NATURE
バス釣りのメソッドを
クワガタ採りに活かす!

鬼と天狗が跋扈する
「バスフィッシングの世界」の中心に生き、
魔王の座を狙って権謀術数を巡らせ
切磋琢磨しているバスプロたち。
彼らのメソッドやノウハウは、
もっと他にも活かせるのではないか?

そうだ。クワガタムシを採りに行こう!
ぼくの「怖くないほうの師匠」河辺裕和プロと、
山梨県は韮崎にGO!
レポートは、釣り雑誌編集者でもある金澤セイヒロー!
さぁ、おおげさに語れ、こころゆくまで。

第3回

ほぼ日クワガタ探検隊は、山梨県韮崎の森で採集した
コクワガタのつがい(オスとメスのペア)を
「ほぼ日」本社ビルに持ち帰った。

今、そのコクワガタを西田部が飼育している。
スズムシの飼育に実績のある西田部に預けておけば、
悪いようにはしないだろうという、とりあえずの考えだ。
実際、西田部はケースと
市販の飼育用マット、木片を購入して、
住処をつくり、果実をエサにして、
うまく生かしているようだ。

しかし、このまま漠然と飼育していて、
コクワガタを越冬させることができるのだろうか。
少年のころ、クワガタの飼育ケースに
マットを多めに入れて冬眠させようとしたが、
何匹もひからびさせてしまった苦い経験がある。
だから、クワガタは夏に産卵したら
秋に寿命で死ぬと思っていた。
それが、ちがうという。越冬するというのだ。
心配性の私は、バスプロ河辺さんに紹介してもらった
クワガタ博士に会うことにした。


クワガタ博士の大西政一さんに
お話をうかがった。

四谷三丁目の駅からほど近い街にクワガタ博士の
勤める会社がある。
クワガタ博士こと、大西政一さんは、
「週刊つりニュース」という
釣り新聞を発行する会社の広告営業主任さんなのだ。
ガッチリした体格でスーツをキメた姿、
大きな手に太い指、日焼けした顔・・・
どう見ても博士という雰囲気ではない。
ハンター、登山家、現場監督、軍曹といった趣である。
しかし、語り口はおだやかで冷静、目もやさしげだ。

コクワガタは冬越しするって聞いたんですけど・・・。

「ええ、3年は生きながらえます。」

そうなんですか。
よく、小学生のころは、冬にひからびさせたり
して何匹も死なせてしまったんですよ。

「今、どんなケースに入れて飼ってますか。」

え、ペットショップで売っている透明プラスチックの
ケースです。

「上のフタはどうなってますか。」

フタですか? 網目状のプラスチックだったかなあ。
フタが何か?

「ええ、通気性です。
つまり、網状のフタは通気性がいいから、
ケース内が乾燥しやすいんです。
クワガタは乾燥に弱いんですよ。
関節に水分があるから動けるわけで、
乾燥して関節の水分がなくなると、
動けなくなるし、ちょっとしたショックで、
身体が壊れてしまいます。
いちど壊れると再生しません。
だから、網目状のフタの場合は、
適度な湿り気を保つことが
必要なんです。」

なるほど〜。言われて自分の過去をふりかえると、
気がつくと飼育用マットが乾いてたっけ。
それでは、クワガタを乾燥死させてしまうんですね。

「逆にタッパーみたいな容器は、
密封性が高いので窒息します。
網目状のフタの上からラップをかけて、
ラップに小さな穴を空けておくと、通気性も損なわず、
乾燥もせずの状態がつくれます。空ける穴の大きさや、
数は、ケースの大きさや置く場所の温度、
風通しによってさまざまなので、
いろいろ試して発見してください。」

ケースのフタがこんなに
大事だったなんて意識したこともなかった。
フタによって通気性がちがう、通気性のちがいは、
ケース内の湿り気におおきく影響する、
湿り気のあるなしは、
クワガタの生死に直結していたのだ。
目からウロコがなんとやらです。

韮崎の森で「ラブホが」とか
「濡れてるのがいい」なんて
ヨタ話しながらクワガタを採集して、
気楽に持ち帰ったけど、
とんでもなくディープな世界なのかもしれない。
クワガタって。

このような感じで、
クワガタ博士=大西さんと私の問答が始まった。
クワガタ飼育方法、次はなんだ? 

