その5 「知らない」を「笑う」
───小豆島の平林有里子さんと対談編(2)

糸井
どうしたって、高齢者が狙われる‥‥。
容赦ないですね。
yuriさん
もう、ほんとうに容赦ない。
さらに容赦がないと思うのは、
これまで振り込ませる商売だったものが、
今は、取りに来ることもあるんです。
糸井
あぁ‥‥。
yuriさん
小豆島まで来たケースもあります。
直接、家に取りに来る。
振り込みだったら
金融機関に記録が残るので、
たとえば弁護士さんが動くこともできます。
糸井
記録が証拠になりますよね。
yuriさん
でも、取りに来られてしまうと‥‥。
実際、わたしのところにも
「取りに来た」というご相談がありました。
「渡してしまった」と。
それで、
その人がおいていった名刺に電話をかけました。
すると‥‥
「それは、そいつが勝手にやったことでしょう」
糸井
あぁ‥‥なるほどね。なるほどなぁ。
yuriさん
「そいつ、いま会社にいないんですよ。
 連絡がつかなくてうちも困ってるんだ」って。
糸井
ものすごく原始的だけれども、
そのやり方はたしかに効率がいいですよね。
yuriさん
はい。
糸井
そのテレビドラマみたいな組織を潰すことは、
消費生活センターの相談員さんには
むずかしいことですよね。
yuriさん
それはできません。
糸井
うーーーん‥‥
どうすればいいんだろう‥‥。
yuriさん
あの‥‥
わたし、ここに来る前に
何をお伝えしたらいいのか
いろいろ考えたんです‥‥。
やっぱりみなさんは、
「どうしたら地方でだまされにくくなるか」とか、
「自分の親が被害にあわない方法」を、
たぶん求めていらっしゃると思うんです。
糸井
まさしくそうです。
どうすれば、だまされないんでしょう。
yuriさん
でも、あの‥‥
人はだまされるものだと、
そう思っているほうが
いいのかもしれません。
糸井
‥‥‥‥なるほど。
それは、ものすごくよくわかる気がする。
yuriさん
高齢者にかぎらず、
だれだってだまされる可能性はあります。
「ぜったいだまされない」と思ってる人って、
だまされた人を、笑うんですよ。
糸井
うん。
yuriさん
ですから、なんというか‥‥
だまされる人を笑う社会が、
だまされる人を作っている。

そんな気がするんです。
たとえば、
「サクラサイト商法」っていうのがあるんですね。
糸井
ありますね。
yuriさん
芸能人から、
「相談にのってください」というメールが届く。
「まぁ、まさかな」と思いながら、
なんとなく返事を出してみる。
すると「実は悩んでいて‥‥」と返ってくる。
え? まさかほんとに? と思ってると、
「できたらここでやりとりしてもらえませんか?」
って案内されるサイトが、
いわゆる出会い系サイトなんですね。
糸井
そこで課金される。
yuriさん
ええ。
悩みをいろいろ言われるから
親身になって聞いていたら、
何十万円という請求が届いた。
‥‥これ、みなさん、笑うんです。
「芸能人からメールくるわけないだろ」って。
ネタにされるんですよ。
糸井
笑われるでしょうね。
だけど、たとえば、
ほんとうに心が弱ってるときに、
「うそかもしれないけど話を聞いてくれる」
っていうところからはじまったなら、
それ、入っていくと思いますよ。
「俺はそんなの入っていくわけない」
と言う人も、実はギリギリだと思う。
yuriさん
わたしも正直、
「なんでだろう?」って思ってたんです。
そんなメールがくるわけないのにと。
でも実際に、相談者さんから
やりとりのメール見せていただいて、
ああ‥‥これは、と思いました。
巧妙なんです。
糸井
人の弱いところっていうのを、
ほんとによく理解してますよね。
yuriさん
ええ。
糸井
ネットでいうと、
ぼくはあれですよ、すごいのがありました。
なんか、クリックしてたどっていったら、
アダルトサイトみたいなところから、
「あなた、いっぱいお金を払わなきゃならないです。
 払わないとこの画面は消えません」
みたいなのが、ばーんと出ちゃった。
yuriさん
アダルトサイト。
糸井
ヌードとかそういうんじゃなかったんです。
知ってる有名人のスキャンダルがあった。
yuriさん
ああー、はい。
糸井
「えっ? そんなことがあったの?」
ちょっとくわしく読みたいって、
いくつか進んでいったら‥‥ばーん。
yuriさん
なるほど。
糸井
もう、ほんとに、嫌で嫌で。
これ、払っちゃったらいいのかなぁって。
yuriさん
考えますよね。
糸井
考えました。
でも結局は払わずに
放っておいたらなんでもなかったんですけど。
ばーんと出たやつも会社の人に消してもらったし。
でもねぇ‥‥
「もう払っちゃおうかな」っていうのは、
ぼくの中にあったひとつの
だまされるパターンなわけで‥‥。
いや、ありますよ、誰しも。
yuriさん
よくお話しをさせていただくんですが、
全国の消費生活センターに寄せられる相談で、
たぶんいちばん多いのが‥‥
糸井
アダルトサイトですか?
yuriさん
はい。
老若男女から相談があります。
小学生や中学生が、
かわいそうなくらい悩んでしまうこともあります。
やっぱり、そういうことへの興味っていうのは
インターネットが普及した
ひとつの大きな理由だったわけですから、
たくさんの人に有効な手口になるんです。
糸井
‥‥「誰しもだまされる」ですよね。
人の弱さっていうのは、
自分を見てればよくわかります。
yuriさん
ええ。ですから、
だまされた人を
笑ってた人にこそ、
気をつけてほしいです。
糸井
「わたしに限って」
と言ってた人がその穴に落ちるっていうのは、
古典のようにあるわけですから。
あと、
「笑われたくないから泣き寝入りする」
っていうのが怖いですよね。
敵がどんどん、やりやすくなる。
yuriさん
‥‥なんで、なんで笑うんでしょう。
糸井
そのベースにあるのって、
つまんない「知識偏重主義」みたいなものなのかも。
たとえば、
たまたま自分は教育を重んじる家に生まれて、
勉強をする機会があったから、
ある種の知的なことに触れて育ってきた。
「だからそういう人がいちばん偉い!」みたいな。
そうじゃない人は、
山ほどいるわけですよ。
親も勉強してないし、
子どもも同じように勉強しないで育ったけど、
「いい家族」をつくっている人は山ほどいます。
それを「無知だ」とか、「無教養だ」とか、
「そんなことも知らないのか」
っていうような流れが、
こう、ぼくは、なんというか‥‥
今の世の中の
大きなだめなところだと思ってるんです。

で、そのことと、
さっきのyuriさんの話は、
とても近いところにあるような気がして。
yuriさん
はい、はい。
糸井
やっぱり、「笑う」ですよね。
「知らない」を「笑う」。
yuriさん
怖い。
糸井
怖いですね。
(つづきます)
2013-12-03-TUE

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