05質問は具体的に。
- ──
- 結局、本にならなかった人も‥‥。
- 塩野
- いますね。
- ──
- そうですか。
- 塩野
- がんばっても、がんばってもねえ、
ダメだったんだなあ。
- ──
- 何度行って、何度お話を聞いても。
- 塩野
- 結局、その人の人生が、
浮かび上がって来なかったんだよね。
石工(いしく)さんだったんだけど、
石のおもしろさとか、
石の目をきれいに割ったりする技術、
お城の石垣を組むときに
大事になる石はどこだ‥‥とか、
おもしろい話はいっぱいあるんだけど、
その言葉に、説得されなかった。
- ──
- 塩野さんが。
- 塩野
- 熊本城、岡山城、松山城、江戸城、
名古屋、大阪‥‥
いーっぱい一緒に行ったんだけど。
- ──
- そんなに。
- 塩野
- カメラマンにも、
こっちからもあっちからもそっちからも
たくさん撮ってもらって、
写真集だったら、
いつでも一冊にできそうだったんだけど。
文章に、ならなかったんだね。
- ──
- その方の技術は、文句なしなんですよね?
- 塩野
- 日本一。日本一の石工。
その人を二子玉川の高島屋に連れてきて、
お客さんの前で公開インタビューして、
こーんな大きい石が、
パカーンってあっという間に割れるわけ。
- ──
- すごい。
- 塩野
- その感激を、本にしたかったんだけど。
- ──
- どうしてでしょう‥‥その人の場合は、
言葉よりも、
技術が先に行きすぎてたんでしょうか。
- 塩野
- 言葉の要らない人だったんだろうねえ。
そういう職人さんに対して、
ぼくが、
一所懸命に言葉にすることを促したり、
くすぐったりしながら、
「技術を言語化するゲーム」を‥‥
ずっと、やってたのかもしれないなあ。
- ──
- 無理矢理に言葉を引き出すというのは、
聞き書き的じゃないですものね。
- 塩野
- 誘導尋問になっちゃうからね。
- ──
- 結論ありきで取材に来るインタビュー、
たまにあるって聞きますし。
こう言ってほしい、が先にあるような。
- 塩野
- そう。
戦争経験者の聞き書きの本をつくると
なったときに、
「戦争中、どこに住んでましたか」
「昭和20年の8月15日は、
どこにいらっしゃったんですか」
「お歳は、おいくつでしたか」
みたいなことは、聞いていいんだけど。
- ──
- ええ。
- 塩野
- 「ご親族で戦死されたかたはいますか」
あたりに踏み込んでいくと
「悲しいですね」
とか、
「戦争っていけないですよね」
みたいな、結論のわかっている方向に、
話が行っちゃうんだよね。
- ──
- そこは、すごく気を使ってるんですね。
いや、自分がインタビューアだったら、
ふつうに聞きそうな質問だと思うので。
- 塩野
- 聞き書きの場合はね、ま、どうしても。
相手の言葉だけで構成するから。
- ──
- あえて「聞かない質問」がある。
- 塩野
- そう、だから、どうしても、
テーマをガッチリ決めすぎちゃうと、
質問が誘導的になるので、
警察の取り調べみたいになるんです。
- ──
- 聞き書きの文章を読んで思うことは、
本当に、ひとつひとつの事実の積み上げで
できている読みものなんだなあ、と。
- 塩野
- そうだね。
- ──
- でも、他の形式のインタビューの場合って、
必ずしも、そうじゃないですよね。
それが悪いというわけじゃないんですけど、
「コンセプト」みたいな、
すごく抽象的なことを、やりとりしてたり。
- 塩野
- ぼくは、その人の体験から出てくる言葉を、
つかまえたいと思ってるから。
- ──
- そのために、
具体的な答えが返ってくるような質問を、
していると。
- 塩野
- たとえば、
「あなたのつくったこのテーブルは、
どんなことを思って
こういうデザインにしたんですか?」
って聞いたりするじゃない、よく。
- ──
- まさしく「コンセプト」ですよね。
- 塩野
- 聞き書きの場合は、
そういうことは、いっさい聞かないわけ。
代わりに
「では、このテーブルに使っている木は、
何という木ですか」
「檜ですか。どこの檜ですか。
吉野ですか、木曽ですか、裏山ですか」
「吉野じゃなく木曽にしたのは、
どうしてですか」
と聞く。
- ──
- 徹底的に具体的です。
- 塩野
- そう。そうすると、
「木曽檜は、
岩の多いところで育っているから
目が細かいんだ。
なぜなら岩山には水が少ないから、
少しずつしか成長しない」
って返ってきて、
「少しずつしか成長しない木なんて、
意地悪な木じゃないですか」
って言うと、
「いやいや、それが、違うんだ。
刃物を入れた瞬間に、
パーンと気持ちよく割れてくれるのは、
岩山で育った檜なんだ」
とかって、話してくれるわけ。
- ──
- 木曽の檜を選んだという「事実」の中に、
作り手の思いだとか、
製品に対するコンセプトが含まれている、
ということですね。
- 塩野
- そう。
今の話なんか、事実しか言ってないのに、
職人さんの木に対する思いが、
塊で出てきてるような気がするでしょう。
- ──
- つまり、
「こういうテーブルがつくりたいんだ」
ということを、
直接聞いてないけど、結果、聞いてる。
- 塩野
- うん。
「この道具は、
鍛冶屋につくってもらったんですか」
って聞いたら、
「何十万もする道具じゃないんだけど、
自分の身体に合うことが重要だから、
鍛冶屋に頼んで、
そういうふうに、つくってあるんだ」
とかね。
- ──
- 難しい質問は、要らない。
- 塩野
- ただの事実の話を、
隅々までテーブル一個分やるうちに、
親方の話になったり、
鍛冶屋さんの話になったり、
使えなかった道具をいくつ捨てただ、
そんな話がひと塊になって、
テーブルひとつに、
どれだけ魂を込めてやってるのかが、
わかってくるんですよね。
- ──
- まさしく
「事実を持って語らしめる」ですね。
- 塩野
- だから、高校生にもよく言うんです。
質問は具体的に聞け、と。
<つづきます>
2017-07-17-MON