●ケースに入れる土
土はダメ。
カブトムシやクワガタ飼育用の
マットが市販されているが、
できれば、オガクズがいい。
オガクズの色は茶色系と白系があって、
白系をえらぶこと。

古いオガクズより、
削りたての新しいオガクズがいい。
古いオガクズには、
ダニや微生物が付着していることが多く、
付着していなくても新たに
ダニや微生物が発生しやすい。
新しいオガクズは、木そのものがもつ
抗菌作用があるので、
無用なダニや微生物が発生しにくい。
もちろん、ダニや微生物がクワガタの
身体につくのはよくない。
(例外もあるらしいが、考えなくていいそうだ)  

オガクズをケースの深さ1/3まで入れる。
梅雨〜夏場はオガクズに湿り気が多すぎてもいけない。
冬場はとにかくオガクズが乾燥しないように注意する。

●エサ
成虫には、スーパーマーケットで売っている
私たちがふだん食べているゼリーをあげよう。
ひとくちサイズのゼリーがありますよね。

ペットショップには昆虫飼育用のゼリーが売っているが、
防腐剤などの添加物が多量に含まれてるため、
繁殖力をなくしてしまう。
寿命もみじかくなる。人間が食べるゼリーは、
添加物の基準値がきまっているので、
昆虫用よりもだいぶマシだという。
昆虫用のゼリーは、
より長い時間商品として店に陳列しておくので、
どうしても防腐剤が多くなってしまうらしいです。
防腐剤とか、添加物って怖いですね。

飼っているクワガタの数にもよるが、
ゼリーの減り具合をみて、
3〜4日で交換すればいい。
いろいろな種類のゼリーをあげると、
クワガタの好みがわかって楽しいそうです。
コーヒーゼリーはダメだろうな。

あとは、ハチミツ。
ゼリーは糖分、水分だけなので、
タンパク質を含むハチミツを
同時に置くことが大事。ハチの幼虫が育つくらいだから、
栄養的には申し分ない。
ハチミツは液体なので扱いにくいが、
ひとくちゼリーの空容器に、
スポンジを小さく切って入れて、
スポンジにハチミツを含ませれば、
クワガタがベトベトにならないし、
ケース内もよごれません。
おまけに、掃除や交換がしやすいのです。

ハチミツの場合も、エサの交換は減り具合をみながら
自分でペースをつかんでください。
長期間の放置は、ダニや微生物を発生させてしまいますよ。

●冬越し(冬眠)
クワガタは秋から春まで、冬眠します。
そういうわけで、よくやる失敗が、秋から春の間に、
室内にケースを置いておくことです。
十分に温度が下がらないため、
冬眠状態にならないそうです。

秋から春は、ケースを寒い場所におきましょう。
屋外で、直射日光があたらない場所がいいそうです。
土も凍る極寒地帯や、豪雪地帯は別でしょうが、
屋内に置く場合も暖房の影響がない、
寒い場所に置きましょう。

秋になったらオガクズの量を
ケースの深さ1/2に増やします。
ケースのフタが網状の場合は、フタの上からラップで包み、
小さな穴を空けるだけにします。
こうしておくと、乾燥しやすい冬でも、
長期間湿気を保てるのです。
しかし、ラップした状態で直射日光にあててしまうと、
ケース内の温度がいっきに上がって、
口をきけないクワガタは
恨み節のひとつも言えず昇天してしまうでしょう。

2週間に1度くらい定期的に湿り気をチェックして、
オガクズが乾燥しているようなら霧吹きで湿気を加えます。
言い忘れたけど、冬眠の間はゼリーはいりませんよ。

そうして、無事に冬を越したクワガタは、
早いものは4月中に出てきて、活動を始めるそうです。

「ほぼ日」で冬越しにトライするコクワガタは、
性質がおとなしく、ほとんどケンカしないので、
数匹一緒にケースに入れても大丈夫だそうです。
ヒラタクワガタなどの別の種類を一緒にすると、
バラバラ死体で発見されるのは、コクワガタだそうです。
そういう結末はむかえたくないですよね。
でも、「ほぼ日」はコクワガタのつがいなので安心です。

