06高校生だから、できる質問。
- ──
- あらためてなんですが、
高校生に聞き書きを教えているのは、
どうしてなんですか。
- 塩野
- 今の高校生が、
じいちゃん世代の話を聞く機会って、
なかなか、ないじゃない。
そういうチャンスを
つくってやろうというのが、ひとつ。
- ──
- はい。
- 塩野
- もうひとつは、
あるおじいちゃんの一生を背負って、
「ぼくが話を聞いたおじいちゃんは、
こんな人なんですよ」
ってみんなに紹介してあげるという
聞き書きのスタイルが、
高校生には、いいんじゃないかなと。
- ──
- なるほど。
- 塩野
- おじいちゃんにしてみれば、
これまで平凡に生きてきたつもりの
自分のところに、
孫みたいな歳の高校生が訪ねて来て、
ていねいに話を聞いて、
自分の一生を文章にまとめてくれた、
それがすごくうれしかった、と。
- ──
- ええ。
- 塩野
- ただ、高校生たちも、
おじいちゃんたちもよろこんだので、
援助してくれている人たちは
「学校では教えられない教育として、
聞き書きは優れてる」
って言ってくれてるみたいだけど、
ぼくは「教育」とは言いたくなくて。
- ──
- どうでしてですか。
- 塩野
- 教育と言うなら、パスしたいぐらい。
だって、それは「結果」の話で、
それが「目的」になってしまったら、
もっといい方法で‥‥
みたいな話になっていくからね。
- ──
- 聞き書きを真ん中において
高校生とおじいちゃんとが出会う、
そのことがおもしろかったわけで、
「方法」を変えちゃったら‥‥。
- 塩野
- そもそも
何がやりたかったのかなあって、
なっちゃうもんね。
- ──
- 高校生の聞き書きは、どうですか。
読んでいて、おもしろいですか。
- 塩野
- すごくおもしろい、どれもこれも。
ぼくとは質問の中身が違うから、
ぼくが聞いた人に、
聞きに行った高校生もいるんだけど、
ぜんぜん違うものができるしね。
- ──
- あ、同じ人でも。
- 塩野
- 聞き書きのおもしろいのは、
質問が幼ければ、
そのぶんだけ、
答えがていねいになるところで。
- ──
- あ、なるほど。
答える側も、
わかってもらおうって思うから。
- 塩野
- そうそう。だから、
ぼくが聞き飛ばしてきたような話も、
高校生は、きちんと聞いてくるわけ。
あるいは、職人さんが
「わしは吉野の人間で」と言ったら、
「吉野って何ですか?」とか。
- ──
- お、おお。
ある意味、すごい「返し」ですね。
- 塩野
- そうすると、
「奈良県に
吉野というところがあるんだよ」
「そこに檜が植わってるんですか」
「植わってるんだ。
でな、これがまたいい檜で‥‥」
みたいな。
- ──
- それは、おもしろい展開ですね。
吉野が何なのかを知らずに
木を扱う職人さんに取材するって、
プロとしては
ちょっとありえないですけど、
高校生だから、
それも「味わい」になるんですね。
- 塩野
- 知らないほうが、
教えるほうはうれしいって場合も、
あるみたいだし。
「吉野、知らねぇのか?
じゃあ、話はそっからだな」
みたいな。
- ──
- それは、塩野さんがやろうと思っても、
ちょっと難しい展開ですよね。
- 塩野
- そう、聞き書きって、
そこにいるふたりでやるものだからね。
吉野を知らない高校生の
「え、吉野? わかんないっす。
どこっすか、それ?」
からはじまる聞き書き、いいじゃない。
- ──
- はい、読んでみたいです。
あの、塩野さんが聞き書きをする人は、
一般的には
さほど有名じゃない人が多いですよね。
- 塩野
- そうだね。
- ──
- 有名な人には、興味ないんですか。
- 塩野
- そうだね、あんまりない。
というか、
有名かどうかは、関係ないかなあ。
まあ、有名だと
本が売れる可能性が高くなるから、
出版社の人は勧めてくるけど。
- ──
- そうですね(笑)。
- 塩野
- ぼくが住んでる
秋田県の角館(かくのだて)ってとこは、
5000世帯ないくらいなの。
- ──
- ええ。
- 塩野
- だからさ、5000軒の家ぜーんぶに
話を聞いてまわったら、
町が丸ごとわかるぞーって思った。
- ──
- わ、すごいですね、それ(笑)。
- 塩野
- あと、若いころに
八百屋のおじさんだとか、
洋服屋のおばさんだとか、
日本中のふつうの1000人に話を聞いて、
「千人図鑑」という企画を
考えたんだけど‥‥。
- ──
- ふつうの人、1000人。
- 塩野
- どこの出版社も、
まじめに取り合ってくれなかったなあ。
- ──
- スタッズ・ターケルの『仕事!』では、
それをやったんですね。
数は130人くらいですが、職業切りで。
- 塩野
- うん。あれは、衝撃的な本だった。
<つづきます>
2017-07-18-TUE