── さて、伊勢丹からもどりまして、
あらためて座ってお話をしています。
おつかれさまでした。
何時間いたんでしたっけ。

ジョージ 11時に集まって、4時までいたから
5時間ね。これでも駆け足よ?
あっという間!
今回、お買い物はしないで
ああいうふうにずーっと売り場を歩くっていうのは
とっても新鮮だったわ!
というのは、オフの場面がなかったの。
ぜんぶ気持ちが入ってるわけよ。
基本的にデパートのステキなとこって、
上から下まで歩いても
シャットダウンされるフロアが
かならずあるってことなのね。
たとえば、こども用品の売り場は
ぼくにとっては通るだけだったのに。
あのフロアは本館からメンズ館に
移動するための場所だったのに、
じつはすっごいおもしろかった!



── ちょっとギフトの目線で見ると、
いろいろなものが見つかるんですよね。
安くておもしろいものが。

ジョージ そう!
それでね、あそこを必要としている人が
世の中にはいるんだな、
ぼくの友だちにいるんだろうか、って
思うと、一人や二人はいるの。
それで、ああ、彼ってここに来て
じぶんのこどものもの探すと、
すごい幸せなんだろうなあって、
教えてあげようかなって思えるものが、
けっこういっぱいあった。

── 今まではそうでしたよね。

ジョージ けど、これなぁに? みたいに、
目を皿にして見ちゃったでしょう。
くったびれたー!
でもたのしかった!
すっごいみっちりしてた。
それで、世の中には
いろんな人がいるんだっていうのがわかった!
あのね、「2丁目に捨てるゴミなし」
おんなじぐらい、百貨店の中には
捨てるものがないんだなと思ったわ。

── ジョージさんがおっしゃってた
「千」じゃなくて「百」貨店、っていうのが
象徴されているようなお店ですよね。

ジョージ たぶん、昔のお買い物って
あんなだったのよ。

── 昔の買い物?

ジョージ たとえばお着物。
取り寄せだったり、
あるいは何回か通っていくと
店の主人が「これどうだい?」っていうふうに、
買っていたわけでしょう。
その延長線上に伊勢丹があるの。
ショッピングモールじゃないの。
商店街が、あそこにはある。
すっごい商店街が。
ね、伊勢丹を街で表現すると‥‥どこ?
銀座じゃないでしょう。

── そうですね、銀座ではないですね。

ジョージ そして、新宿にあるのに
新宿じゃないのよね。

── といって、渋谷でもない。

ジョージ 部分的に、南青山があったり、
原宿があったりは、する。
とくに本館なんかは
表参道があって、南青山があって
その南青山の横にはかならず原宿がある。
ちっちゃい東京見物をしているような
感じがするのよね。
だけどね、メンズ館に行くとね、
部分的には表参道があったけれど、
全体として見たら、
ないのよ、あんな街は。

── あんな街は見たことないです。

ジョージ んー、銀座の裏通りっぽい感じはするかもね。
そっか、裏通りなんだ、基本的に!

── 実際、メンズ館の入り口って、
裏通りにありますもんね。
靖国通り沿いでもあるんですが、
本館から行くと、裏手なんですよ。



ジョージ あ、そうだ!
ひっそり感があるのよね。
だって、通用口の横よ?

── そう。トラックが停まってて
常に交通整理が必要なところが
入り口なんて、おもしろいですよね。

ジョージ ボクも靖国通り側からは
ぜったいに入んないもの。

── で、明治通りから行く時も、
なんだか裏道っぽいんです。
富士そばがあって。

ジョージ うん、なんかね、
江戸時代の商店みたいな感じ?
しかもね、営業時間が終わったあと
入れてもらうような感じ!
あれ全体が「セレブ館」っていうと、
ナンだけど、「選ばれた感」があるのね。
だからたのしいのかもしれない。
それでね、やっぱりね、ちっちゃい。
おそらく百貨店としては、ちっちゃいの。
あれだけたっぷり時間がすごせるにもかかわらず。
だからいいんだと思うのよねえ。
バブル絶頂の頃、
ふくらみふくらみふくらみしてた時に、
バーニーズをとりこんでいったのは
わかる気がするし、
でもいまはあのサイズだとものすごく
居心地がいいのかもしれない。
ちっちゃいんだけど大きいんだもの。
ワンフロアぐるっとまわると
途中でかならず
休憩がほしくなるくらいに
おなかがいっぱいになるんですもの。
って、じっさいはおなかがすいちゃうんだけど!

