青山学院大学が箱根駅伝を面白くする(かも)。
青山学院大学とわたし

箱根駅伝好きの私が、
「駅伝がマラソンをダメにした」
を光文社新書から上梓したのは2005年のことです。
いま、振り返ってみてもセンセーショナルなタイトルです。
たしか、担当の編集者の方が付けてくれたと記憶していますが、
「ああ、おそらく陸上長距離界の取材をすることはないだろうな」
と思いました。
だって、タイトルだけ見たら、
現場の人が怒っても不思議はありませんから。
この本は、現場の取材はまったくしないという条件の下、
欧米でよくある
「アームチェア・ディテクティブ」、
つまりは安楽椅子に座って推理し、
批評をするというスタイルをとりました。
面白いもので、amazon.co.jpの読者の批評欄に
「取材不足」
と書かれていて、思わず失笑してしまいました。
だって、そう書いてあるじゃん……と思って。

不思議なもので、この本を書いたおかげで、
『陸上競技マガジン』から仕事をいただくことになり、
現場に足を運びながら、
監督、選手たちの声を聞くようになりました。
その過程で生まれてきたのが、
「監督と大学駅伝」(日刊スポーツ新聞出版社)です。

前回も書きましたが、
順天堂大の今井正人選手、
東洋大の柏原竜二選手が出現するに及んで、
箱根駅伝の「市場」が大きくなったように思います。
ナイキからは各大学モデルのシューズが発売されるようになったり、
箱根に旅行に行くと、
コンビニで大学名を冠したビールが売られています。
その余波もあって、
私は2011年に幻冬舎新書から
「箱根駅伝」
を上梓しました。
主に区間配置など、戦略面に焦点を当て、
より広い形で箱根駅伝を楽しんで欲しいと思ったからです。

出版して間もなくすると、
twitterで本が話題になっていることに気づきました。
どうやら話題にしてくれているのが、
青山学院大学の選手たちのようなのです。
この「箱根駅伝」で、
明治大学と青山学院大学が将来有望、
ということを私は書きました。
中には、こんなことも……。
「監督がいうには、80%は正しいことが書いてある」
思わず、笑ってしまいました。
だったら、残りの20%をどうしたらいいのか、
箱根駅伝が終わったら聞いてみよう、
そう思っていたのです。
部員のみなさんとはtwitter相互フォローすることになり、
そうした関係を築けるのは、
SNS時代には、取材者と選手たちの
関係性もずいぶんと変わるものだな、
と実感することになりました。

そして2012年の箱根駅伝。
青山学院大学は部の歴史上、
最高順位となる5位に入りました。
原晋(はらすすむ)監督の指導が実り、
地道に練習を積み重ねてきた
選手たちが実力を発揮し出しました。
それに2012年4月には、
久保田和真(九州学院)、小椋裕介(札幌山の手)といった
有望な新人が入っていることもあって、
ますます楽しみなチームになりそうな予感がしました。


私が青山学院大学の面々が面白いな、と思ったのには、
理由があります。
監督、選手たちに「言葉」があるからです。
だいたい、陸上長距離の関係者たちは
話が面白いというのが相場です。
とにかく、みなさん話が上手。
聞いていても楽しくなってくる。
その筆頭が瀬古利彦さんだったりするのですが……。

青山学院大学では、
原晋(はらすすむ)監督が独特の言葉を持っています。
原監督の経歴は箱根駅伝の強化に
たずさわる監督さんとしては異色で、
広島の世羅高校を卒業してから、
中京大学に進みました。
まだ、箱根駅伝の全国中継が行われていない時代の話です。
そして中国電力で現役生活、
そして会社員の生活を送った後、
2004年から青山学院大の監督に就任しました。


原普監督

原監督の特徴は、
箱根駅伝に過度な思い入れがない……ことでしょうか。
こんなことを書いてしまうと、
原監督自身から怒られるかもしれませんが、
常に監督がいうのは、
「青山学院らしい、表現力豊かな走り、
 青山学院らしい、個性豊かな人間に
 なってほしいということです」
ということです。
もちろん、競技である以上、勝敗は大切。
しかし、それと同時に学生スポーツでもある。
だからこそ、社会に出ても有為な人材を
育てる役割を大学の体育会は担っている
と原監督は考えているようです。

それに呼応するように、
学生たちも言葉をしっかりと持っています。
2012年12月12日に行われた
16人の箱根登録選手たちの記者会見。
これまで、こうした形での合同会見を
開くのは大学陸上界では珍しかったのですが、
学生主導の運営で、
「青学として新たなチャレンジ」
と唱っているところが、いかにも青学らしい感じがしました。
会見場でびっくりしたのは、
部長、監督が話した後、
てっきり監督が16人の選手を紹介するのかと思ったら、
自己紹介【注釈】になってしまったことです。
これは珍しい。
4年生から始まり、3年、2年へと移っていき、
驚いたのは1年生がしっかりと自分の言葉で話せること。
もともと、原監督がそうした選手を
リクルーティングしているのでしょうが、
そればかりではないでしょう。
きっと、部の風土として、
自分を表現していくということが
確立しているのだと、確信しました。

いちばんびっくりしたのは、
4年生の橋本主務【注釈】が会見の席で、
箱根駅伝に向けての気持ちを歌にして、
一首詠んだことです。
大伴家持の歌を本歌取りしたもので、
正確に聞きとることはできませんでしたが、
こうしたことが認められている風土は、
大学の陸上部、いや、体育会に枠を広げても
なかなか見当たりません。
そんな主務のことを、
原監督は12月10日の全大学の合同記者会見で、
「ナルシストの主務」
と言い切ってしまうのですから、
なんとなく部の雰囲気がわかっていただけるでしょう。


「ナルシストの主務」こと橋本直也さん

さて、2013年の箱根駅伝。
青山学院大学は優勝を狙える位置で、
本戦へと臨みます。
優勝候補は、東洋大学と駒澤大学の2校ですが、
出雲駅伝で優勝した青山学院大学にも流れによっては
チャンスがあるというのが私の見方です。
ですが、このシーズンも決して平坦ではなかった。
彼らがどのような一年を経て、
箱根駅伝に挑むのか
次回はそのことについて書いてみたいと思います。

2012-12-31-MON
 
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