のこととして書いていたと思うんですよ。
あと、ハリウッドの映画作りも、
他のことをやっていますよね。
でも、愉快なことなら
それでオッケーじゃないですか。
実業と同じですから。
保坂さん、他のことをできる人は
書けないっていうのは、最初からわかってた? |
保坂 |
途中で気がついた。 |
糸井 |
(笑) |
保坂 |
西武に勤めていた途中で気がついた。
だから小説を書く前には、わかってました。 |
糸井 |
そこで、出発しちゃったんだね。
さっき、保坂さんによる、
「小説というものは無数の迷信に彩られている」
っていうことの明晰な解説があったけど、
ぼくは、自分が書いたことが一回あるから、
「その無数の迷信が、ぜんぶイヤだったんだよ!」
っていう思い出として、残っているわけで。 |
保坂 |
(笑) |
糸井 |
ムカムカするくらい、やなの。 |
保坂 |
(笑) |
糸井 |
書いている途中で、山下洋輔さんと話をしたら、
「人間には小説は向いてない」
って、山下さんが言ったの。
オレは、そのひとことを、待ってた!
その「向いてない」の正体は、
さっき言ったように、
小説を小説として構築するための整合性とか、
最終的に何かが
見えてくるようにしなきゃならないしかけとか……。
小説書くって、
ひとりのワガママな仕事のはずなのに、
裏方仕事が多すぎる。 |
保坂 |
ハハハハ。(笑) |
糸井 |
小説書くことって、たとえば、
「オレが、こういう話をするから、書いて」
とか、ディティールのところで、
ぜひ自分が書きたいところは書くとか、
そういうことができたら、
もっと愉快かもしれないんだけど、
それは小説書きじゃないんだよなぁ。
だから、書くの、イヤだったよ……。 |
保坂 |
ぼくも、
「こういうことを書こう」
「横浜球場に行って、こういうヤツがいて
こういうことが起きて……」って思うと、
「それ、ぜんぶオレが書くのかよ?」
とは、感じますね。 |
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(つづきます!)
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