糸井 |
「小説を書くイヤさ」を
保坂さんが、すべて引き受けて書くってことは、
やっぱり、演奏してること自体に
よろこびがあるというか、はじめてみたら、
けっこう愉快だった、ってことですよね?
……小説を書く苦しさは、ずっと続くんですか? |
保坂 |
もともと、ぼくにとって、
本を読むってことが、
たのしい趣味ではなかったということに似ていて、
苦しいことが、好きなんです。たいへんなことが。
小説って、風景とか細かいところを、
「ちょっと、ここは空欄にしておいて、
先にこっちを書いてから、戻ってココを書こう」
っていうと、もう、小説じゃないのね。
小説っていうのは
風景を書いていることによって、
また次にどうなるかってなるのが、
ただしい小説というか、
ぼくにとっての小説ですから。
風景を書くのって、やっぱりタイヘンなんです。
自分のうちの窓から毎日見ていた
過去の風景の記憶って、再現できないですよね。
絵描きとかごく一部の人は
かなりの再現力を持っているらしいけど、
ふつうは、無理ですよね。
だから、どういう風に手をつけていいのか、
わかんないのね。
それを、でも、ひとつひとつ書いていくのが、
えらいタイヘンだし、手間なんだけど、
時間をかけると、かろうじて、
少し出てくるっていうのが、いいんですよね。 |
糸井 |
たのしいとさえ言える。 |
保坂 |
「うれしい」は、ありますね。 |
糸井 |
そこで出る「うれしい」って、
すごくいい言葉だね。 |
保坂 |
ディズニーランドが生まれたのは、
20年前ですよね。
ぼくは当時27歳だけど、
ディズニーランドに行ってみて、
そのころは、激しい乗り物がなかったでしょう?
ぼくは、スクリューコースターとか
ループコースターとか、
ああいうこわいのが好きなんです。
だから、当時ディズニーに行って、
「たのしいだけって、ぜんぜんおもしろくない」
って思いました。
すごいこわさとか苦痛っていうのは、
ぼくは、好きなんです。
通り一遍の、気持ちの振幅の少ない、
ただ、たのしいだけ、っていうのは、
退屈でしかたない。 |
糸井 |
ほんとはみんな、そうなんでしょうね。
と思いたいですけどね……。
でも、女の子とかって、
ぜんぜんそんなことを言わないですね。 |
保坂 |
そうですか? |
糸井 |
たのしいだけでも、イイ、って声は聞く。 |
保坂 |
でも、たのしいだけのひとは、
ともだち止まりかもしれないし。
「いいひとなんだよね」止まりで。
「すっごくいいひと」なんつって。 |
糸井 |
……そのへんのたとえが、すっごく、
保坂さんの説明は、よわい……(笑) |
保坂 |
(笑) |
糸井 |
さっきの、
犬にわかれたってのと馬にわかれたってのと
同じくらい、適してないよ(笑)。
ときどき、単に詩的に、イメージだけで言うでしょ。 |
保坂 |
(笑)
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(つづきます!)
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