ほぼ日 | 伊丹十三さんという人は、 名店と呼ばれるおいしい店に 若い友人を誘い出して、 教えるでもないけれど、教える、 というような、矢吹さんにしたようなことを、 わりとみんなに? |
|||
矢吹 | うーん、わからないです。 | |||
ほぼ日 | ということは「伊丹組」みたいな 横のつながりは、ないんですね。 |
|||
矢吹 | そういうのはなかったけれど、 後から、本やなんかで、 だれそれさんをかわいがっていて、 というような話を知りました。 そんなふうに、ときどき、 自分の仕事がらみで知り合った若い人を、 育てたくなるのかもしれないね。 育てるっていうか、 かわいがるっていうか、 なんて言うのか、わからないけれど。 |
|||
ほぼ日 | 「教える」とは違いますものね。 | |||
矢吹 | うん、教えないよ、全然。 呼び出して、体験させてくれる。 そんなふうな中に、 何度か家に呼ばれたことがあって、 そこで食べたのがこの「芋たこ」なんです。 |
|||
ほぼ日 | はい。これがその「芋たこ」。 里芋と、たこの、煮物ですね。 |
|||
矢吹 | どうぞ、おめしあがりください。 | |||
ほぼ日 | いただきます! ‥‥おいしいです。 |
|||
矢吹 | そう(笑)。 | |||
ほぼ日 | とってもおいしいです。 これは、お酒がほしくなりますね‥‥。 |
|||
矢吹 | お酒も、どうぞ、どうぞ。 (家に)いらっしゃいって言われて、 わりと早めの明るいうちに行ったら、 伊丹さん、なんか仕事してるらしくて、 「これ」って。 目の前に料理を置いて、 いなくなっちゃったんだよ。 |
|||
ほぼ日 | 呼んでくれたのに、仕事中なんですか。 | |||
矢吹 | でも、仕事中だとは言わないんだよ。 | |||
ほぼ日 | ただ、ぱっと‥‥。 | |||
矢吹 | 置いていなくなっちゃう。 | |||
ほぼ日 | それが、芋たこ。 | |||
矢吹 | 「ちょっと失敗作だけど」って。 | |||
ほぼ日 | ほんとに失敗作だったんですか。 | |||
矢吹 | そうは言うけれど、 ちゃんと家庭惣菜風の芋たこだったよ。 「辻留」さんなんかがつくったら、 生たこから、たこはたこで煮て、 芋は芋で煮て、 最後に盛りつけるんだけれど、 伊丹さんは二つ合わせて煮るみたいな、 やや家庭惣菜風になっていた。 本来はどういうものをつくろうと 思ってたのかわからないんだけれど。 |
|||
ほぼ日 | ということは、作り方は‥‥。 | |||
矢吹 | 教えてもらっていないよ。 | |||
ほぼ日 | ありゃ、やっぱり教えてはくれないんだ。 | |||
矢吹 | こんな味だったな、という再現です。 ほんとうの伊丹式は、わからない。 |
|||
ほぼ日 | 添えてある茗荷は、伊丹さんから? | |||
矢吹 | これはね、伊丹さんじゃないの。 どこかのお店で食べてね、 ちょっと普通の甘酢漬けとちがうから 訊いたら昆布で〆てあるんですよ、っていうの。 それ以上は教わっていないんだけれど、 甘酢に昆布の刻んだの入れても いいんだろうけどさ、 ぜいたくに挟んでみたんだ。 |
|||
ほぼ日 | おいしい‥‥ますます、お酒が。 | |||
矢吹 | どうぞ、どうぞ。 お椀も、いかがですか。 |
|||
ほぼ日 | ありがとうございます。 これはなんですか? |
|||
矢吹 | はははは。 ありものです。 |
|||
ほぼ日 | お魚? | |||
矢吹 | 鮭の塩びきをお酒でちょっと戻して、 生臭いですから、はりしょうが。 |
|||
ほぼ日 | ああ‥‥おいしいです。 矢吹さんは、伊丹さんから、 マナーみたいなことも、学ばれたんですか。 『ヨーロッパ退屈日記』に 書かれているようなこと。 |
|||
矢吹 | ふふふ、伊丹さんは、 マナー、すごくひどいよ。 |
|||
ほぼ日 | え、そうなんですか! 知らなかった。 |
|||
矢吹 | 知らないでしょ。 | |||
ほぼ日 | ぜんぜん知らないです。 | |||
矢吹 | そりゃさ、タキシード着ているようなときは、 知らないよ。 でも家にいるときとか、 我が家に来たときもさ、 その辺の床に転がってさ、 足を家具へ乗っけるの。 |
|||
ほぼ日 | 自分の家みたいに? | |||
矢吹 | でも自分の家じゃないんだよ。 本人はそんなふうだったけれど、 伊丹さんの本からは、 知らないことは、ずいぶん勉強しました。 アーティチョークの食べ方とかね。 |
|||
ほぼ日 | 『ヨーロッパ退屈日記』に出ていますよね。 こうやってしごくんだ、って。 |
|||
矢吹 | 食べるところ、ほとんどないんだけれどね(笑)。 | |||
ほぼ日 | あと、あの本で、 アルデンテを教えてくれたのは、伊丹さん。 |
|||
矢吹 | そうそう、あれもそう。 それまで、うどんのような スパゲティーしか知らなかった。 だいたい自分で茹でるものでは ないと思ってたからね。 |
|||
ほぼ日 | 食べ方も、載っていましたよね。 | |||
矢吹 | そうそう。巻き方ね。 | |||
ほぼ日 | お皿にスペースを空けて数本をとり、 フォークの先を皿に軽くおしつけて 皿から離さず時計回りに巻く、っていう。 |
|||
矢吹 | うん。 あとから、雑誌で 「文人ごはん」という連載をしたときに そのことを書いたよ。 (スクラップをひろげて) これがそうです。 |
|||
ほぼ日 | スパゲッティ・アル・ブーロ。 バターとパルメザンチーズ‥‥ あ、夜食にしたり、 おなかをこわしたときに食べる、 おかゆのような存在のパスタですね。 このイラストには見覚えがあります。 |
|||
矢吹 | イラストレーションは、 伊丹さんの模写です。 |
|||
ほぼ日 | 伊丹さんはイラストレーションが ほんとうに上手ですよね。 |
|||
矢吹 | 上手だよ。 やんなるほどうまいよ(笑)。 (おしまい) |
2009-07-29-WED |
|
|