ヒット一本が、
どれだけうれしいか。

イチロー選手が、言葉で、人の心を打ち抜いた!

第8回 凡打のときにこそ、発見がある。

糸井 自分が、
「打つ感覚みたいなのをつかめた」
という場合には、
それがホームランであろうが
ヒットであろうが内野ゴロであろうが、
オッケーなんですか?
イチロー ぼくの場合は、打つ感覚を
つかむ大きなポイントが
二回あったんですけど、
それはいずれも凡打です。

通常は、いい打撃をする、
ホームランを打つ、ヒットを打つ。
そういうことによって、
「あ、自分はこれで大丈夫だ」
と思うらしいんです。

ぼくもそうしてきたんですけど、
その感覚って、続かないんです。

長く続くもの、強いものというのは、
「凡打をして、
 その凡打の理由がわかったとき」
なんですね。


こういう体の動きをしてしまったから、
こうなったんだ。
そういう答えが見えたときは、
かなり強い感覚ではないかと思っています。
糸井 そういう、自分の体の動きの判定って、
どこで、いつしているんですか?
イチロー 一度目は、打って、
一塁に走ってくときです。

こう……逆戻しをするんですね、
頭の中で。
自分の打った感覚を逆戻しすると、
そのポイントが見えてくる。
大きなポイントのうちの一つは、
そうやって見えたものです。

そのときは、二割三分とかそんなんで、
ゲームの前には、
仰木監督に呼ばれて
野球教室をされたんですよ。
いくら仰木監督であったとしても、
選手にとって、
技術的な指導というのは、
「屈辱」ですよね。
糸井 ええ。
イチロー その凡打は、
四打数ノーヒットでむかえた
第五打席目、でした。
セカンドゴロ。

一塁に走っていく途中に
感覚がつかめていたもんだから、
ベンチに帰る途中、
ぼくはニタニタ笑ってるわけですよ。
それ見て、監督が怒った。

ぼくは、「おそらくこれだろう」という
答えが見つかったから、
うれしかったんですね。
次からはもう大丈夫だ、
明日からは大丈夫だ、と。

でも監督は、それは、怒りますよね。
「二割三分で笑ってんな」
ってなもんでしょう。

その次の日は、実は、
ともだちの結婚式でした。
名古屋のともだちが、その日ならば、
ぼくが出席できるからということで、
その日にしてくれていたんですね。
だけど監督に「練習しろ!」
って言われて……
ついに、結婚式に、
出られなかったんですよ。
千葉に行って、練習して。
糸井 (笑)笑ったのが原因だった。
イチロー それもあったでしょうね。

当時、三割五分打っていたら、
自動的に「好きなようにしろ」
ってなるんですけど。
二割三分じゃ、ものが言えないです。

野球だけじゃなくて、
実力の世界、勝負の世界っていうのは
みんなそうでしょうけど、
結果を出さないと
ものを言えない世界ですから。
そのときはもう、
何にも言えないんですよね。
  (明日に、つづきます!)

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2004-03-31-WED


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