さあ、これで冬越しの方法はわかりました。
あとは西田部が行動にうつしてくれればオーケーです。
大西さん、ウチのコクワガタはもう大丈夫ですよね。

「あとですね、基本的に飼育方針には
2パターンあるんです。」

え、まだある? 方針?
というわけで、最後に、
2パターンある飼育方針を解説しよう。

●2パターンの飼育方針
1.ただ単に長生きさせる方針

オスとメスを同じケースに入れない、別々に飼育します。
つまり、ヤラせないわけですね。セックス禁止。
あとは普通に飼育するわけです。
やはり、産卵をしないほうが、
単に長生きはするそうです。

2.産卵させる方針

オスとメスを一緒に飼育する。
つまり、ばんばんヤッていただく、と。セックス奨励。


おまえたち、ヤッたのか?

この場合は、産卵場所として
天然木材をケースに入れます。
本格派は天然の広葉樹の材をさがして入れるのですが、
ない場合は、ペットショップで売っている木材を入れます。
これは、シイタケ栽培用の「ほだ木」(シイ、クヌギ)を
クワガタの産卵用に加工して市販しているものです。

クワガタのカップルは夏に盛んに交尾して、
「ほだ木」に卵を産み付けます。それから約1カ月後、
ひとつの「ほだ木」に10匹ほど幼虫が入っているので、
木を裂いて、1匹ずつビンなどの別のケースに移します。
ビンにはオガクズを入れておくと、それを食べます。
ビンのフタには通気用の穴を空けましょうね。
成虫はそのままケースで飼えばいいのです。
こうして、成虫と幼虫は別にして飼育します。

さあ、
果たして「ほぼ日」はどっちの方針でいくのか・・・。
「9月の半ばすぎたら、
もう、ケースを屋外に置いたほうが
いいでしょうね。」と、大西さん。
さっそく、西田部にこのことを知らせて、
ケースのセッティングを冬眠モードに変えてもらおう。

まてよ、西田部はオスメス一緒にしてたし、
ケースの中に「ほだ木」を入れてたな。
男女ひとつ屋根の下、おまけに十分な
エサと産卵床まである。
ってことは、ヤリましたね、まちがいなく。
うーむ、さすが西田部、自然の摂理には逆らわないですね。
冬眠モードにする前に、「ほだ木」を割ってみよう。
幼虫が入ってたら、うれしいなあ。

ところで、大西さん、
バスプロ河辺さんから聞いたんですけど、
大西さんは山梨県韮崎で、オオクワガタを採ったんですか?

「ええ、毎年、採集してますよ。」

オオクワガタって九州にしかいないと思ってました。
一生に一度でいいから採ってみたいなあ。
でも、もう秋だから今年はもうダメか。

「いやいや、オオクワガタ採集に
オフシーズンはありませんよ!
冬のほうがかえって採れたりするんです。」

なぬ! 冬でもオオクワガタが採れるのか・・・。
さあ、第3回はこのへんにしておきましょう。
まずはコクワガタの越冬方法がわかってホッとしました。
そして、オオクワガタの話になったとたん、
大西さんの眼光が鋭くなりました。
コクワガタの話をしていたときとは、
明らかに違うオーラを
発しています。さあ、次回はオオクワガタのすべて、
大西さんの本領発揮でございます。
それでは次回まで、ごきげんよう。
(つづく)

1998-09-20-SUN

第2回

こういう記事やってると、
季節の移り変わりの速さを感じます。
うかうかしてると、秋の気配。

そうそう、
山腹のラブホ街をぬけて、
ゴルフ場の駐車場に着いたところで、
第1回をおわりにしたんだっけな。
バスプロ河辺さん曰く、駐車場の電灯に虫が集まるから、
近くの木にクワガタがいるかもしれないって。
そういえば、子供の頃3チャンネル観てたら、
虫たちは電灯の紫外線に
集まります、なんていってたかもしれない。