── 本館を1フロア歩くと、
あれ、まだ半分か、って
思うんですよね。

ジョージ そう!
半分から先がぜんぜん違う世界で、
たとえば、からだのおっきい
シニアの女性向けの売り場の横には
バリバリに働いている
女の人の売り場があって。
その中間にはかならず
混ざり合ってるところがある。
あのグラデーションがすっごいおもしろい。

── あれは買う人もイヤじゃないですよね。
「大きいサイズのフロア」だったら
ちょっとイヤだなと思うところを
わりとするーっと行けるところにあって。

ジョージ あれ、テナントビルだと
ぜったいワンフロアごとに
コンセプトができあがってるから
できないことなのよね。

── いっぽうでメンズ館は平気なんですよ。
「スーパーメンズ」って言い方で
大きい男はいいことだ、みたいな
こう、余裕があって。



ジョージ 他が拾ってくれない人、
よっといで、っていうね。
あの懐の深さ?
男はそれでいいの。
役割与えられて生きているから。
オレ、おっきいんだもん、
ここでしか買えないんだもん、でいいの。
けれど女の人はたえず少女だし、
太ってなかった頃のじぶんを
忘れないだろうし。
だから、ヘンにフロア分けされてると
そこでエスカレーターを
降りてしまったじぶんが悲しい。
なにこの人、って思われたら切ない。
だからあの売り場はすごいなと思った!

── どこがおもしろかったですか、
いちばん。

ジョージ ボクはやっぱり、メンズ館上から下が
おもしろかった!
本館は、見過ぎちゃってるというか、
それこそ「ボクのデパート」なんですもの!





── メンズ館より本館のほうが詳しいというのも
ちょっとおどろきでした。

ジョージ 本館は、おもしろいというよりも、
伊勢丹の人たちが思っていることと
ボクが感じていることっていうのが
ああやっぱり同じなんだ、
っていうのがわかって、
それがすごくたのしかった。
ようは、誰も彼もに
よろこんでもらうのではなくって、
伊勢丹が好きな人にこそ
よろこんでもらおうという気持ちが、
すっごい伝わってくるじゃない?
あれだけ広い売り場の中でも
やっぱり伊勢丹の人が
見せたい売り場っていうのがいくつかあって、
とくにこども用品の売り場っていうのは、
いっしょに来てくださった伊勢丹の彼女自身、
ものすごくたのしそうだったものね。
こども用品の売り場を歩いても、
「おこさまのための実用品ですよ」
っていう感覚じゃなくて、
伊勢丹の人がちゃんとたのしんでる。
そんな売り場、
ああ、ほんと、行かないのもったいない!

── ぼくらも楽しかったです。

ジョージ ほっんと、くやしーっ!

── くやしいんですか。

ジョージ だってね、たとえば、ハイジュエリーとか、
ハイブランドの鞄とか靴とか
宝石とか時計とかっていうのは
限りなくユニセックスの方に
向かっていくから
あれを、たとえば女の人が買ってるのを見ていても
うらやましいとはあんまり思わないの。
金出しゃそれのメンズがあるでしょ、
みたいな感じでしょ?
好き放題じぶんの好きな洋服を
えらべるっていうことだって、
昔はうらやましかったけど、
今になってみればメンズ館ができたから
うらやましくもなんともないの。
メンズ館さえあれば、
女の子がするようなわがままだって、
男もできるんですもの。
その点ではこころ穏やか。だけど、
こども用品売り場だけは手が出ないのよ!
だから、くやしいっ。
あそこでじぶんの血を分けた分身に
ものを買ってあげることができる
パパとかママとかっていうのは、
もうオカマにとって
いちばんくやしい存在よっ!
こっから先は歯を食いしばってね、
こどもが生まれないんだったら
いかにこの売り場を
じぶんがたのしむかよっ!



── なるほど。

ジョージ ね、みなさん、ボク、
続きがやりたいんだけど。

── あれ? 全部見ましたよ。

ジョージ 抜けてるの。下着よ。婦人ものの下着!
さすがにこのメンバーひきつれて
入っていけなかったのよ‥‥。
下着についてはもっと喋りたい。
あと、香りのことももっと知りたいし、
おしゃべりしたい!
アレ? 伊勢丹出入り禁止になってないわよね?

