糸井 飯島さんは、
不味くつくれなくなってるんだろうね。
もう体と心がね。
ばなな まずいものを人に食べさせられないですよね。
飯島 やっぱり、ほんとに、
おいしいって言ってもらいたいです。
見た目だけじゃなくて。
糸井 それはね、広告屋としてわかる。
ばなな ああー。
糸井 作家は、おんなじバッティングするんだよ、いつも。
好きなようにしかやらないんだよ。
ばなな うんうん。
糸井 でも、広告屋って
予算があったり、条件があったり。
ばなな そうそうそうそう。
糸井 もっと言うと、
フォアボールでいいですっていう、
仕事の頼まれ方だってあるんだよ。
ばなな うんうん。
糸井 それは、
それはそれでやんなきゃならないんだろうけど、
「ホームランって頼んでよー」って思うわけ。
「ただヒットでいいんですよね」
とかって言われるとね、
バッティングが崩れるんだよ。
飯島 そうですよね。
だって「ヒットでよい」ってその人が言っても、
もしそれが自分の名前で出ちゃったら、
それを「ヒットでいいって発注しました」
って言ってくれるんですかと。
『LIFE』は、もう、自分のものなので、
ほんとにもう徹底的にやりました。
糸井 そうだよね。
糸井 いや、ほんとほんと。
ばなな 飯島さんは言ってることの一個一個が
ほんとに男らしいんですよ。
糸井 ふふふふ。
ばなな 普通やっぱりね、
誰々さんの味もいいですね、
こっちもいいですね、
食べ物って、みーんなおいしいですよ、
みたいなこと言うじゃないですか。
そういうのが、いっこもないもん。
すごいなと思って。
糸井 ないね。
軸がぶれない。
ばなな 己がはっきりしてて、
そこが味に出てると思う。
糸井 たぶん、調査してるのも、
活きてるんですよね。
「わたしのおいしさはこれだから、
 これで守ります」じゃなくて。
ばなな (しみじみと)おいしい‥‥。
たけのこごはんも食べよう。
糸井 飯島さん、このロールキャベツは、
けっこう調査をしたタイプの
ごはんでしょ。
飯島 調査しました。
ハンバーグも、目標とするハンバーグがあって、
その食感に近づけようと思ったんです。
糸井 ほう。
飯島 プリンもそうです。
目標があるんです。
糸井 飯島さんを、
さっき「男らしい」って言ったけど、
ナンパ師らしいところがあって。
もてる人のやりかたなんだと思うんだけど、
いつも、盛りつけられた分量で、
足りない感じを与えるんですよ。
「次ちょっと食べていい?」って言わせる、
味付けだったり、量だったり。
ばなな それ、料理のすべてかもしれない。
糸井 料理人同士だったら、
「あいつは、あの辺が上手だよね、
 ものすごくずるいなぁ(笑)」
って言われるようなこと。
ばなな 隙は、ないですね。
ここから切り込めば、切り崩せるんじゃ?
っていうの、ないですよね。
そこがまた男らしい。
糸井 やっぱり、他人に食べさせてきたからなんですよね。
自分が食べておいしい、っていう以上に。
ただの食いしん坊じゃつくれないんだろうね。
ばなな うん。
飯島 ごはんは大丈夫ですか?
糸井 うん。
ばなな おいしいです。
コツコツ食べていきますよ。
飯島 あと、今日は蒸しプリンもありますからねー。
(と、キッチンに戻る)
糸井 え、虫が入ってるの?!
ばなな はははは。
糸井 ‥‥飯島さん、聞いてない。
ばなな はははは。
でも、わたし、この本は
編集もすごいと思う。
糸井 ありがとうございます。
あ、これまた、
全然本人聞いてない(笑)。
(編集チームに向かって)
いま一所懸命褒めてたのに。
ほぼ日 えっ、はふ(頬張っている)、
ごめんなさい、いま、
ロールキャベツが、おいしくて。
ばなな 飯島さんと、競い合ったんだと思いますよ。
飯島さんの「これでもか」みたいなところと。
糸井 餅つきで言えば、
相の手が激しかったんでしょうね。
校正の段階で、複数回見て、直してたし、
飯島さんも、最後まで、分量やプロセスを
まだ直してた。
飯島 すみません‥‥。
ほぼ日 いやいや、いいんです。
糸井 タイにロケに行っているときも、
アシスタントの板井さんに電話して、
東京で何度も作り直しをしながら
確認をしていたんだよね。
ほぼ日 夜中に、校正をもらいに来ると、
板井さんが国際電話をしながら、
後ろでぐつぐつ、調理実験をしているんです。
これから校正をもらうはずの料理を、
何度も、つくってるんです。
糸井 すごいだろう。
飯島 これは、もう一生の宝物になる本だから、
絶対にまちがえないように確認しようと。
糸井 それをやったっていう経験はすごいよね。
それはいい仕事だなぁ。
うちの会社も、おもしろかったんですよ。
みんなで手分けして、
このレシピ通りにつくってみるという
校正をしたんです。
ばなな うんうん。
糸井 普段料理しない人ばっかりじゃない?
ゆーないとさんまでもが、
おはぎをつくったんだよね。
そしたら「うまかった」って言うから
「ほんとかよ」。
ま、信用してないわけですよ、
つくり手のゆーないとさんを、ぼくが。
しかも、週末だったかなんかで、
翌々日に持ってきて、
オレに食べさせようとした。
ばなな はははは。
糸井 「それはいらない!」って、
自分でもレシピ通りにつくってみたの。
「あ、これならあいつでもできる」
って思いました。
おはぎ、びっくりした。
「なんでこんなに簡単なの」
って思った。
ばなな うんうんうん。
しかもおいしくできるっていう。
ナポリタンを、いったん麺をのばす、
っていうのもすごいですよね。
糸井 あれ、すごいよね。
ばなな こんなこと書いてある本、
たぶんこの世にないと思う。
糸井 「そのおいしさってあるんだよ」
って、飯島さんは知ってるんだよね。
世の中がアルデンテの話をしているときに、
「のばす」だもの。
ばなな あとマッシュルームは缶で、って。
なかなかできることじゃない。
やっぱり、なんかちがうんですよね。
飯島さんって不思議なかただと思いますよ。
そこに、編集の手が重なったことで
いい本になったんだと思う。
糸井 小説でこんな担当されることはないもんね。
最初に本をつくろうって思ったときの
「うわー、つくりたいね」
って思ったときの気分を
磨き込んでいったんです。
動機を。
そんなことってあんまりないんですよ。
動機って減っていくもんなんですけど、
この本は、動機を増やしていったんです。


(「男らしい」と言われてるの、
 現場で飯島さん、聞いてないかも‥‥
 どんなふうに思われるんでしょ。
 それにしても糸井重里は
 これだけ喋ってて、
 よくあれだけ食べられるなぁ。
 つづきます!)

2009-05-25-MON


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN