第3回
ほぼ日クワガタ探検隊は、山梨県韮崎の森で採集した
コクワガタのつがい(オスとメスのペア)を
「ほぼ日」本社ビルに持ち帰った。
今、そのコクワガタを西田部が飼育している。
スズムシの飼育に実績のある西田部に預けておけば、
悪いようにはしないだろうという、とりあえずの考えだ。
実際、西田部はケースと
市販の飼育用マット、木片を購入して、
住処をつくり、果実をエサにして、
うまく生かしているようだ。
しかし、このまま漠然と飼育していて、
コクワガタを越冬させることができるのだろうか。
少年のころ、クワガタの飼育ケースに
マットを多めに入れて冬眠させようとしたが、
何匹もひからびさせてしまった苦い経験がある。
だから、クワガタは夏に産卵したら
秋に寿命で死ぬと思っていた。
それが、ちがうという。越冬するというのだ。
心配性の私は、バスプロ河辺さんに紹介してもらった
クワガタ博士に会うことにした。
クワガタ博士の大西政一さんに
お話をうかがった。 |
四谷三丁目の駅からほど近い街にクワガタ博士の
勤める会社がある。
クワガタ博士こと、大西政一さんは、
「週刊つりニュース」という
釣り新聞を発行する会社の広告営業主任さんなのだ。
ガッチリした体格でスーツをキメた姿、
大きな手に太い指、日焼けした顔・・・
どう見ても博士という雰囲気ではない。
ハンター、登山家、現場監督、軍曹といった趣である。
しかし、語り口はおだやかで冷静、目もやさしげだ。
コクワガタは冬越しするって聞いたんですけど・・・。
「ええ、3年は生きながらえます。」
そうなんですか。
よく、小学生のころは、冬にひからびさせたり
して何匹も死なせてしまったんですよ。
「今、どんなケースに入れて飼ってますか。」
え、ペットショップで売っている透明プラスチックの
ケースです。
「上のフタはどうなってますか。」
フタですか? 網目状のプラスチックだったかなあ。
フタが何か?
「ええ、通気性です。
つまり、網状のフタは通気性がいいから、
ケース内が乾燥しやすいんです。
クワガタは乾燥に弱いんですよ。
関節に水分があるから動けるわけで、
乾燥して関節の水分がなくなると、
動けなくなるし、ちょっとしたショックで、
身体が壊れてしまいます。
いちど壊れると再生しません。
だから、網目状のフタの場合は、
適度な湿り気を保つことが
必要なんです。」
なるほど〜。言われて自分の過去をふりかえると、
気がつくと飼育用マットが乾いてたっけ。
それでは、クワガタを乾燥死させてしまうんですね。
「逆にタッパーみたいな容器は、
密封性が高いので窒息します。
網目状のフタの上からラップをかけて、
ラップに小さな穴を空けておくと、通気性も損なわず、
乾燥もせずの状態がつくれます。空ける穴の大きさや、
数は、ケースの大きさや置く場所の温度、
風通しによってさまざまなので、
いろいろ試して発見してください。」
ケースのフタがこんなに
大事だったなんて意識したこともなかった。
フタによって通気性がちがう、通気性のちがいは、
ケース内の湿り気におおきく影響する、
湿り気のあるなしは、
クワガタの生死に直結していたのだ。
目からウロコがなんとやらです。
韮崎の森で「ラブホが」とか
「濡れてるのがいい」なんて
ヨタ話しながらクワガタを採集して、
気楽に持ち帰ったけど、
とんでもなくディープな世界なのかもしれない。
クワガタって。
このような感じで、
クワガタ博士=大西さんと私の問答が始まった。
クワガタ飼育方法、次はなんだ?
●ケースに入れる土
土はダメ。
カブトムシやクワガタ飼育用の
マットが市販されているが、
できれば、オガクズがいい。
オガクズの色は茶色系と白系があって、
白系をえらぶこと。
古いオガクズより、
削りたての新しいオガクズがいい。
古いオガクズには、
ダニや微生物が付着していることが多く、
付着していなくても新たに
ダニや微生物が発生しやすい。
新しいオガクズは、木そのものがもつ
抗菌作用があるので、
無用なダニや微生物が発生しにくい。
もちろん、ダニや微生物がクワガタの
身体につくのはよくない。
(例外もあるらしいが、考えなくていいそうだ)
オガクズをケースの深さ1/3まで入れる。
梅雨〜夏場はオガクズに湿り気が多すぎてもいけない。
冬場はとにかくオガクズが乾燥しないように注意する。
●エサ
成虫には、スーパーマーケットで売っている
私たちがふだん食べているゼリーをあげよう。
ひとくちサイズのゼリーがありますよね。
ペットショップには昆虫飼育用のゼリーが売っているが、
防腐剤などの添加物が多量に含まれてるため、
繁殖力をなくしてしまう。
寿命もみじかくなる。人間が食べるゼリーは、
添加物の基準値がきまっているので、
昆虫用よりもだいぶマシだという。
昆虫用のゼリーは、
より長い時間商品として店に陳列しておくので、
どうしても防腐剤が多くなってしまうらしいです。
防腐剤とか、添加物って怖いですね。
飼っているクワガタの数にもよるが、
ゼリーの減り具合をみて、
3〜4日で交換すればいい。
いろいろな種類のゼリーをあげると、
クワガタの好みがわかって楽しいそうです。
コーヒーゼリーはダメだろうな。
あとは、ハチミツ。
ゼリーは糖分、水分だけなので、
タンパク質を含むハチミツを
同時に置くことが大事。ハチの幼虫が育つくらいだから、