── 大丈夫だと思います(笑)。
では、今回はここでいったん中締めにして、
また機会をつくりましょう!
ありがとうございました。

ジョージ こちらこそっ。
戻ってくるわよーっ! フガッ。

 









































































■2丁目に捨てるゴミなし
ディズニーの美女と野獣を見ていてね、ラストシーンで「なんであんな魅力的な造形の生き物が、のっぺりとしたタダの美男子になっちゃったの?」。勿体無い、ってココロから思える人が2丁目にはいるの。それも沢山。社会的な良し悪しじゃなくて、自分が良いと思うコトに正直で誰の目を気にすることなく付き合う相手を選べるボクら。みんなどこかに収まるべきところに収まる不思議なジグソーパズルのような2丁目。ステキでしょ!










■銀座という街
誰もが高級と思うであろうモノが集まっている街。あるいは、誰もに高級と認めてもらおうと思って必死に目指してやってくる街。でもいまや「誰もに」とか「誰もが」という言葉そのものが、陳腐で滑稽で頼りないコトになっちゃってるのよね。だから最近の銀座の街は、ちょっと滑稽。高級をモチーフにしたテーマパークみたいな街になっちゃった。
■新宿という街
「大きな田舎」としての東京の象徴のような街、それが新宿。駅前に商店街があり、そのはずれには歓楽街がひかえてる。そんな街が日本のいろんなところにあって、その典型的でとても大きな事例が新宿。商店街が百貨店で、歓楽街が歌舞伎町。田舎育ちのボクにもわかり易かったのは、かつて見た街にどこか似ているところがあるからなんだろうと、思うのネ。
■渋谷という街
若い子たちが、おじさん、おばさんをバカにしようとやってきて、独特な風俗、文化を生み出して、それがあまりに独特だからと、おじさん、おばさんにバカにされるという循環でできている街。よくわからない(笑)、だってワタクシ、オトコのおばさんなんだもん。




























■富士そば
東京の立ち食いそば世界の頂点近くに君臨するチェーン店よね! 新宿3丁目界隈にも何軒かある。20代の半ばのコト。2丁目のバーで売れそこなったの。そろそろ始発が動く時間で、とぼとぼ歩いて新宿駅に向かう途中に24時間営業の富士そばみつけて飛び込んで、ちくわの天ぷらのっけた蕎麦をたのんだら、ちくわの天ぷらは全部売れてしまったっていう。ちくわの天ぷらさえ売り切れたのに、なんでボクだけ売れ残ったの? って、それはそれは悲しかったわ。だから今でも富士そばみると、胸がキュンと切なくなるの。
■江戸時代の商店
お客様との人間関係を得るために、心を尽くして相手のよろこぶコトを一所懸命してあげる。その結果として、モノが売れて繁盛をする。それが江戸時代のよき商店の商売だったと思うのネ。つまり日本の江戸には、「サービス業としての小売業」がもうあった。その良き伝統がいろんなところで途切れてもおり、途切れずずっとつながっているステキなところもあるのが、平成日本の商店。見極めなくちゃいけないわよね。
■伊勢丹でおなかがすいたら
伊勢丹の人を売り場で探して捕まえて、「おなかがすいた」って聞いてみましょ! だって伊勢丹の上から下までおいしいお店がたくさんあって、迷ってるうちにお腹が空きすぎて倒れちゃうかもしれないんだもの。ステキなアドバイス、いただけますわよネ‥‥、お願いしますわ、よろしくね。















































































































































■こどもを持たない人生
こどもを持たない人生っていうと、強がりのように聞こえるかもね。オカマの人生は、こどもを持たないんじゃなくて、こどもを持てない人生なのよ。さみしいわよね。でも負けないの。こどもが持てないんだったらね、自分の中にこどもを持てばいいじゃない。こどものムジャキや、こどもの貪欲な好奇心。それをずっと心の中で育てていくの。自分の中にオンナとオトコを活かしておけるほがらかさんなら、こどものひとりやふたりを自分のお腹の中に産んで育てることは簡単。ひとり家族になってやる!



























‥‥というわけで、長らくの連載、
お読みくださりありがとうございました!
ジョージさんのおっしゃるように
またなにかたのしい企画でお目にかかりましょう!
2012-08-03-FRI