バスを釣るには障害物を探れといわれる。
バスという魚は水中の障害物につく習性があるからだ。
水中の倒木、岩、桟橋の脚、杭、
テトラポッドなどの障害物を
ひっくるめて、バス釣りではストラクチャーと呼んでいる。
バスは同じように障害物にいるエビや小魚を食べているのです。
クワガタ採りのストラクチャーは、ずばり「木」だ。
木がなけりゃ話にならない。田んぼにクワガタはいない。

上から下まで…。
下から上までなめるように
照らすのだ。

駐車場のまわりには木があって、
さらに電灯もある。
クワガタのいる基本的要素にプラスαがある場所だ。
さすがバスプロ河辺さん。目のつけどころがちがう。
隊員たちに芽生え始めた尊敬の眼差しを背に受けて、
河辺さんは電灯周りの木をチェックしていった。

「うーん、いませんね。次、行きましょうか。」
ほかの木を懐中電灯の灯りで照らしてる隊員たちに向かって、
河辺さんはあっさり言う。
電灯のまわりには名前も知らぬ虫や、
蛾がひゅんひゅん回っていた。
クワガタはいない。・・・蒸し暑い。森の奥の暗闇。
厳しい探検になりそうだ。

登ってきた山道を我々をのせたクルマが下っていく。
隊員たちは、皆、肩を落として押し黙ったままだ・・・。
少年のころ川口浩探検隊の影響を受けた私としては、
そういうシリアスな文章を書きたい気持ちなのだ。
しかーし、引き返す道の両サイドがラブホ街なのだ。
山道を照らすケバイ電飾に、
隊員たちが反応しないわけないのだ。
「河辺さん、この建物はセックスをする場所ですよね?」
直球勝負を挑む者もいる。
「この入り口の造りは、
山道を下ってきたクルマが『いけね!』
なんてちょっと左にハンドル切れば
入れるようになってんだな。」
なんて、解説する者もいる。同一人物なんだけどな。
ハンドルを握る河辺さんのコーナーリングも
妙になめらかだった。

「一宮御坂インター」から中央自動車道に入り、
我々は一気に
「韮崎インター」を目指した。
「やっぱりどの木にもクワガタが
いるわけじゃないんですよ。
杉に代表される針葉樹っての、あれはダメなんだ。
やっぱ広葉樹だよね。クヌギとかナラとか。」
河辺さんの解説に隊員うなづく。
いわゆる、ドングリ系が実る木が
あることがクワガタ採りの条件なのだ。

バス釣りでは、バスが何を食べているか考えることが、
場所や釣り方を決める手がかりになる。
エビを食べる時期なら、
エビが棲む藻の周りを探るとか、
回遊する小魚を食べる時期なら、
岬で小魚が通過するのを待ち伏せしているバスを
小魚に似たルアーで釣ろうって考えたりする。
エサになるエビや魚をベイトとか
ベイトフィッシュと呼ぶんだけど、
それはバス釣りではとても大切な要素なのです。

クワガタはどうなんだろ? 河辺さん?
「陽が落ちると森の土からでてきて、
クヌギやナラの樹液を
吸いにくるんですよ。」
「そうすると、木がストラクチャーで、
樹液はベイトフィッシュだな」と隊員。
クワガタ採りにいい時間帯はどうですか?
「うーん、夜であれば何時でもいいんじゃないのかな。
聞いた話だと朝方がいちばんいいらしいけどね。
あとね、蛾が飛び交ってる夜がいい。
虫のニオイを感じてしまう。
湿度は高い夜のほうがいい感じがするなあ。」
河辺さんは、感じることを大切にする。
感じる釣り、感じるクワガタ採り。

「韮崎インター」で中央道をおりると、
またまたラブホ街の電飾である。
こんどのは中世ヨーロッパのお城調だ。
「アイネグループですね」河辺さんが解説する。
どうやら、大手ラブホチェーンで、
その勢力分布は広大なものがあるらしい。
そういえば、あちこちで見かける名前だ。
しかし、そんなことはクワガタとは関係ないのだ。