栄養的には申し分ない。
ハチミツは液体なので扱いにくいが、
ひとくちゼリーの空容器に、
スポンジを小さく切って入れて、
スポンジにハチミツを含ませれば、
クワガタがベトベトにならないし、
ケース内もよごれません。
おまけに、掃除や交換がしやすいのです。
ハチミツの場合も、エサの交換は減り具合をみながら
自分でペースをつかんでください。
長期間の放置は、ダニや微生物を発生させてしまいますよ。
●冬越し(冬眠)
クワガタは秋から春まで、冬眠します。
そういうわけで、よくやる失敗が、秋から春の間に、
室内にケースを置いておくことです。
十分に温度が下がらないため、
冬眠状態にならないそうです。
秋から春は、ケースを寒い場所におきましょう。
屋外で、直射日光があたらない場所がいいそうです。
土も凍る極寒地帯や、豪雪地帯は別でしょうが、
屋内に置く場合も暖房の影響がない、
寒い場所に置きましょう。
秋になったらオガクズの量を
ケースの深さ1/2に増やします。
ケースのフタが網状の場合は、フタの上からラップで包み、
小さな穴を空けるだけにします。
こうしておくと、乾燥しやすい冬でも、
長期間湿気を保てるのです。
しかし、ラップした状態で直射日光にあててしまうと、
ケース内の温度がいっきに上がって、
口をきけないクワガタは
恨み節のひとつも言えず昇天してしまうでしょう。
2週間に1度くらい定期的に湿り気をチェックして、
オガクズが乾燥しているようなら霧吹きで湿気を加えます。
言い忘れたけど、冬眠の間はゼリーはいりませんよ。
そうして、無事に冬を越したクワガタは、
早いものは4月中に出てきて、活動を始めるそうです。
「ほぼ日」で冬越しにトライするコクワガタは、
性質がおとなしく、ほとんどケンカしないので、
数匹一緒にケースに入れても大丈夫だそうです。
ヒラタクワガタなどの別の種類を一緒にすると、
バラバラ死体で発見されるのは、コクワガタだそうです。
そういう結末はむかえたくないですよね。
でも、「ほぼ日」はコクワガタのつがいなので安心です。
さあ、これで冬越しの方法はわかりました。
あとは西田部が行動にうつしてくれればオーケーです。
大西さん、ウチのコクワガタはもう大丈夫ですよね。
「あとですね、基本的に飼育方針には
2パターンあるんです。」
え、まだある? 方針?
というわけで、最後に、
2パターンある飼育方針を解説しよう。
●2パターンの飼育方針
1.ただ単に長生きさせる方針
オスとメスを同じケースに入れない、別々に飼育します。
つまり、ヤラせないわけですね。セックス禁止。
あとは普通に飼育するわけです。
やはり、産卵をしないほうが、
単に長生きはするそうです。
2.産卵させる方針
オスとメスを一緒に飼育する。
つまり、ばんばんヤッていただく、と。セックス奨励。
おまえたち、ヤッたのか? |
この場合は、産卵場所として
天然木材をケースに入れます。
本格派は天然の広葉樹の材をさがして入れるのですが、
ない場合は、ペットショップで売っている木材を入れます。
これは、シイタケ栽培用の「ほだ木」(シイ、クヌギ)を
クワガタの産卵用に加工して市販しているものです。
クワガタのカップルは夏に盛んに交尾して、
「ほだ木」に卵を産み付けます。それから約1カ月後、
ひとつの「ほだ木」に10匹ほど幼虫が入っているので、
木を裂いて、1匹ずつビンなどの別のケースに移します。
ビンにはオガクズを入れておくと、それを食べます。
ビンのフタには通気用の穴を空けましょうね。
成虫はそのままケースで飼えばいいのです。
こうして、成虫と幼虫は別にして飼育します。
さあ、
果たして「ほぼ日」はどっちの方針でいくのか・・・。
「9月の半ばすぎたら、
もう、ケースを屋外に置いたほうが
いいでしょうね。」と、大西さん。
さっそく、西田部にこのことを知らせて、
ケースのセッティングを冬眠モードに変えてもらおう。
まてよ、西田部はオスメス一緒にしてたし、
ケースの中に「ほだ木」を入れてたな。
男女ひとつ屋根の下、おまけに十分な
エサと産卵床まである。
ってことは、ヤリましたね、まちがいなく。
うーむ、さすが西田部、自然の摂理には逆らわないですね。
冬眠モードにする前に、「ほだ木」を割ってみよう。
幼虫が入ってたら、うれしいなあ。
ところで、大西さん、
バスプロ河辺さんから聞いたんですけど、
大西さんは山梨県韮崎で、オオクワガタを採ったんですか?
「ええ、毎年、採集してますよ。」
オオクワガタって九州にしかいないと思ってました。
一生に一度でいいから採ってみたいなあ。
でも、もう秋だから今年はもうダメか。
「いやいや、オオクワガタ採集に
オフシーズンはありませんよ!
冬のほうがかえって採れたりするんです。」
なぬ! 冬でもオオクワガタが採れるのか・・・。
さあ、第3回はこのへんにしておきましょう。
まずはコクワガタの越冬方法がわかってホッとしました。
そして、オオクワガタの話になったとたん、
大西さんの眼光が鋭くなりました。
コクワガタの話をしていたときとは、
明らかに違うオーラを
発しています。さあ、次回はオオクワガタのすべて、
大西さんの本領発揮でございます。
それでは次回まで、ごきげんよう。
(つづく)
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