糸井 |
自分が、
「打つ感覚みたいなのをつかめた」
という場合には、
それがホームランであろうが
ヒットであろうが内野ゴロであろうが、
オッケーなんですか? |
イチロー |
ぼくの場合は、打つ感覚を
つかむ大きなポイントが
二回あったんですけど、
それはいずれも凡打です。
通常は、いい打撃をする、
ホームランを打つ、ヒットを打つ。
そういうことによって、
「あ、自分はこれで大丈夫だ」
と思うらしいんです。
ぼくもそうしてきたんですけど、
その感覚って、続かないんです。
長く続くもの、強いものというのは、
「凡打をして、
その凡打の理由がわかったとき」
なんですね。
こういう体の動きをしてしまったから、
こうなったんだ。
そういう答えが見えたときは、
かなり強い感覚ではないかと思っています。 |
糸井 |
そういう、自分の体の動きの判定って、
どこで、いつしているんですか? |
イチロー |
一度目は、打って、
一塁に走ってくときです。
こう……逆戻しをするんですね、
頭の中で。
自分の打った感覚を逆戻しすると、
そのポイントが見えてくる。
大きなポイントのうちの一つは、
そうやって見えたものです。
そのときは、二割三分とかそんなんで、
ゲームの前には、
仰木監督に呼ばれて
野球教室をされたんですよ。
いくら仰木監督であったとしても、
選手にとって、
技術的な指導というのは、
「屈辱」ですよね。 |
糸井 |
ええ。 |
イチロー |
その凡打は、
四打数ノーヒットでむかえた
第五打席目、でした。
セカンドゴロ。
一塁に走っていく途中に
感覚がつかめていたもんだから、
ベンチに帰る途中、
ぼくはニタニタ笑ってるわけですよ。
それ見て、監督が怒った。
ぼくは、「おそらくこれだろう」という
答えが見つかったから、
うれしかったんですね。
次からはもう大丈夫だ、
明日からは大丈夫だ、と。
でも監督は、それは、怒りますよね。
「二割三分で笑ってんな」
ってなもんでしょう。
その次の日は、実は、
ともだちの結婚式でした。
名古屋のともだちが、その日ならば、
ぼくが出席できるからということで、
その日にしてくれていたんですね。
だけど監督に「練習しろ!」
って言われて……
ついに、結婚式に、
出られなかったんですよ。
千葉に行って、練習して。 |
糸井 |
(笑)笑ったのが原因だった。 |
イチロー |
それもあったでしょうね。
当時、三割五分打っていたら、
自動的に「好きなようにしろ」
ってなるんですけど。
二割三分じゃ、ものが言えないです。
野球だけじゃなくて、
実力の世界、勝負の世界っていうのは
みんなそうでしょうけど、
結果を出さないと
ものを言えない世界ですから。
そのときはもう、
何にも言えないんですよね。 |
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(明日に、つづきます!) |