クワガタ採り「ラン・アンド・ガン」略して「ランガン」の
2カ所めは、韮崎インター近くの雑木林。
暗くて林の広さはわからないが、本場のニオイがする。
河辺さんが手近な木から、懐中電灯でてらしていく。
手もとからのびた光が、
根本から枝分かれする上のほうまで、
木の肌をなめていくさまは、ややエロティック。

グヌギとカブトムシ
クヌギなどの広葉樹と
樹液がストロングパターン

「いたいた、アミアミ!」
「なに!?」
「カブトムシ・・・メス!」
彼女は木の割れ目からしたたる樹液に、
頭からかぶりついて、ご満悦なようす。
写真の彼女がバディーに泥をつけたままなのは、
土から出てきてまもないからだそうです。
やはり、樹液はそうとうのストロングパターンだ。

「濡れてるとナイスなんだな」と隊員。
それから彼はひたすら「濡れ」に的を絞って、
樹液の濡れを見つけては
「濡れてるゾ」とオヨロコビであった。

むむ、いないか。
むむ、いないか。

さらに、木の幹にある穴には特に興味をそそられるらしく、
自慢のヘッドランプを使って奥までのぞきこんでは、
「う〜ん、いないか」と落胆するフリなどして
夜遊びを楽しんでいた。
こうして、我々はねらいを絞り込んでいった。
つまり、「樹液=濡れ」を探せばよいのだ。

そうして何匹かの「コクワガタ」と
「カブトムシ」に出会った。
そのうち何匹かは、逃げられた。
アミを近づけると何かを感じるのか、
ボトリと地面に落ちるのだ。そうすると、
下草にまぎれて、もう見つけることが
できなくなってしまう。これは悔しかった。
場所とパターンまでは河辺さんのアドバイスが生きるが、
取り込みは、個々の隊員の実力だからどうしようもない。
それでも、2カ所めで成果があがったわけで、
すばらしい展開である。

クルマでほんの2、3分で、3カ所めに着いた。
ゆるい斜面の深い森。そのまわりは、斜面がそのまま
果樹園になっているところもあれば、畑もある。
さっきの雑木林よりも深くて、
森の奥はいっさい明かりのない
黒い空間。ニオう。
河辺さんは、ここを「銀座」と呼んでいた。
ナイスな木が何本もあるからだ。
我々はすでに「樹液=濡れ」に的を絞っていた。
道に面した木をかたっぱしに照らしてチェックする。
カエル
でっかいカエル。
ヘビ
こんなのも

「コクワ発見!」ちょっと手が届きそうにない
高さにいたが、アミを使って取り込みに成功した。
「楽しいじゃないか!」

結果、8月24日の夜に「ほぼ日クワガタ探検隊」は、
カブトムシ(メス)1匹、
コクワガタ(オス)2匹、
コクワガタ(メス)1匹
を捕獲した。
出会ったのは、昆虫だけではなかった。
観よ、写真の爬虫類たちを。森の育む野生たちを。
写真はないけど、ナメクジやゴキブリ
(森に住むタイプ)ならいくらでもいるぞ。

そして、被害もあった。
隊員のひとりが
暗闇でぬかるみにはまり、
靴がドロドロになった。
別の隊員(オイラ)は翌日に、
右腕と右腹部の広い範囲に
赤い斑点がボツボツできて、
痛がゆさとカッコ悪さに
1週間ほど苦しめられた。
毛虫の毛(毒入り)のついた手で、
右腹をかいてしまったらしい。
会社でこのことを報告したとき、
西田部長の言った
「へんなとこ掻かなくてよかったですね」の
ヒトコトは当分忘れられそうにない。

バス釣りでは、釣ったバスは湖にリリースする。
そうしていつまでも、
釣りができるようにするのだ。
クワガタ採りも一緒だろう。
河辺さんはクワガタを撮ると、
時々飼育用に持ち帰ることもあるが、
ほとんどの場合は森にリリースしているという。
「乱獲は、結局自分たちの楽しみの首をしめるでしょ。

