縦3メートル、横4メートルもの大画面を、
先端1ミリ以下のペン先で埋める。
それも「3年3ヶ月」という時間をかけて。
東日本大震災をモチーフにした、
「超絶技巧」による、巨大な細密画。
‥‥と書くと、すごみや威圧感ばかりを
感じてしまいそうですが、
その実、画面には明るさが満ちています。
一大建築物みたいな「誕生」を描いた
池田学さんに話をうかがいました。
現在は金沢21世紀美術館で、秋には東京で。
ぜひ遠くから、近くから、見てほしいです。
担当は「ほぼ日」奥野です。
Profile池田学さんについて。
- ──
- 池田さんのキャリアを振り返ったとき、
作品の「サイズ」って、
だんだん大きくなっていったんですか?
- 池田
- いえ、いきなり大きいのから、でした。
- 「でっかいキャンバスに、
アドリブで、細かく描いてくのって、
めちゃくちゃ楽しい!」
というところが、スタートでしたから。
- ──
- じゃ、これからも大きな絵を描きたい。
- 池田
- 描きたいです。
- ──
- 大きな画面に細かく描くことの、
お手本みたいな人って、いるんですか?
- 池田
- んー‥‥わからないです。
- ──
- 絵画の歴史を紐解いたときに。
- 池田
- ぼく、絵を描くのは好きなんですけど、
美術史とかには、
そんなに興味がないっていうか。
- よく知らないんです‥‥正直なところ。
- ──
- へぇ‥‥好きな絵とかは?
- 池田
- それは、まあ、もちろんありますけど、
パッとは出てこない‥‥
最近は、北斎とか円山応挙とか、
あるいはピカソとか、
すごくおもしろいなって思ってますが。
- ぜんぶがぜんぶ、じゃないんですけど。
- ──
- けっこう「そのときどき」な感じ?
- 池田
- そうですね。
- ──
- たとえば、ピカソなんかは、
細かく描くような作家じゃないと思いますが、
どういうところがいいなあと?
- 池田
- 色彩や着想、アイデアですね。
むしろ細かい絵はあんま見たくないです。
- ──
- あ、そうですか(笑)。
- 池田
- よく人から
「バベルの塔のブリューゲルや、
ボッシュの影響を受けてるんですか?」
と聞かれることがあって、
今度それについての取材もあるんですが‥‥
じつのところ、
「ブリューゲルって‥‥どんな絵だっけ」
みたいな‥‥あ、すみません。
- ──
- いえいえ、謝らなくても(笑)。
- ちなみにですけど、
現在の絵や作風と関係あるのかどうか‥‥
池田さんって、
以前「法廷画家」だったと聞きました。
- 池田
- ええ、やってました。
- ただ単純に技術を提供する仕事なので、
今の作品とは関係ないですけど。
- ──
- どのような経緯で、法廷画家に?
- 池田
- 1995年にサリン事件が起きましたけど、
あのとき、
たくさん裁判がはじまるってことで、
朝日新聞の人が藝大に来て、
声をかけられたのが、きっかけです。
- ──
- 大量に「法廷画家」が必要になった。
- 池田
- そうみたい。10年やってました。
- ──
- あのお仕事、コツってあるんですか?
- 池田
- コツ‥‥まあ、いちばん重要なことは
「締切に間に合わせること」です。
- デッサンの基礎は必要ですけど、
それよりも
短い時間で締切までに描くことが重要。
- ──
- それって、つまりバイトですよね?
- 池田
- そうですよ。
- ──
- そうやって、裁判所に通って絵を描いて、
お金を稼ぎながら、
「大きな画面に細かい絵を描く」ことを、
続けてらっしゃった?
- 池田
- そう、狭苦しいアパートで。
- ──
- このことは、いつも聞きたいなと思って
躊躇したりするんですが、
池田さんは
聞きやすそうなので聞くのですが(笑)、
そういうときって、
やはり、お金的には厳しいわけですよね。
- 池田
- 厳しいです。
- ──
- その状態から、
「あ、俺、絵一本でやっていけるんだ!」
となるのは、どういう瞬間なんですか?
