ほぼ日刊イトイ新聞

C・シルヴェスター編『THE INTERVIEW』
(1993年刊)によれば、
読みものとしての「インタビュー」は
「130年ほど前」に「発明された」。
でも「ひとびとの営み」としての
インタビューなら、もっと昔の大昔から、
行われていたはずです。
弟子が師に、夫が妻に、友だち同士で。
誰かの話を聞くのって、
どうしてあんなに、おもしろいんだろう。
インタビューって、いったい何だろう。
尊敬する先達に、教えていただきます。
メディアや文章に関わる人だけじゃなく、
誰にとっても、何かのヒントが
見つかったらいいなと思います。
なぜならインタビューって、
ふだん誰もが、やっていることだから。
不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

03
つまんない話、関係ない話。

──
インタビューに「テーマ」があれば、
全体を編集するときに
その部分にフォーカスを当てて
「何がどうおもしろいのか、
クッキリさせる」
こともできると思うんですが、
聞き書きの場合って
基本的には「クロニクル」ですよね。

出来事を年代順に並べていくという。
塩野
そうですね。
──
それだと「つまんない話」も、
当然、混じってくると思うのですが。
塩野
そうだね。
──
そこは、どうしてるんですか。
塩野
そのときどきだと思うんだけど、
「つまる」話の伏線として置いたり、
どこかには、
挟み込んでいると思いますねえ。
──
「捨てる」ことは、しない。
塩野
ぜーんぶ「おもしろい話」だけだと、
ホラ、味がないじゃない?
──
味。
塩野
関係ない話も、入れたくなっちゃう。

たとえば、中国の職人のおばあちゃんに
話を聞きに行ったとき、
お昼ごはんを食べようとなって、
ぼくのお皿にいろいろ入れてくれるわけ。
──
ええ。
塩野
で、何でかなあと思ったら
「わたし、糖尿病だからねぇ」って、
これ、入れたくなっちゃう。
──
職人の手技のお話とは関係ないけど。
塩野
ぼくにとって、
インタビューでいちばん大事なのは
「弱み」だと思っていて、
それを、どこかで見せてほしいのね。
──
弱み、ですか。
塩野
そう、人間っぽいところ。

誰だってみんな人間なんだからさ、
ぜんぶがぜんぶ、
勇ましい話だとつまんなくなるよ。
──
なるほど。

ただの英雄譚、ただの成功物語なら、
世の中に、たくさんあるから。
塩野
そう、「白鵬が転んだ」ってほうが、
おもしろいじゃないですか。
──
はい(笑)。
塩野
そういう話って、
何気なーく会話に入ってくるんだよね。

たとえば、「手斧(ちょうな)」って
大工道具があって、
それ、ガンガンに研ぎ澄ましてるから、
「髭が剃れるほど」じゃなくて、
「本当に髭が剃れる」のよ。
──
へぇー‥‥。
塩野
それが雨の日に「つるん」と滑って、
足のスネの骨にザックリ刺さったと。
──
う、わ‥‥。
塩野
その「つるん」を何度やったかわかんない、
「見るか傷、ホラ」とか言われると、
大工職人の仕事の話としては、
あんまり関係のない、余談の類なんだけど、
どうしても入れたくなっちゃう。

だってさ、おもしろいじゃない。
──
生々しい話だし、想像力が喚起されて、
印象に残る場面になりますね。
塩野
そこに、臨場感が生まれるんだろうね。

でもこれ、
何かテクニックみたいに聞こえるけど、
何気なくやってることなんだ。
──
それは、聞き書きというスタイルが、
本筋から逸れた話でも、
自然に入れられる形式だからですよね。

ほぼ日のインタビューでも、
かなり「関係ない話」を混ぜていて。
塩野
うん、だから読みやすいよ。
──
ほぼ日は聞き書きと違って対話形式で、
このインタビューも、
そのように編集されるわけですけど、
インタビューを原稿にする場合、
この「対話形式」が、
もっとも自然なかたちだと思うんです。
塩野
そうだね。
──
編集とか構成の工夫は割としてますが、
文章のテクニックは、
そこまで、必要じゃないと思うんです。

でも、答えだけでまとめる聞き書きは、
原稿にするときに、
けっこうテクニックが必要だろうなと、
思っていたのですが‥‥。
塩野
テクニックは、ほとんど要らないね。

高校生たちは、文才がなくったって、
おじいちゃん、おばあちゃんから、
感動した言葉を拾い集めてくるから。
──
そうなんですね。
塩野
生の言葉の説得力を大事にしてるから、
聞き書きの場合も、
テクニックは、そんなに必要ない。

必要ないんだけど‥‥
必要あるように見えたほうがいいねえ。
──
そうですね(笑)。
塩野
ただ、めちゃくちゃ手間暇かかるのは、
たしかだと思うよ。
──
あ、それは、そう思います。

テープ起こしだけでも、
どれくらいの分量になるのか‥‥。
塩野
1時間で、だいたい原稿用紙60枚かな。
だから100時間で、6000枚。
──
えーと、100時間?
取材日数にしたら、えらいことですね。
塩野
ほら、2時間くらいで飽きるじゃない。
取材相手ってさ。

おじいちゃんたちの顔に変化が起こる。
爛々とした表情が消えるの、2時間で。
──
はい、その感覚はわかります。
2時間は、ひとつの目安だと思います。

取材相手がスマホを気にしだしたり、
本当の雑談が混じってきたり、
お茶菓子に、手をつけだしたり‥‥。
塩野
ぼくが感じるのは「違う顔になる」の。
──
違う顔。
塩野
「あーあ、違う顔の人になっちゃった。
やめやめ」って(笑)
──
おもしろいです(笑)。
塩野
午前2時間、午後2時間で、1日4時間。
だから100時間だと‥‥25日か。

まぁ、100時間は滅多にないけどね。
──
でも、「何十時間」という単位では、
取材してらっしゃるわけですね。
塩野
うん、『刀に生きる』という本を、
このあいだ出したんだけど、
それは「13年」くらいかかってる。
──
えっ‥‥13年?
塩野
うん。
──
はぁ‥‥。

<つづきます>

2017-07-15-SAT