クワガタくんとカブトムシちゃん
クワガタ探検隊の成果。
手が痛い。

見つけて、つかまえて、触って、眺めて、リリース。
これよ。見るよろこびを感じてるのよ。
たまに飼育すると、
カブトは夏の終わりに産卵して一生を終えるし、
コクワガタは上手に飼えば冬を越しますよ。」
その話を聞いて、
我々はコクワガタのつがいだけを持ち帰った。
そのほかは、写真を撮ってからリリースした。

河辺さんの夢は、韮崎でオオクワガタに出会うこと。
実際、我々が行った場所で、
オオクワガタに出会った人がいるそうだ。
「オオクワガタは1匹、2匹じゃなくて、
敬意をこめて1頭、2頭と数えるんだよ。
やっぱオオクワガタは、
ブラックバス釣りの50センチオーバー。
コイ釣りなら1メートル級のヨロコビがある。
採って売るわけじゃなくって、
やっぱ虫と出会うロマンでしょ。
投網でなんでも採っちゃうと、それは漁でしょ。
そういうのはダメ。
釣りも、クワガタ採りもロマンだな。」
バスプロ河辺さん、いかしてるぜ。

というわけで、クワガタ探検隊の報告はこれで終わり。
しかし、「ほぼ日」に来た
コクワガタのつがい(西田部所属)を
冬越しさせるには、どうしたらよいのだろう。
次回は、そのへんの話を、河辺さんに紹介していただいた
クワガタ博士にうかがってこようと思う。
とにかくすごい人らしい。
月刊「むし」という雑誌の筆者でもあるらしい。

では、次回まで、ごきげんよう。
(つづく)

1998-09-06-SUN

バスプロという職業を知ってますか?
野球、サッカーにプロ選手がいるように、
バス釣りにもプロ選手がいます。
バスってのはブラックバスという
米国産の魚の名前の略称です。
つまり、バスプロとはブラックバスを釣る
競技のプロ選手なのです。
賞金もあるし、企業からスポンサーを受ける
選手もいます。
まだまだ、社会的認知度は高くないものの、
バスプロという職業で食べている人は、
確実にいるのです。

釣りの勝ち負けなんて、偶然が支配してると
思われるかもしれませんが、
ブラックバス釣りに関しては、
偶然の支配する率はかなり低いです。
つまり、ブラックバスは人間に研究されつくし、
その一生、季節ごとの行動パターンがわかっています
(たぶん)。
ある日、ある湖の水温、水深、気温、
風、水質、水生植物、
湖底の質、バスの餌になる小魚やエビの存在がわかれば、
バスがどこで何をしているか「読め」るのです
(読める人は)。
バスのことを知れば知るほど釣る
「勝つ」確率が高くなります。
だから、バス釣りはおもしろいし、
競技が成立するのでしょう。

競技は河口湖や霞ヶ浦、琵琶湖などで開催されます。
各選手、自分でボート(時速100キロ以上出せる)を操り、
自分の「読み」にしたがって、
ひろい湖のなかで、バスがいるであろう
エリアを探して釣るのです。

ちなみに、競技中はミミズとか小魚、
小麦粉などの生きエサは使いません。
かわりに、ルアー(疑似餌)を使います。
主にプラスチック製の
ルアーは種類が多すぎて、ここでは十分に説明できません。
語り始めると、えらいことになります。
ま、クルマにいろんなメーカー、用途、
タイプがあるようなもんです。

さて、クワガタ話をスタートしましょう。
バスプロが持つ特殊能力・・・
『ブラックバス釣りのメソッド、ノウハウ』を
もっとほかのことに活かせるのでは? ときて、
どーして、クワガタを採りに行こう! 
になったのか謎だが、
クワガタ採りに活かしてもらうのも、わるくない。

探検隊
「ほぼ日クワガタ探検隊」。
写真は河辺隊長(中央)ほか2名。
虫採りアミがなければ、何の人たちだかわからない。

8月24日、夕暮れ。
急遽編成された「ほぼ日クワガタ探検隊」は、
バスプロ河辺裕和さんが住む、山梨県河口湖へ向かった。

河辺さんは、糸井ダーリン重里のバス釣りの師匠です。
「怖くないほうの師匠」と呼ばれるこのお方は、
国内バストーナメントのトップカテゴリーに参戦し、
本場アメリカのトーナメントで入賞したこともある。
すごい人だ。

トッププロとしての知識、技術、
経験をもとに「感じる釣り」
の大切さを釣り人に提唱している人でもある。
夜、まっくらなクルマの中で、糸井ダーリン重里が
タバコを逆さまにくわえてフィルター側に点火したことを、
その刹那のニオイで察知できるくらい
「感じちゃう」人なのだ。
暗闇で「今、タバコ、逆側に火つけたでしょ?」なんて
言われたほうはドキッとするよな。
逆さにつけたやつも間抜けだけれど、とは言えない。

河辺さんは3年くらい前からクワガタ採りを再開したそうだ。

河辺隊長
バスプロ河辺裕和さん。
ブラックバス釣り競技のプロ選手。
ちょっと卑猥ポーズな指先に
カブトムシ(メス)がいますよ。

カブトムシやクワガタ採りは、
小学校のころ誰もが通る道だが、
オトナになると、
ほとんどの人はかつて夢中になった虫のことなど
忘れてしまうらしい。
で、河辺さんがクワガタ採りを再開したのは、
同じ河口湖に住むバスプロ沢村幸弘さん
(糸井 "darling" 重里の「怖いほうの師匠」)が、
クワガタ・パラダイスの情報を
どこからか仕入れてきたことが始まりらしい。
それ以降、クワガタ採りは毎年7〜8月の
夜の楽しみになったという。

河口湖に着いた「ほぼ日クワガタ探検隊」は、
全員が(3名だけど)
河辺さんのクルマに移動した。クワガタ採りでは、
道無き道を進むことも多く、
1台で行動したほうが効率がいいのだ。
クルマは国道137号で中央自動車道
「一宮御坂インター」に向かった。
目的地は中央道「韮崎インター」の近くだ。

「一宮御坂インター」の近くまできたとき、
河辺さんが「ちょっと1カ所
軽めに流していきましょう」と言う。
暗くてよくわからないのだが、国道を外れたクルマは
カーブの連続する坂道をどんどん登っていった。
「ホテル●●●」、「ホテル展望」・・・。
なんだこりゃ、ラブホ街じゃないか。
後ろを振り返ると「ホテル展望」の意味がわかった。
夜景がすばらしいのだ。
甲府盆地の街灯りがロマンチック。
河辺さん、いったい・・・。

駐車場のライト
山腹のラブホ街をぬけると、
そこはゴルフ場だった。
駐車場の電灯に
虫が集まるらしい。

「いや、山の上にゴルフ場があるんですよ。
その駐車場の電灯に虫が集まってることがあるんですね。
本命場所行くまでに、まずそこをチェックしましょう」

バス釣りでは、自分が知ってるいくつかのナイスなスポットを
素早く次々に釣っていくことを「ラン・アンド・ガン」という、
略して「ランガン」。
ちょっと「ガンズ&ローゼズ」みたい?
本命の前に気になる
場所をチェックする・・・まさにバス釣りだ。

ちなみにクワガタ探検隊の装備は、
長袖、運動靴、懐中電灯、虫採りアミ、虫よけ薬。
書いてみると、たいしたものは何もない。
最初の写真(3人写ってるヤツ)をみればわかるように、
普段の服装と同じでオッケー。
でも、こんなカッコウした人たちが、
夜中に家の近所を歩き回ってたら、ちょっとイヤだ。

さあ、果たして、ラブホの奥、
駐車場の電灯にクワガタはいるのだろうか。
次回まで、ごきげんよう。
(つづく)

このページへの感想などは、
メールの表題に「『バスクワ』を読んで」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

1998-08-30-SUN

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