ほぼ日刊イトイ新聞

C・シルヴェスター編『THE INTERVIEW』
(1993年刊)によれば、
読みものとしての「インタビュー」は
「130年ほど前」に「発明された」。
でも「ひとびとの営み」としての
インタビューなら、もっと昔の大昔から、
行われていたはずです。
弟子が師に、夫が妻に、友だち同士で。
誰かの話を聞くのって、
どうしてあんなに、おもしろいんだろう。
インタビューって、いったい何だろう。
尊敬する先達に、教えていただきます。
メディアや文章に関わる人だけじゃなく、
誰にとっても、何かのヒントが
見つかったらいいなと思います。
なぜならインタビューって、
ふだん誰もが、やっていることだから。
不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

06
高校生だから、できる質問。

──
あらためてなんですが、
高校生に聞き書きを教えているのは、
どうしてなんですか。
塩野
今の高校生が、
じいちゃん世代の話を聞く機会って、
なかなか、ないじゃない。

そういうチャンスを
つくってやろうというのが、ひとつ。
──
はい。
塩野
もうひとつは、
あるおじいちゃんの一生を背負って、
「ぼくが話を聞いたおじいちゃんは、
こんな人なんですよ」
ってみんなに紹介してあげるという
聞き書きのスタイルが、
高校生には、いいんじゃないかなと。
──
なるほど。
塩野
おじいちゃんにしてみれば、
これまで平凡に生きてきたつもりの
自分のところに、
孫みたいな歳の高校生が訪ねて来て、
ていねいに話を聞いて、
自分の一生を文章にまとめてくれた、
それがすごくうれしかった、と。
──
ええ。
塩野
ただ、高校生たちも、
おじいちゃんたちもよろこんだので、
援助してくれている人たちは
「学校では教えられない教育として、
聞き書きは優れてる」
って言ってくれてるみたいだけど、
ぼくは「教育」とは言いたくなくて。
──
どうでしてですか。
塩野
教育と言うなら、パスしたいぐらい。

だって、それは「結果」の話で、
それが「目的」になってしまったら、
もっといい方法で‥‥
みたいな話になっていくからね。
──
聞き書きを真ん中において
高校生とおじいちゃんとが出会う、
そのことがおもしろかったわけで、
「方法」を変えちゃったら‥‥。
塩野
そもそも
何がやりたかったのかなあって、
なっちゃうもんね。
──
高校生の聞き書きは、どうですか。
読んでいて、おもしろいですか。
塩野
すごくおもしろい、どれもこれも。

ぼくとは質問の中身が違うから、
ぼくが聞いた人に、
聞きに行った高校生もいるんだけど、
ぜんぜん違うものができるしね。
──
あ、同じ人でも。
塩野
聞き書きのおもしろいのは、
質問が幼ければ、
そのぶんだけ、
答えがていねいになるところで。
──
あ、なるほど。

答える側も、
わかってもらおうって思うから。
塩野
そうそう。だから、
ぼくが聞き飛ばしてきたような話も、
高校生は、きちんと聞いてくるわけ。

あるいは、職人さんが
「わしは吉野の人間で」と言ったら、
「吉野って何ですか?」とか。
──
お、おお。
ある意味、すごい「返し」ですね。
塩野
そうすると、
「奈良県に
吉野というところがあるんだよ」
「そこに檜が植わってるんですか」
「植わってるんだ。
でな、これがまたいい檜で‥‥」
みたいな。
──
それは、おもしろい展開ですね。

吉野が何なのかを知らずに
木を扱う職人さんに取材するって、
プロとしては
ちょっとありえないですけど、
高校生だから、
それも「味わい」になるんですね。
塩野
知らないほうが、
教えるほうはうれしいって場合も、
あるみたいだし。

「吉野、知らねぇのか?
 じゃあ、話はそっからだな」
みたいな。
──
それは、塩野さんがやろうと思っても、
ちょっと難しい展開ですよね。
塩野
そう、聞き書きって、
そこにいるふたりでやるものだからね。

吉野を知らない高校生の
「え、吉野? わかんないっす。
どこっすか、それ?」
からはじまる聞き書き、いいじゃない。
──
はい、読んでみたいです。

あの、塩野さんが聞き書きをする人は、
一般的には
さほど有名じゃない人が多いですよね。
塩野
そうだね。
──
有名な人には、興味ないんですか。
塩野
そうだね、あんまりない。
というか、
有名かどうかは、関係ないかなあ。

まあ、有名だと
本が売れる可能性が高くなるから、
出版社の人は勧めてくるけど。
──
そうですね(笑)。
塩野
ぼくが住んでる
秋田県の角館(かくのだて)ってとこは、
5000世帯ないくらいなの。
──
ええ。
塩野
だからさ、5000軒の家ぜーんぶに
話を聞いてまわったら、
町が丸ごとわかるぞーって思った。
──
わ、すごいですね、それ(笑)。
塩野
あと、若いころに
八百屋のおじさんだとか、
洋服屋のおばさんだとか、
日本中のふつうの1000人に話を聞いて、
「千人図鑑」という企画を
考えたんだけど‥‥。
──
ふつうの人、1000人。
塩野
どこの出版社も、
まじめに取り合ってくれなかったなあ。
──
スタッズ・ターケルの『仕事!』では、
それをやったんですね。

数は130人くらいですが、職業切りで。
塩野
うん。あれは、衝撃的な本だった。

<つづきます>

2017-07-18-TUE