YAMADA
カンバセイション・ピース。
保坂和志さんの、小説を書くという冒険。

第12回 「小説を書くのは、
 なぜイヤか?」

糸井 ……こうして保坂さんの話を聞くと、
「エライ仕事だ」って感じは、確かだよね。
たいへんな仕事だという言い方よりも、
「よくもまぁ、そういう所に、
 ふきだまっちゃったなぁ」というか。
保坂 小説を書くことですか。
糸井 うん。
誇りのない商売だとは思わないけど、
少なくとも、来させられちゃったもの、というか。
保坂 ぼくが西武に勤めていた時、
糸井さんも小説書いていましたよね。
糸井 うん。
おれは、その話をしたいね。
書くの、どんなにイヤだったか……。(笑)

保坂 80年代から、
いろいろな人が
小説を書いていましたよね。

ぼくは書くつもりなのにぜんぜん書けなくて、
どういう風に書くか、
自分の小説とのスタンスを、
わからないまま、考えていたんだけど……。
「わかった」というか、
その時から感じていたのは、
他のことをできる人は、小説書けないんです。
糸井 追いつめられないとね、その場所に。
でも、他のこととして
小説を描いている人も、いっぱいいますよね。
保坂 うん。(笑)
糸井 それはそれでまたビューティフルな、
梶原一騎みたいな人はいいよ。
梶原一騎は、
他のこととして書いていたと思うんですよ。
あと、ハリウッドの映画作りも、
他のことをやっていますよね。

でも、愉快なことなら
それでオッケーじゃないですか。
実業と同じですから。

保坂さん、他のことをできる人は
書けないっていうのは、最初からわかってた?
保坂 途中で気がついた。
糸井 (笑)
保坂 西武に勤めていた途中で気がついた。
だから小説を書く前には、わかってました。
糸井 そこで、出発しちゃったんだね。
さっき、保坂さんによる、
「小説というものは無数の迷信に彩られている」
っていうことの明晰な解説があったけど、
ぼくは、自分が書いたことが一回あるから、
「その無数の迷信が、ぜんぶイヤだったんだよ!」
っていう思い出として、残っているわけで。
保坂 (笑)
糸井 ムカムカするくらい、やなの。
保坂 (笑)
糸井 書いている途中で、山下洋輔さんと話をしたら、
「人間には小説は向いてない」
って、山下さんが言ったの。

オレは、そのひとことを、待ってた!

その「向いてない」の正体は、
さっき言ったように、
小説を小説として構築するための整合性とか、
最終的に何かが
見えてくるようにしなきゃならないしかけとか……。

小説書くって、
ひとりのワガママな仕事のはずなのに、
裏方仕事が多すぎる。
保坂 ハハハハ。(笑)
糸井 小説書くことって、たとえば、
「オレが、こういう話をするから、書いて」
とか、ディティールのところで、
ぜひ自分が書きたいところは書くとか、
そういうことができたら、
もっと愉快かもしれないんだけど、
それは小説書きじゃないんだよなぁ。

だから、書くの、イヤだったよ……。
保坂 ぼくも、
「こういうことを書こう」
「横浜球場に行って、こういうヤツがいて
 こういうことが起きて……」って思うと、
「それ、ぜんぶオレが書くのかよ?」
とは、感じますね。
 
(つづきます!)

2003-07-12-SAT

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