(2) 言葉が更新されていく
糸井
ふと思ったんですが、松本人志さんとかならきっと、
まったく新しい言葉をつくることも
やっているかもしれませんね。
以前、「ニョロ」っていうのを
語尾に付けていた時代がありました。
「◯◯したニョロ」とかコントにもしていたな。
あの「ニョロ」のもとはおそらく、
ムーミンの中に出てくる「ニョロニョロ」かと。
飯間
はあー。
糸井
従来の言葉から持ってきて、
言葉を更新していくことについて、
松本人志さんはお笑いの感覚として、
なんやかんや言いながらも、
なにかを持ってきているなと思ったんです。
飯間
ムーミンから持ってくるのは
新しいと思います。
糸井
そうですね。
だから、お笑いの俺としては、
普通は持ってこられないところから
持ってこよう、みたいな。
飯間
もしかすると、そういった
試行錯誤があるのかもしれないですね。
糸井
でも、それは最初から
他人がついてこない場所ですよね。
そして、ついてこないから、
お笑い芸人として商売になっているわけで。
飯間
独特の世界で仕事をされていますね。
でも、そういった人は
新しい表現をたくさんつくりますよね。
松本さんがつくった、あるいは広めたと
言われている言葉はたくさんありましてね、
例えば、「キレる」「(ギャグが)寒い」
それから「オカン」っていう言葉。
もちろん関西では「お母さん」の
意味で使われていたんですが。
糸井
テレビであんなに言うことで。
飯間
「オカン、オカン」と言って広めたんですね。
あとですね、六本木のことを
「ギロッポン」と言いますけど、
少なくとも、今の人たちに広めたのは
松本さんだと思うんです。
糸井
揶揄的に言ったんでしょうかね。
飯間
私、印象深く覚えているテレビ番組がありましてね。
1996年放送の「ダウンタウンDXDX」の中で、
「ぎ」のつく言葉をみんなで言うことになった。
松本さんが自分の番になって、答えに窮したのか、
「六本木を『ギロッポン』と言う」と‥‥。
そしたら、スタジオの周りにいた人が爆笑して、
「ギロッポン、言わないよー」って言うんですね。
「普通、ポンギだよ」って。
昔は、「ポンギ」と略していたので
「ポンギとは言うけど、ギロッポン? ないない」
周りの人たちが笑って言うんです。
松本さんは「ギロッポン、言うやん!」って。
糸井
怖い顔して(笑)。
飯間
でも、それはギャグにしか取られなかった。
ところが今ではみんな、
「ギロッポン」と言って通じるんです。
ひとつの可能性として、
上と下をひっくり返す遊びがありますね。
渋谷を「ヤーシブ」、上野が「ノガミ」。
糸井
ジャズマンが言っていたんですよね。
飯間
そう、「ズージャ」とかですね。
それらと同じように、六本木を「ギロッポン」と
わざと言ったのが広まったという可能性が一つ。
もう一つは、松本さんの周辺で、
「ギロッポン」って言う人がいたんだけど、
それはまだ広まっていなかった。
そこで松本さんが「ギロッポン、おもろいな」
と思ってテレビで言ってみたら、
みんなに理解されなくて笑われた、そのどちらかです。
糸井
たぶん、周りで言っていた人が
いたんじゃないかなと思います。
松本さんにしてみれば
「それは、あんまりやろ」というのがあって。
たとえば、テレビのディレクターの役を演じるときに、
わざとセーターを肩に掛けたりするのと同じで、
言葉っていうのは、ある人たちの装いなので、
六本木を「ギロッポン」とまで
言っちゃうのがカッコイイ、
という勇み足をするものなんです。
松本さんは関西から来ている人なので、
「そこまでやるか?」っていう勇み足を、
ちょっと揶揄的に言ったんじゃないかなあ。
飯間
ああ、注意を引かれたということですね。
「『ギロッポン』なんて言うてるやつがおるやん」と。
テレビで言ったら、まだ知られていなかったので、
松ちゃんがふざけて言っているんだと
思われたのかもしれませんね。
糸井
そうかもしれないですね。
僕も、ジャズの人たちとの付き合いの中で、
逆さ言葉の法則を言っていたことがありますよ。
ジャズマンたちは、どんどん更新していくんです。
飯間
ルールが変わってくるんですね。
糸井
はい、ルールが整備されてくるんです。
例えば、ジャズの「ズージャ」とかは簡単ですよね。
それなら「耳」はどうするんだ、となるんですね。
飯間
耳(みみ)は、ひっくり返しても
耳(みみ)だから。
糸井
そうなんです。
遊んでいる人どうしが、一所懸命考えるんですよ。
「耳は?」と訊くと、「ミーミだよ」って言うんです。
飯間
「ミーミ」になる。
糸井
同じじゃないか、と言ってもダメなんですよ。
「同じじゃないよ。だって、下の『ミ』を
 上に持ってきたんだから、『ミーミ』だよ」って。
飯間
言葉に色が付いていればわかるんですけどね。
糸井
そうですね。
彼らは音楽の人ですから、
「ド・ド」ってつながってるときに、
後のドの弾き方で前に持ってきたんだから、
というのと同じなんですね。
さらに、もっとすごいのがあって、
1文字っていうのがあるんですよ。
つまり、「目」なんですが、
これはリエゾンみたいな言葉を足すんですね。
飯間
あ、それは知ってます。「エーメ」ですよね。
糸井
知ってましたか、「エーメ」。
「ミーミ」もすごいけど、「エーメ」もすごい。
この辺りになると、破綻するのも楽しむんですね。
あと、「テンキャプで飯を食う」っていうんですよ、
さあ、これはわかりますか。
飯間
テンキャプ。
ええ‥‥、逆さにしてキャプテンですね。
キャプテンとは、船長。
それで、ご飯を食べるわけでしょう?
糸井
すごくセンスがいいです。
船長をもう一度逆さ言葉にしたら、朝鮮。
飯間
ああ、朝鮮ですか。
糸井
焼き肉を食べに行くときに、
昔は、朝鮮料理屋さんだったんですね。
だから、「テンキャプ」。
飯間
ああ、朝鮮が船長、船長はキャプテン、
キャプテンはテンキャプ。
これはわからないですね。
糸井
わからないです。
でも、彼らが決めたことだからそれでよくて、
「破綻しているじゃないか」というところを、
苦し紛れにやっているのがおもしろい。
飯間
ジャズのアドリブなんでしょうね。
糸井
アドリブなんだと思いますね。
あとは、「くりびつてんぎょう」っていうのも、
おもしろいから流行っちゃったけど。
飯間
「くりびつてんぎょう」、
「いたおどろ」とかですね。
糸井
そうですね。
言葉を音で楽しむことで重要だと思うのは
「苦し紛れが一番おもしろい」っていう、
そのセンスのような気がするんですよね。
(つづきます)
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2017-01-12-THU