- 池田
- 他の人の場合は、わからないんですけど、
ぼくの場合は、
実際やっていける、やっていけないより‥‥
ま、やっていけない状態のときに、
「絵一本で行くんだ」って決めたんです。
- ──
- なるほど。先に一歩踏み出したんですね。
- でも、そこから今や、こうして、
こんな大きな美術館で個展を開くように。
- 池田
- 本当に名誉で、幸せなことだと思います。
- こうして興味を持っていただけることも、
みなさんに、
自分の描いた絵を見ていただけることも。
- ──
- この金沢21世紀美術館の前は、
地元の佐賀で展覧会をされていましたが、
自分が日本で有名になっていくのって、
アメリカに住んでいても、わかりますか?
- 池田
- いやあ、わかんないです‥‥ぜんぜん。
- あっちでは、ただの無名の日本人として
静かに絵を描いている毎日なので、
少し前に地元に帰ったときは、
みんなが自分を知っていて、驚きました。
- ──
- 佐賀県立美術館では
2ヶ月の会期で9万5千人以上という、
最多記録を樹立されたそうですし、
昨年の暮れには、
NHKでドキュメンタリー番組なんかも
放映されてましたし。
- 池田
- うれしかったですけど、
同時に、戸惑いはけっこうありましたね。
- ──
- じつは今日、池田さんのキャラクターが、
ちょっと意外だったんです。
- 池田
- あ、絵から受ける感じとはちがうねって、
よく言われます。
- ──
- あ、ほんとですか(笑)。
- 池田
- うん、神経質で気難しい人じゃないかと、
思われてるみたいで(笑)。
- ──
- でも、やはり、こうしてお話してみると、
実際ものすごい作品だけど、
画面ににじみ出ている「あかるさ」は、
ああ、この人が描いた絵なんだなあって、
妙に納得しました。
- 池田
- よかったです。誤解が解けて(笑)。
- ──
- 次回作の構想は?
- 池田
- まだ、ないですね。具体的には、何も。
- 日本での展覧会が一段落したら、
だんだん決まっていくんじゃないかな。
- ──
- それは、キャンバスの大きさから。
- 池田
- そうですね。画面の大きさによって、
完成までのスケジュールも決まって。
- ──
- もっともっと大きな絵を描きたいって、
思ったりするんですか。
- 池田
- 思いますねえ‥‥それは、やっぱりね。
- たとえば、こういう壁を見ると、
「ここ全面、自分の絵で埋められたら
すごいだろうなあ」って。
- ──
- ここ‥‥何年かかるでしょうね。
- 池田
- さあ、何年‥‥20年とか?(笑)
誕生
2013-2016
紙にペン、インク、透明水彩
300×400cm
photography by Eric Tadsen for Chazen Museum of Art
©️IKEDA Manabu
Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo / Singapore
池田学さんの展覧会、
金沢21世紀美術館で開催してます。
画集『The Pen』も発売中。
3年3ヶ月もの時間をかけて、
縦3メートル、横4メートルの大画面を、
先端1ミリ以下のペンで埋めた大作
「誕生」をはじめ、
池田さんの画業20年の全貌がひろがる展覧会
『池田学展 The Pen ー凝縮の宇宙ー』が
金沢21世紀美術館で開催中です。
会期は7月9日(日)まで。
青幻舎から刊行されている同名の画集も、
たいへんすばらしいのですが、
機会があったらぜひ、
実際に見ていただきたいなと思いました。
下から見上げたときの壮大さ、
間近で凝視したときの緻密さ。
やっぱり実物の迫力は、すごかったです。
秋には東京にも巡回するみたいですよ。
(日本橋高島屋で9月27日~10月9日)
池田学さん展覧会情報!
(2017年8月2日 追記)
東京・市ヶ谷のミズマアートギャラリーで
大作『誕生』を中心にした展覧会を開催中
(2017年9月9日まで)。
また、佐賀・金沢で開催した巡回展
『池田学展 The Pen -凝縮の宇宙-』も
東京・日本橋高島屋で開催されます
(2017年9月27日~10月9日)。
池田学展 The Pen ー凝縮の宇宙ー
- 会 場:
- 金沢21世紀美術館 展示室1~6
- 会 期:
- 2017年7月9日(日)まで ※終了しました
- 時 間:
- 10時~18時(金・土曜は20時まで)
- 電 話:
- 076-220-2800
※入場料金など詳しくは
展覧会の公式サイトでご確認ください。
池田学『The Pen』(青幻舎刊)
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