糸井 |
『太閤記』は、
カラーじゃなかったんですか?
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石坂 |
白黒でしたよ。
『太閤記』の次の年は、
『義経』だったじゃないですか。
尾上菊之助(現・尾上菊五郎)さんが義経で、
藤純子(現・冨司純子)さんが出ていて、
それでふたりは夫婦になったんだもん。
藤純子さんは静御前だった。
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糸井 |
そうなんですか。
それで、寺島しのぶが生まれたわけだ。
NHKのおかげですね。
そう言えば、
昔の映画やテレビのスターたちって、
コワイ人もおおぜいいたわけだけども、
石坂さんは、
そのへんをどう見ていたんですか?
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石坂 |
あの頃、東映のヤクザ映画で、
刀を振ってるの、
ぜんぶホンモノのその筋の人たちでしたからね。
それで撮影所を、
大勢ひきつれて歩いてる……
鶴田浩二さんとかああいう人は
ひとりでは歩かないんです。
うしろに十人ぐらい、
ホンモノがついてきていて……
それで若山富三郎さんのところの若いのが、
鶴田浩二さんの若いのを呼んで
殴りあいになっただとか、
そこに鶴田さんがバーッと来て
「てめぇら静かにしろ!」と張り倒したり。
ぼくはかっこいいなぁと思って見てた。
そういうことが、撮影所の中で
しょっちゅう起こっていたんだ。
すごいやね。
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糸井 |
(笑)いや、かっこいいかもしんないけど、
若干困る……石坂さんは、
生意気っていってもそういうことはないもんね。
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石坂 |
ぼくには、そういう意味の生意気さはない。
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糸井 |
歌謡界に伝わるような、
豪快な男女のエピソードもあったりしたんですか?
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石坂 |
歌の世界と芝居の世界は、また違うんです。
昔、日劇でバイトをしていて、
紅白歌合戦はそこでやっていたから、
人受け(出演者のアテンド係)をやったことあるもん。
歌手を呼びにいくんだけど……
偉いさんは、なかなか出てこないんだよね。
何をやっているかというと、女とくっついてる。
今、活躍している人で、呼びにいって、
やってるところを見たこと、あるもん。
これは芝居とは違う世界だなぁとは思った。
芝居はせいぜい、それぞれの巡業地に
かならず女がいた人がたまにいるとか、その程度。
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糸井 |
芝居の世界の派閥というのは、
どういうものでしたか?
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石坂 |
ありましたね。
大きな勢力を持つ一派がいくつもありました。
一派に入ると何が困るかっていって、
他のやつのところには出られなくなる……
一座とおんなじですよね。
大部屋俳優さんも、
一派に入れば他に出られなくなるから、
食えない食えないといいながら
バーで働いていたりするんだもん。
それと、一派に入ると
おいそれとはやめられない。
今はそういう役者さんも
いないのかもしれないけど、
テレビも映画も一派がたくさんあって……
日本人、
そういう派閥みたいなのが好きなんだ。
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糸井 |
そういう意味では、石坂さんって、
ほんとに全部の国のパスポートを
持ってるみたいなところがあって、
あらゆる場所に出ていますよね。
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石坂 |
それは、派閥は入らないようにしろって、
フランキー堺さんに言われたの。
フランキーさんは慶応で、
学部もおなじ先輩だったんです。
慶応の頃から
ジャズドラマーをやっていた人で……
フランキーさんからは
「映画界には派閥があるけど、
そういうところに入っちゃうと終わりだよ。
決まったものしかできなくなるよ。
どうせ利用されるんだから」
と言われました。
フランキーさん、
昔、大きな派閥との戦いがあったみたいでした。
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(石坂さんとの会話は、ここでおわりです。
またいつか、石坂さんと長く話しあった時に、
誰も知らない時代の
テレビ論のつづきをきけるかもしれません。
ご愛読を、どうもありがとうございました)
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