ほぼ日 今回、「ほぼ日」では、インドラさんに、
「くびまき」をつくるにあたって、
すばらしい工房を紹介していただきました。
これまで見たことがない、
はじめてのさわりごこちに思える、
やわらかなカシミアのストールです。
これをつくってくださったのが
「ヤラ」といって、
まさしくこの町のネワール語で冠した工房。
彼らのことを、インドラさんから
紹介していただけますか。
どんな仲間なのでしょう。
インドラさんはそういう仲間が多いんですよね。

インドラ そうですね、いろんなことをしている仲間がいます。
それぞれ役目分担があるじゃないですか。
この国で商売やってる人って、
何でもやりたがりな人が多いんです。
僕はどっちかって言うと、そうじゃなくて、
僕がやることは僕がやって、
あそこでやることはあそこでやって、
お互いにヘルプし合って、
いいものを伝えて紹介していくという感じなんです。
ヤラの社長はプラヴィンという友人なんです。
彼が仕事を始めた頃、アクセサリー作りを
僕が手伝ってました。
そのとき、ビジネスのパートナーに
なってほしいと言われたけど、
僕、会社を一緒に作るとか、
一緒に商売していくとか、そういうの向かないんです。
だからその道は断ったんだけど、
お互い信頼できる仲間です。
ほぼ日 プラヴィンさんとともに、
ガブリエラさんという、
ロンドンから来たイタリア人女性が、
いっしょに「ヤラ」を切り盛りしていますね。

ヤラ(YALA)
ラリトプルを拠点にし、ハンドクラフトをコンセプトに
代表のプラヴィン氏を中心に、さまざまな工房をもち、
伝統的な技術にあたらしい試みを加えた商品の発信をしている。
なかでもカシミアの織物工房は、
いまでも古くから使われる織機を使い、
手織りで、風合いのすばらしいものをつくりだしている。

インドラ カブリエラはネパールの織物を
とても気に入って、
ネパールに来たんです。
彼女は自分のことを
ネパール人だと思ってるぐらいです。
ロンドンで高品質な手織りのカシミアストールを扱う
会社をもっているんですが、
プラヴィンとは以前からともだちでした。
ヤラで一緒に質の良いカシミアをはじめ、
いろいろな素材を使ってストールをつくるために
ネパールに来て、ラリトプルの住人になっています。
彼らの活躍もあって、ネパールは今、
一枚いちまい丁寧に手織りをする
ほんもののカシミア製品の
生産国のひとつになりました。
手織りの製品は、
ラリトプルの女性たち、
職人たちによって支えられています。
彼らの仕事の伝統の技を繋いでいくことも、
ガブリエラ、プラヴィン、そして僕にとっても
目的のひとつです。
ガブリエラの教えるヨーロッパの感覚や感性は、
ネパールの織物業にとても役に立っています。
ほぼ日 感性を伝えるとは‥‥?
インドラ たぶんもののデザインをすることの感性です。
糸の細さだったり、色だったり。
ネパールにも技術はあるし、頑張りもあるし、
習いたい人もいるんだけど、
ヨーロッパ的な「感性」がないんですよ。
織物にしても。絵にしても。
染色についても、なかなか工夫ができないでいました。
ほぼ日 ヨーロッパの。なるほど。

インドラ ネパールには自然由来の、
オーガニックの豆だったり、野菜だったり、草だったり、
そういう染めとかももちろんあるんですけど、
やっぱりこっちの人たちは、
伝統的なものにとらわれちゃってるというか、
そこから出られない。
あたらしいデザインをする力を
ほんとうはもっているのに、
たとえば木彫りなら、伝統的な木彫りだけを
代々やりつづけてしまっているんです。
そこから抜けようという感性が、
ほとんどないんです。
それは、ヨーロッパの人には、あるんです。
ほぼ日 そんなガブリエラさんとプラヴィンさんが
ビジネスパートナーになって、
ヨーロッパの感性とともに、
ラリトプルの技術を使って織物ができたと。
もともとカシミアっていうのは──。
インドラ ありますね。
すごく高い山の上に棲む
ヒマラヤ地域のカシミア山羊からとれる‥‥。
ほぼ日 今は、素材はモンゴルのほうから来るんでしたっけ。
インドラ ヒマラヤのカシミアヤギだけでは足りないので、
内モンゴルからも取り寄せているみたいです。
今回のストールは、紡績された一本いっぽんの糸を、
一定の長さや太さに整える作業から。
製品にするまでをラリトプルで行なっています。
ほぼ日 カシミアは日常的に使うものなんですか?
インドラ カシミアというのは、
元々は貴族や王族たちが使うものです。
そういう人たちの贈り物に使われたりするほど、
高価なものなんです。
ほぼ日 特別なもの。
インドラ カシミアよりもずっと高価な
「シャトゥーシュ」というものもあります。
ほぼ日 それはどういうものなんですか。
インドラ 「リングショール」とも呼ばれ、
指輪を通すほど薄くて軽く、
最高にあたたかい高級ストールです。
チベット高原の5000メートルの高地に棲む、
チルーと呼ばれる野生のチベットカモシカの
下毛だけを使います。
一枚のストールに3~5等分の毛が必要で、
高価で取引されたために乱獲・密猟されたため、
チルーが絶滅の危機に瀕し、
いまはワシントン条約に登録されて、
売買が完全に禁止されています。
有名な話は、ナポレオンの奥さんが
200枚だか300枚集めたというのが
歴史上に残ってるんですよ。
でも、それとカシミアって、
昔は同じレベルだったと思います。
ほぼ日 そういうものなんですね。
インドラ そういうものなんです。
ネパールでは、普段使うものではありません。
「生地、素材の王様」と言われてるんです。
ほぼ日 それが、それこそヨーロッパに渡ったり、
アメリカや日本に渡って、
高いけどいいものとして、
みんなが日常使いするようになった。
今回、僕らもこうやって。
インドラ そうですね。
ほぼ日 糸を紡ぐというのも、
今回、見学させていただきましたが、
完全に手作業のものから、
機械‥‥といっても、
手作業をすこしだけ助けてくれる
「手工業」的なものまでありました。
カシミアの手紡というのはやっぱり
そうとうな技術ですよね。

