ヒット一本が、
どれだけうれしいか。

イチロー選手が、言葉で、人の心を打ち抜いた!

第7回 ほんとうの進化。

イチロー バッターには、
積極的に打とうと思う体と、
我慢する体の、両方が要るんですね。

だけど、自分が
ものすごく調子がいいときというのは、
ストライクゾーンが、
異様に広がるんですよ。
どんな球でも、打てるような気がする。
で、実際にそれを打ちにいくと、
実は打てないんですよ。
糸井 なぜなんですか?
イチロー 打てるはずのない球を、
打てると思ってるから。

「打てるポイントを、自分で、
 広げちゃっている」
ということなんです。

ほんとに打てるところは決まってるのに、
そこから外れたものを打とうとする。
だから当然、打てないんです。
その気持ちをガマンできると、
好調が維持できるかもしれないんですよ。
糸井 ただ、まるで本能であるかのように、
打てるか打てないかはギリギリで、
打てないかもしれないような球を、
がっついて食っていくような
心意気というか、
そういう身体を持ってないと、
あんな戦闘的なスポーツは無理でしょう?
イチロー ええ。気持ちは大事です。
行く気持ちは、大事なんです。
でも、抑える気持ちも大事なんです……
そこのバランス、なんですよね。

待ちすぎても、簡単に打てる球を
見逃してしまうわけです。
そのバランスは、ほんとにむずかしいです。
糸井 そんなことをわかったのって、いつですか?
イチロー 自分のカタチができてからです。
九九年以降ですね。
糸井 すでに何年間も
大打者扱いされてた状態でも、
まだ、そんなことを
わかってなかったってことなんですか?
イチロー ぜんぜん、わかってなかったですよ。
とにかく、
自分のカタチができない状態では、
いろいろなことを感じられない
ですから。

九八年までのぼくは、
そのカタチを探すのに精一杯だったんです。

世の中の人の中には、カタチが変われば、
それを「進化」と評価する人もいますけど、
ぼくの場合は「退化」だったんですよね。
糸井 変えていかなければならないような、
軟弱なものを持っていた、と。
イチロー そうです。
あれだけ変わるというのは、
「どんどん退化した証拠」ですね。

進化するときっていうのは、
カタチはあんまり変わらない。
だけど、見えないところが変わっている。
それがほんとの進化じゃないですかね。
  (明日に、つづきます!)

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2004-03-30-TUE


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