糸井 |
作品の話に戻るけど、このあいだ出された
石川さんの『最後の冒険家』、
あれ、本当におもしろかったです、ぼく。 |
石川 |
ありがとうございます。 |
糸井 |
エリックはわからないかもしれないけど、
この人、ものすごく文章うまいんですよ。
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エリック |
ボクにも、わかりますよー。 |
石川 |
エリックもちゃんと読んでくれたんです。 |
糸井 |
うまいということを人にわからせない
うまさがあるんですよね。
もう、あきれるなぁってくらいに。 |
エリック |
へぇー。 |
糸井 |
何というか、ずーっと醒めてるというか‥‥
正気を保ってるんだよね。
こんな姿になって漂着したハコのなかで、
冬の太平洋を漂流してたっていうのに。

石川直樹『最後の冒険家』(集英社刊) |
石川 |
ええ。 |
糸井 |
で、タイヘンだと思った‥‥とかさ、
ま、書いてはあるんだけど、
それ以上には、書いてないんだよなぁ。 |
エリック |
うん、うん。 |
糸井 |
つまり、生きるか死ぬかの瀬戸際で、
タイヘンなんてもんじゃなかったはずなのに。 |
石川 |
あの‥‥よくある冒険とか探検の本って
ことさらに強調をしたり、
必要以上に
ドラマチックに書いたりするじゃないですか。 |
糸井 |
そうだね。 |
石川 |
ぼく、そういう本をたくさん読み過ぎちゃったのか、
あまりに主観的な書き方をした文章って、
なんか自分に伝わってこないんです。
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エリック |
ふーん‥‥。 |
石川 |
そうじゃなくて、
あるがままを、そのまま書いて、
それが事実として本当におもしろければ、
充分に伝えられる。
そういうふうに、思っているんですね。
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糸井 |
なるほどねぇ。 |
石川 |
これは、写真を撮るときも同じなんです。
あるがままを、あるがままに、撮る。 |
糸井 |
うん、うん。 |
石川 |
森山(大道)さんもどこかで言っていましたが
雨が降っていたとしたら、
雨が降っている様子を、そのまま撮ればいい。
それを、なにかこう、叙情的に撮ったり、
ドラマチックに撮ったり、
そういうことをするつもりは、全然ないんです。 |
エリック |
ふーん‥‥。 |
石川 |
写真って、風景をフレームで四角く切るから、
どうしても
自分の美意識とかが前に出てきちゃうんですけど、
なるべく、その意識の部分を排除して、
ぼくは世界を「受けとめる」ように撮っていきたい。
「切り取る」んじゃなくて、ね。
それが自分の、まぁ‥‥考えかたなんですね。 |
糸井 |
受け止める‥‥受け身。 |
石川 |
写真でも文章でも自分の作品に関しては
そういうことを考えながら作ってます。 |
糸井 |
写真と文章で、方法論が一致してるわけだ。
これまでのいろんな経験が、
そういう写真家をつくってきたんだろうね。
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石川 |
たとえば、ぼくは高校生のときに
インドやネパールに一人で行って、
ホントにものすごい世界があるんだってことを
目の当たりにしたんですが‥‥。
そこで、けばけばしく飾り立てて書いても
しょうがないんじゃないか、
ありのままを書くだけで
それだけで世界はおもしろいのに‥‥って気持ちを
強く持つようになったのかもしれません。 |
糸井 |
なるほどなぁ‥‥。
エリックは、写真について、どう思ってるの? |
エリック |
はい、写真屋さんのときに思ったのは、
写真って、
人のたいせつなものが、写るわけです。
その人の生活とか、人生とか。 |
糸井 |
うん、そうだよね。 |
エリック |
たとえば、
ずっと来てくれているお客さんの家庭風景を、
ボクは、知っているじゃないですか。
お店には10年いましたから、
その人が結婚をして、赤ちゃんが生まれて、
その子が幼稚園に行って、
小学校に行って‥‥そのぜんぶの過程を、
10年間、ぼくは見つめてる。
子ども、大きくなったねぇ‥‥とか(笑)。
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糸井 |
ああー‥‥。 |
エリック |
そういうことに、すごく感動させられる。
そういうとき、写真ってすごいなーって。 |
糸井 |
これ、ものすごくイヤな言いかたを
あえてするんだけど、
写真って‥‥
ある意味「ドロボー」じゃないですか。 |
エリック |
そうですね‥‥そうです。 |
糸井 |
でも、いまのエリックの話を聞いていると、
同時に「カミサマ」でもあるわけだよね。 |
石川 |
ああー‥‥。 |
エリック |
うん、うん。写真はカミサマです。 |
糸井 |
ドロボーでもあり、カミサマでもある‥‥。 |
エリック |
だから、すごいんだよねー、写真って! |
石川 |
やっぱり、ぼくたち写真家は、世界に対して
いかに「驚き続けられるか」だと思うんです。
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糸井 |
なるほど。 |
石川 |
逆に言えば、
驚くことができなくなってしまったときが、
たぶん、何に対しても
シャッターを切れなくなるときだと思う。
世界を知ったつもりになって見切ってしまわずに
ずっと驚いていられるか、どうか‥‥。 |
糸井 |
それって、つまり
「絶えずスタートラインに立ち続ける」って
ことでしょう? すごく難しいことだよね。 |
石川 |
だからこそ、
構図とかを考えて
風景を切り取っていくやりかただと、
いつか、驚くより先に変な自意識が前にでてきて、
せっかくの出会いや偶然を受け入れることが
できなくなっちゃうんじゃないかって、
直感的に思っているのかも知れません。ぼくは。 |
糸井 |
だから「受け止める」ようにして撮ってるんだ。 |
石川 |
ええ、たぶん。 |
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石川直樹『VERNACULAR』(赤々舍刊)より |
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エリック『中国好運』(赤々舍刊)より |