インドラ そうです、特別です。
あれができる人は少ないんですよ。
コストの面でも、どうしても高くなるし、
技術持ってる人がいても、
たとえばおばあちゃんたちは今、やらないんで。
それをプラヴィンやガブリエラが頑張って
技術を残そうと、やってるんですね。
ほぼ日 今回のくびまきは、手紡ぎではありませんが、
「機械」といっても、人の手が必要な、
繊細な作業が多いことに驚きました。

インドラ 何度も糸を巻き直し、最後はとても大きな
車輪を使って糸を準備します。
それから糸を織機にセット、
やっと織りはじめるわけですが、
この作業に半日くらい要します。
糸を準備すること(=織ごしらえ)は、
織ることと同じくらいとても重要な作業なんです。
だから、数、そんなにいっぱいは作れないですよね。
ほぼ日 時間がかかりますね。
インドラ カシミアではありませんけれど、
柄ものなどの生地によっては、1日ずっと織って
10センチぐらいの生地もありますよ。
ほぼ日 すごい。
インドラ 今回のものはたぶんもうちょっとできると思いますけれど。

ほぼ日 今回、そのカシミアのくびまきといっしょに、
インドラさんのコレクションである
アンティーク・ビーズを
分けていただいて、
一粒ずつ、販売したいというお願いをしました。
あれは──いつぐらいのものでしょう。
インドラ 3種類のベネチアンビーズは、
18~19世紀のものです。
そしてひとつだけローマンガラスがあって、
それは2000年ほど前のものです。
ローマからアフリカに輸出したビーズです。
ほぼ日 古代のものですね。
いまに伝わるまでの年数を考えると、気が遠くなりますね‥‥。
インドラ ヨーロッパやアメリカですごい人気ですよ、
このブルーローマンは。
ほぼ日 なんていうんでしょう、今回のカシミアにしても、
触れているとうれしい気持ちになったり、
ビーズにしても、なんだかたのしくなるような。
そういう気配があるというか‥‥。
インドラ 僕は、いい「気」を感じるものしか、
選ばないようにしています。
高くても安くても。
安いから買うとか、
高いから値切るとか、そういうのはない。
ものって何でも「気」があるじゃないですか。
ほぼ日 ああ、いいですね。
18~19世紀のベネチアンビーズにも、
それぞれものがたりがあるんですよね。
インドラ はい、花のデザインの
フィオーレヴェッテビーズは
四角になってるというのが珍しいですし、
ミルフィオリビーズは
高度な技術と豊かな色彩が特徴です。
アイビーズは
別名を「オッキオ」といい、
丸い模様に邪気を払う効果があるんです。
身に着けることによって
悪い気をはね返すと信じられています。
ほぼ日 面白いですね、ビーズ。
インドラ ほんとうに面白いです。
これからもいろんなものを
集めたり、つくったりしていきます。
ほぼ日 インドラさん、たのしみです。
ネパールの手工芸のこと、
アンティーク・ビーズのことが
いろいろ知れてよかったです。
今回は本当にありがとうございます。
インドラ こちらこそありがとうございます。
(おわります)

2013-12-09-MON

 

インドラさんのネットワークからうまれた
「ラリトプル・手織りのカシミア」のくびまきを
販売することになりました。
同時に、インドラさんのコレクションから
アンティーク・ビーズもならびます。
くわしい情報は「ほぼ日のくびまき」の
予告ページで、どうぞ。
写真 菅原一剛(モデル写真/商品写真) 武井義明(ネパール取材)
協力:株式会社シグマ(SD1 Merrill)/ストロベリーピクチャーズ/フルーヴ