ほぼ日刊イトイ新聞

C・シルヴェスター編『THE INTERVIEW』
(1993年刊)によれば、
読みものとしての「インタビュー」は
「130年ほど前」に「発明された」。
でも「ひとびとの営み」としての
インタビューなら、もっと昔の大昔から、
行われていたはずです。
弟子が師に、夫が妻に、友だち同士で。
誰かの話を聞くのって、
どうしてあんなに、おもしろいんだろう。
インタビューって、いったい何だろう。
尊敬する先達に、教えていただきます。
メディアや文章に関わる人だけじゃなく、
誰にとっても、何かのヒントが
見つかったらいいなと思います。
なぜならインタビューって、
ふだん誰もが、やっていることだから。
不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

02
なぜ「人生ぜんぶ」を聞くのか。

──
聞き書きの場合、
録音した音声を文字に起こすときは、
一語一語、
忠実に書き起こしてるんですか?
塩野
それはもう、完璧に。

高校生に聞き書きを教えてるんだけど、
ずっと、そう教えてる。
「うん」「あー」「すー」も起こせと。
──
「すー」(笑)。でも、なぜですか?
塩野
人間は、言葉と言葉のあいだに、
よけいなことをいっぱいしゃべってて、
そういうものまでぜんぶ起こすことで、
その人が、
どんな言葉をしゃべってるのか、
身をもって感じることができるんです。

秋田弁なんかね、大変なんだよ。
──
でしょうね(笑)。
塩野
録音で「んだべぇ」って聞こえるけど、
どんな表記にしようかなぁ、とかね。
──
機械的にテープ起こしするんじゃなく、
その人の言葉と向き合いながら、
起こしてる。
塩野
「んだべぇー」は「だべ」じゃなくて、
「ん」からはじまって、
最後にちいさい「ぇ」を入れて、とか。

これをやっておくと、
「話し言葉と書き言葉の関連性」が、
わかってくるんです。
──
へぇー‥‥。
塩野
そこがわかってると、まとめるときに、
頭のなかに「話し言葉」が出てきます。

で、聞き書きでは、
その「話し言葉」を重ねていくんです。
──
だから、
「目の前でしゃべっているかのような」
聞き書きの、
独特のリズムが生まれるんですね。
塩野
話し言葉だから、
校正者が赤字を入れるような部分も、
あえてそのままにしたり、
聞き書き独特のリズムというものは、
きっと、あるでしょうね。
──
先ほど、聞き書きの第1回の原稿では
「質問側の発言をぜんぶ捨てる」
とおっしゃってましたが、
原稿は
それで完成するわけじゃないですよね。
塩野
第1回原稿のあとに、
まあ、10回くらいは直しますよね。
──
10回。推敲の回数で言うと、
自分もそれくらいは推敲するんですが、
塩野さんのほうが、
圧倒的に、文字量が多いですよね。

基本的に、本一冊にするわけですから。
塩野
昔の「フロッピー」で言うと、
たいだい「10枚で、本1冊」だった。

テープ起こしのあとに、
質問をぜんぶ消した第一稿をつくって、
小見出しをつけて、
少しずつ文章を整理して、
「うーん」とか
「ああー」とか要らないものを取って、
文章が整ってきたら、
話がダブってるところは、消して‥‥。
──
ええ。
塩野
時代順に時系列を整えて、
第一章、子ども時代ができあがります。

で、当時の家族のこと、
どこに住んでて、どんな間取りの家で‥‥
という話をチクチク集めてきて、
第二章、家族についての原稿ができる。
──
その繰り返し。
塩野
そう。

集めちゃくっつけて、
集めちゃくっつけて‥‥というのを、
えんえんやってるの。
──
そもそもの質問ですが、
どうして「人生ぜんぶ」を聞くんですか。
塩野
目の前の「この人」が「誰」なのか、
わかりたいから。
──
ああ、明快ですね。
塩野
たとえば、西岡常一棟梁を取材するとき、
「宮大工と檜の関係性を書こう」
というテーマがあったら、
「西岡さん、
はじめて檜に触ったのはいつですか?」
とかなんとか聞いて、
檜の話だけを書くことになるけど。
──
ええ。
塩野
でも「宮大工・西岡常一とは誰か?」を
描こうと思ったら、
やっぱり人生全体を聞く必要があります。

「親父からは、いっさい教わってません。
宮大工の仕事は、
ぜんぶ、おじいさんから教わったんだ」
「じゃあ、
おじいさんってどんな人でした?」
「親父さんって、どんな人でした?」
──
どこへ行き着くかわからない感じですね。
塩野
そうなの。

「おじいさんは、何年生まれですか?」
「おじいさんの使っていた道具は
手元に残っていますか?」
「法隆寺の、どのあたりに、
おじいさんの痕跡が残っていますか」
──
はい。
塩野
で、
「新しく弟子入りしたときに渡すノミは
何本ですか?」
「3本だ」
とかなんとか話してるうちに、
「ノミというのは、
穴を掘るための道具ではあるけど、
穴を掘るのなんてずっと先で、
まずは『研ぐ練習』をするときに、
ノミはわかりやすいんだ」
ということになって‥‥。
──
ええ。
塩野
「言われたとおりにがんばって研げば、
1年で、ノミが消えてなくなる」
なんて話が、ポッと出てくる。
──
おおー、おもしろーい!
塩野
でしょ、おもしろいよねえ?

聞いてるこっちも
「そういう話だ、聞きたかったのは」
って思うんだけど、
これ、その人の「人生」について、
えんえん聞いてきたからこそ、
出てくる話なんだよね。
──
なんだかもう、ご褒美のようです。
塩野
ねえ。

<つづきます>

2017-07-14-FRI